学校の怪談
第20話校庭の片隅で遊ぶ子供の話
シンタは五年生になって直ぐの頃に、飛行機の距離から伏木市に引っ越して来た転校生だ。
好矢見町の噂は全く知らず、たまたまオカルト好きのクラスメイトから話を聞いてBouTubeを幾つか視聴して転校して来た。
勿論、最初は信じていなかった。それどころかあまりにも漫画、ラノベ的な内容に爆笑したほどである。
しかし、転校生初日から『伏木小学校でのルール』を聞かされて、ぽかんとした後我慢できず失笑してしまった。
『え、マジでやってたンだ?』
と言外に分かる程に小馬鹿にした態度。当然、それが分からない程鈍感では無い。
寧ろ、そう言った機微が読み取れないようではこの町ではやって行けない。
勿論、このくらいは彼らも想定済みだ。この町に新しく来た奴らは大抵、最初のうちは此方を小馬鹿にしてくる。
何かヤバい宗教団体か因習村か、何て。
そして、ルールを破って初めて後悔するのだ。
それが一生の
シンタは転校して驚いたのは、学校が終わると放課後は皆バスに乗って速やかに帰されると言う所であった。
居残って校庭で遊んだり、校内で部活動も無い。
ただ、遊びたければ自分達の町内で遊ぶか、部活も町外でするしかない。
「あ、さっきも言ったけど、帰りに校庭の端っこで遊んでるヤツらがいるけど絶対ジッ、と見たりすんなよ。殺されるから」
断言する物言いにぎょっ、としたしどう言う事なのか全くわからなかったが、下校時間になって直ぐに分かった。
帰りの会もそこそこに、生徒も先生も一斉に教室を出る。その様子はまさに訓練された者の動きである。
シンタは戸惑いつつも付いて行く。
すると、階段の辺りで少し停滞したのでどうしたのかと思えば如何やら原因らしき情報が流れて来た。
「おい、アイツらオレらに近い場所で遊んでるっぽい、って!」
「ゲッ! ウソだろヤバいじゃん、おーい、みんなっ! 下向いて絶対顔上げんなよーっ!」
と、色々と注意喚起が飛んでくる。その異様な光景にシンタはぽかんとするしかない。
「シンタ、聞いてたか?バス停まで下向いて、オレらが良い、って言うまで絶対顔上げんなよ」
「怖かったら校舎側に顔向けてたら良いよ」
クラスメイト達はアドバイスしてくれたが、シンタは怖い、と言うよりも好奇心が湧いてきた。
”放課後、校庭の隅で遊んでいる子達が居ても決して近付いてはいけない。目が合ってもいけない。もし、目が合ってしまったら諦めて遊び相手にならないといけない。“
それの何がいけないのか。遊び相手になってやれば良いじゃん、とシンタは思った。
何故かシンタはクラスメイト達からそんな事をしたら死ぬぞ、と言う忠告が頭から抜けていた。
もし、ここでオレが顔を上げてアイツら見たらウケるんじゃねえの?
何故そんな事を思うのか。しかし頭の中で考えた事なので、それを知り、止める者は居ない。
シンタは皆が驚くだろうな、と思って校庭を出るまでは従う振りをして階段を下りた。
皆が俯き粛々と歩く中、シンタはちらと校庭側を見た。
確かに、何かが遊んでいる。しかし目と鼻の先と言う程近いと言うのに、何故か男なのか女なのか分からない曖昧なシルエット。
どうしよう・・・・・・。
どうしようも何も、やらなければいい話なのに何故かシンタの中では実行する事が決定事項のようになっていた。
そう、此処で男を見せるのだ、とシンタはバッ、と顔を上げて其方を見た。
あ・・・・・・────。
笑っている。シンタは思った。
例えるなら、眼鏡をかけている人が眼鏡を外すと色々なモノがぼやけて見える、と言う話があるが校庭で遊ぶモノはまさにそんな風に見えた。
だからそれ程ぼやけているモノが笑っているのか怒っているのか分からないのに、シンタはその時ソイツらは笑っている、と確信していた。
しかも、悪意に塗れた厭らしい笑顔だ。それは子供が浮かべて良い笑顔では無い。
「あ、わ・・・・・・ああ・・・・・・」
誰もシンタを助けない。だって、そんな事をしたら自分も巻き込まれるからだ。
そして結局、誰も助からない。
シンタは子供の姿をした何者かに腕を引っ張られ、何処かへ引き摺られて行った。
「た、助けて・・・・・・ッ!」
シンタの叫びも虚しく、クラスメイトも先生も、必死に其方を見ないようにして通り過ぎていく。
粛々と、俯き歩くそれは傍から見ればまるで、葬列のような。
「いぎゃ・・・ッ! おがぁざ・・・・・・ッ!!」
悲鳴の後、聞いたことが無いような怪音が校庭に響くが、皆其方を見る勇気は無い。
そうでなくとも、風向きで流れて来る鉄錆のような臭いと人糞の臭いが漂ってきているのだ。とてもじゃないが何が起きているのか、想像するだけで怖くて確認なんて出来ない。
「ひぃ・・・・・・っ」
「うぐぅ・・・・・・」
皆、声と吐き気を堪えて涙目になりながら足早に通り過ぎた。
声なんて聞こえない筈なのに何処からか、子供達の無邪気な笑い声が聞こえたような気がした。
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