第14話

祇鏖ぎおうは慣れた様子で、激しく降り注ぐ雨の中4WDを走らせた。

 宵闇町は車やバイクの交通量は極端と言ってもいい程に少ない。朝や夕方の一時だけ、バイクや自転車、車が近辺を走る様子が見られるが、日中や夜はほぼ走っていないし住民達が走るコースも大体決まっている。



 宵闇町では夜、ましてや丑三つ時に車やバイクの音が聞こえたら、それはまず先に怪異的な現象を疑うべきである。



 そう言った事もあって、宵闇町では信号はあるが動いてはおらず、ほぼオブジェのような扱いだ。 

 しかしそれでも祇鏖の運転は危なげなく、静かな住宅街を駆け抜けていく。



 町外であれば一般的な国道くらいはある広い道路に出た車は、そのまま道なりに少し走っていたが徐々に幅を寄せて歩道側に寄せて止まった。



 普通であれば路上駐車で違反切符を切られそうなものだが、此処ではそう言ったルールがあって無いようなものなので祇鏖だけでなく車を所有している者は大抵、こういった場所に停車する。

 今も、色々な車種が路上駐車をしているが持ち主は高架下の店か駅へ行っている事だろう。



「少し待て」



 そう言って傘を片手に運転席を出た祇鏖は傘を差し、ふたりが座る後部席のドアを開けて手を差し出してきた。



 祇鏖の手を借りて慈雨達は車を降りて高架下へ向かった。



「さて・・・・・・」



 纏わりつく子供達を促しながら歩くが、色々な店舗が並ぶ高架下を前に祇鏖は少し悩む。

 祇鏖自身は酒があれば食事は特に要らぬ性質であったが、慈雨と暮らすに当たってそれではいけないと慈雨の前では三度きちんと取るようになった。なので、祇鏖自身は慈雨が作った、又は準備してくれたご飯以外は食べる気はないのだが・・・・・・。



「祇鏖さん、僕からあげ食べたーい」

「ボクはハンバーグが良い!」



 ふたりが食べたい物を考慮するなら入る店は限られてくる。



「・・・なら、此処にするか」



 そう言って歩を進めたのは比較的綺麗な見た目のお食事処「眠猫ねむねこ」、と言うお店であった。

 此処は食事が美味しいのは勿論、何よりも取り扱っているので祇鏖は秘かに贔屓している店でもあった。



「いらっしゃい」



 中に入ると、穏やかな声とともに出迎えられる。

 カウンターの向こうに居たのは、中性的な印象の店主だった。年齢は三十代くらい。肩まで伸ばした癖のある髪はブリーチを掛けているのか、白金色をして少しぱさついていた。

 しかし花顔柳腰かがんりゅうよう、と言う女性を褒める言葉がよく似合う男性であった。



「祇鏖さん、いらっしゃい。お席空いてますから、お好きな所にどうぞ」

「ああ、ありがとう」



 常連らしい祇鏖は、慣れた様子で奥の座敷席へ向かう。

 三人が座るとお茶とおしぼりを持って店主────珠緒、通称をお珠と呼ばれる猫又の雄猫が柔らかな笑顔を幼いふたりに向けつつ、ごゆっくり、と言う言葉と共にお茶とおしぼりを置いた。

 頭にピンッ、と尖った三角の耳と立派なふさふさの尻尾がある。



 ラグドールなどの、長毛種のような印象だ。



「日本酒はあるか」

「そうですねえ、『臥龍』とか祇鏖さん好みのキレの良いヤツありますよ」



 じゃあそれで、と言うとメニューを見ながらはしゃぐ子供達を見る。



「お前たちはどうするんだ?」



「僕、からあげ定食」

「ボクねー、ハンバーグとエビフライのミックス定食!」



「からあげとミックスですね、祇鏖さんはつまみはどうされます?」

「・・・ああ、そうだな・・・・・・焼き鳥を頼む」



 珠緒は頷いて、座席を離れるとカウンターの奥へと戻って行った。



 初めて来る店に、慈雨はぐるりと店内を見渡した。そこそこの広さの店内は、カウンター席とテーブル席が二セット程と座敷席がふたつ。今はカウンターが半分とテーブル席がふたつ共埋まっている。

 店主が妖であるからか、人間より妖の客の方が多く座っている印象だ。



 暫くして先に祇鏖の酒が運ばれきて、そこから更に慈雨達の定食が運ばれてきた。



「お待たせしました、からあげ定食とミックス定食です」



「わー、美味しそう~」

「ねーねー、ボクのエビフライとからあげ一個交換しない?」

「え、良いの? するする!」



 慈雨と桃瑠はわいわいとやり取りしながら晩ご飯に有り付いた。



 そして次に祇鏖の焼き鳥がきたが、慈雨達に奪われて一本だけしか食べられなかったが祇鏖は美味い酒に有り付けたのでそれで良しとした。

 その後三人は銭湯に行き、慈雨は宿題をして21時に就寝した。 

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