第15話

「・・・・・・ふーん、それで❝入り口❞は見つけられなかったのね?」



 そう言ったのは、キュッと吊り上がった目元が特徴的な少女だった。

 襟には白いピコレースをあしらい、裾に施された共布のフリルが可愛らしい紺色のワンピースを上品に着こなして、背を流れる程の艶やかな黒髪を、蟀谷の両側を少量だけまとめて残りの後ろ髪は全て垂らした髪形をしていた。



「そうは言うけどさあ、時間制限あんだからムリだってえ」



 責められたと感じたのか、ナオヤは口を尖らせながらキッコを見た。



「そうね、確かに一回や二回くらいで見つかるとはわたしだって思ってないわ」



 キッコはそう言って肩を竦めた。その、こまっしゃくれた言動は人によっては好悪が分かれそうな所だが、大人びたその様子はしかし堂に入ったものだ。



 四人は今、半ば彼らのたまり場と化した大黒堂に居た。

 大黒堂は雑貨屋だが、今時のお洒落な小物や文具などを置いているような店では無くて、昔からある生活に根付いた雑貨屋であるので店の軒先には鍋釜等の生活に基づいたような金物から、子供向けのつもりなのか申し訳程度に駄菓子も置いてある。



 ナオヤは此処の麩菓子が好きで、よく買い食いしていた。



 そして今日も今日とて、彼らは当たり前のように大黒堂で駄菓子を買い食いしてだべっていた。



「まあ、今回はダメだったけどは頑張ってね」

「そんなふうに言うけど、キッコは一緒に行かないの?」



 ユキオのもっともな言葉に、キッコは目を細めてキュッと唇を笑みの形に吊り上げる。



「わたし、こう見えても忙しいから。ごめんなさいね」



 俺だってそんなにヒマじゃないんだけどな、とユキオは思わなくは無いが口に出さずにいた。そんな事をしても、不毛な争いしか起こらないからである。



「でもまあ、そのうちわたしもあっちにお邪魔する日が来るだろうけど・・・・・・それはまだ、今じゃないわ」



 キッコが意味深長な事を言って、くふふと含み笑いを浮かべるのを悪童達はやれやれまたかよ、と苦笑いするしかないのだった。



 彼女の意味深な言動は今に始まった事ではない。大抵は、後々事件を解決するのに一役買ってくれているから今はキッコの好きにさせるしかないのだ。



「次はいつ・・・・・・」



 何時行こうかとナオヤが言い掛けた時キッコはニンマリ笑った。



「そうね、今週の土曜日に行ってもらおうかしら」



 あまりにも早い決行日に、三人は悲鳴を上げていた────。



『・・・・・・』



 そんな四人のやり取りをじぃっ、と見る者があった。ドブネズミの目と耳を借りて、大黒堂の屋根裏の隙間からそのやり取りを見ていたのは艶鵺えんやであった。

 艶鵺は大黒堂から随分と離れた場所に停めた車の中から、四人を盗み見ていたのだ。



 ふーん、なるほど。



 このキッコと言う少女、如何やら悪ガキ三人組とは違う思惑があるように見える。



「・・・・・・なぁーんか、あんまり良い感じしないなあ」



 まあ、宵闇町に関わろうとする時点で碌なモノでは無いが。

 


 コレは調べ甲斐がありそうで。



 艶鵺は車を発進させ、閑静な住宅街を抜け出した。

 子供達はまだまだ此方に来るつもりらしいので、まだまだ警戒を続ける必要がありそうだと報告しなければいけない。



「流石に、お子ちゃま達に侵入されるほどの結界は甘くありませんけど・・・・・・ねえ」



 眉間に皺を寄せ、不機嫌を隠そうとせずに呟いた。

 子供に如何こうされる程やわではないが、しかしあまりおいたが過ぎるようならそれなりに対応せねばならないだろう。 

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