第13話
桃瑠が辛辣な事を言うのを聞いて、
「確かにそうかもしれんな・・・・・・強い力を揮うのは・・・さぞ、楽しいだろうな」
この場に居る誰よりも霊力も力も強い
「・・・いや~~~、しっかし誰ですかねえ? あのガキんちょ達に”力”を与えたのは」
「そうだな、確かに気になる。・・・・・・艶鵺、済まんが頼まれてくれるか」
祇鏖がそう言うのを、
「ええ、良いですよ。それじゃあちょっと出張に行かせて貰いましょうかね」
大人達の会話にいまいち着いていけないものの、自分の為に動いてくれているのは確かだと、慈雨は申し訳なさそうに艶鵺を見た。
「あの、艶鵺さん・・・・・・ごめんなさい、ありがとうございます」
「んン~~~、良いんだよ慈雨君。一応コレも私の仕事のうちだからね」
それに、一応手当ても出るし美味しいと言えば美味しい仕事だ。
そうこうしているうちに、夜勤者が出勤してきたりと詰所が賑やかになって来て、祇鏖達が退勤する時間になった。
五人が警備員詰所を出てナカヨシヤへ向かうと、木戸は閉じられたままだった。
なので慈雨達は木戸の右側の引き戸を引いて中に入って行った。
「あら、お帰りアンタ達」
これくらいの時間になると、今度は高校生、又は会社帰りのサラリーマン等で賑やかになり始める。もんじゃ焼き用の座敷の二席は、既に部活帰りの高校生とサラリーマンで埋まっていた。
「ただいま、ヨシコちゃん」
「大丈夫だったか、ヨシコ」
祇鏖が声を掛けると、忙しそうに客の相手をしていたヨシコは苦笑いしながら頷いた。
「ありがと、流石に此処は気付かれなかったわ」
ヨシコはそう言いながらふと、眉を顰めながら祇鏖を見上げた。
「・・・・・・でも、あの子達に情報提供者が居るみたいなのよね」
「矢張りそうか・・・・・・」
好矢見町はオカルト的に有名でも、ただそれだけで新幹線の距離を来るには、小学生には現実的な話ではない。
何かしら、余程の動機が無くては難しいだろう。しかし、その動機が分からない。
慈雨と同級生らしいが・・・・・・ふむ。
ヨシコに見送られてナカヨシヤを後にした五人は、やや閑散とした商店街の中を歩いた。
ルールがあるので17時が近い時間帯になると、自然と皆家路を急ぐようになる。
その代わりのように、酔いどれ横丁は賑わい始める。横丁の外も中も既にサラリーマンやOL、家族連れでいっぱいであった。
その狭い小路と人込みを何とかすり抜け、悪童三人衆が見付けたかった宵闇町の入り口となるドアの前まで来た。
ロッカールームの中も、矢張りと言うか出入りする人で賑やかであった。
「ねえ、今日は晩ご飯どうするー?」
「うーん。そうだなー・・・祇鏖さんは何が食べたい?」
桃瑠の質問に、慈雨は隣のロッカーに居た祇鏖に聞く形で投げた。
「む? いや・・・・・・そうだな、たまには高架下の方にも行ってみるか」
高架下、と言うのは宵闇町の中にある『宵闇駅』下の、酔いどれ横丁的な飲食店が並ぶ場所があるのだ。
其処はより一層、妖が多い場所であるがまさにこの世のものではない美味い物を食わせてくれる店も多い。
「わーい、ドコ行く? ドコ行く?」
桃瑠はわくわくした顔で祇鏖を見た。
「んー? そうだなあ・・・・・・さてどうするか。向こうで決めよう」
そう言って上着を羽織ると慈雨の頭を撫でた。
「其処で待っててくれ、車を回してくる」
ふたりに言いおいて、祇鏖は車を取りに行った。
それを見送った慈雨達は、宵闇町側のガラスの引き戸の側で車を待つ。
激しい雨の中を、住民達は歩きだったりバイク等で各々帰路に着いて行く様子を横目に慈雨は桃瑠と何処に行くのかな、と話し合った。
少し待っていると、真っ黒な4WDがふたりの前で止まる。
小柄なふたりは4WDの高いステップに苦心しながらも登り、後部座席に座った。
「ふたり共、シートベルト締めたか?」
背後のふたりをバックミラーでチラと見やる。
「オッケー! ボク締めたー」
「僕も出来た!」
元気に答えるのを聞いて、祇鏖はハンドルを回して車を走らせた。
宵闇駅は、このロッカーから走らせて20分程の距離にあった。
一見すればごく普通の地方都市にありがちな、少し古惚けた印象のコンクリート造りの駅だ。
しかし、この駅は『生きた人間』が使えない駅だった。
もし、この妖や幽霊ばかりが乗る電車に乗れば人間は、例え宵闇町の住民でも無事では済まないだろう。
ただ、他所から来て宵闇駅で降りる事ができれば、助かる確率は少しだけ上がるかもしれない。
あくまで、かもしれないだが。
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