第10話
それから慈雨が九才の誕生日を迎えるまでは平穏なものであった。
しかし、何時までも隠し果せるものでも無いのは彼らは分かっている。
土曜日のお昼を少し過ぎた頃、好矢見町バス停に三人組の少年が降り立った。
「・・・・・・ッ、カ────ッ! やぁっと着いたぜ~~~、ここが宵闇町かよ?」
そう言ったのはやんちゃそうな印象の少年であった。快活で、エネルギーに充ち溢れているような男の子だ。
彼がそう言うのも無理も無い。新幹線三時間、そしてローカル線に乗り換えて更に小一時間からのバスに揺られる事約二十分。
小学生には中々の長旅である。
「いや、ここから確かもう少し歩いた所にある商店街に行かないと宵闇町に入れないらしい」
そう言ったのは三人の中で一番背が高く、落ち着いた印象の少年であった。涼し気な目元の美少年である。
「う~~~、ドキドキするけど・・・でも楽しみだねっ」
目がクリっとした、少し幼い印象だが愛嬌のある少年がそう言って目をキラキラさせていた。
「ンだよ、まだ歩くのかぁ? もおイイぜ、オレ疲れちまったよ」
そう言いながらやんちゃ・・・・・・ナオヤはバス停に置かれたプラスチックの椅子にどっかり腰かけた。
「商店街の場所は・・・ここじゃ分かんないな・・・・・・そうだな、誰かに聞いてみる?」
美少年、ユキオは道案内的な物を探したが見当たらないので嘆息した。
勿論、手にした携帯で調べても良いのだけれど此処は折角なので宵闇町の住民と接触したい所だ。
「ムムム・・・・・・っ、て誰も歩いてないじゃあん! どうすんの~~~っ!?」
大袈裟に辺りを見渡していたリョウスケは頭を抱えながら叫んだ。
「うるっせえなあ、リョースケは~~~」
そんな事はバスを降りた時から分かっていた事である。
「でもまあ、確かにこんなに人通りが無いとは思わなかったな」
しかもコンビニすら視界に入らない。都会っ子の三人からすれば有り得ない話である。
「おお、マジこんなコトなら駅前でメシ食ってからにすれば良かったんじゃねえの?」
「そんな事してたら時間が足りないよ」
好矢見町ルール『17時以降に好矢見町内に居てはならない』である。
今は13時を少し過ぎた所だ。バス停の時刻表には16時30分が最終となっている。その事を考慮すると滞在時間的にゆっくりは出来ない。
「誰か泊めてくれたら良いんだけどね~」
「だよな、ちょっと頼んだら泊めてくれンじゃねえ」
ふたりはとある少年を思い出しながら暢気な事を言っていた。
「いや、流石にいきなり来て泊めてはくれないだろ」
「そんなの分かんねえじゃん、オレら友達なんだし」
小学校の一年生の頃に少しの間同級生だっただけの間柄だ。それをまあ、友達と言い切るナオヤの図々しさは大したものである。その図々しさ・・・・・・ある意味肝が据わっていると言っても良いのだろうか。
まあ、そうでなきゃ俺達のリーダーなんてやってられないもんな。
悪ガキ三人組だの、悪童三人衆だとか大人達から呼ばれる程度には低学年の頃からつるんで盗みやイジメみたいな犯罪には手を染めていないだけで、大抵の悪戯をやらかしてきた。
度胸や好奇心に伴う無駄にアグレッシブな行動力で此処まで来たのは、偏に一年のほんの一時クラスメイトだった時任慈雨が宵闇町に暮らしていると言う情報を手に入れたからであった。
別に、誰にも知らせず転校した訳では無い。この時彼らは全く宵闇町の事を知らなかったと言うのもあるが、オカルトにそこ迄興味も無かったせいでスルーしていたのだ。
しかし、小学生であれば一度や二度訪れるオカルトブームが彼らの中で沸き起こり、そして二年生の頃からの付き合いになる不思議少女のお陰で伏木市まで探検しにやって来たのである。
「でもさあ、キッコが言ってたの、ってマジなのかよ?」
「まあ、オカルト板でも結構有名な話みたいだし、そこそこ信憑性はあるんじゃない?」
「僕ねえ、BouTubeでもその話聞いたことあるよっ!」
キッコ、と言うのは、
彼らが生まれる前からある「
好奇心をそそられ、しかも元同級生の慈雨が住んでいるとなれば行ってみるしかない。上手くいけば宵闇町で一晩過ごせるかもしれない。
不思議探検隊としては是非経験したいコトだ。そしてもし、困っているなら助けてやらないといけない。
三人がそんな事を考えている一方、なかよし商店街にある駄菓子屋ナカヨシヤでは厳戒態勢(?)が敷かれていた。
「不審者情報、って・・・・・・え、小学生?」
携帯を持つ宵闇町民の携帯に緊急速報メールとして配信されたメールの情報に、ナオヤ達が早速載っていた。
「えー、っと・・・不思議探検隊こと悪童三人衆は宵闇町に並々ならぬ興味を示しており・・・・・・」
「ああ~~めんどくさいヤツだ」
一体どうすれば此処迄の情報を集められるのか、随分仔細な情報が載せられている。
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