第9話
慌ただしく2ヶ月後に慈雨は父方の祖母、照子の家にやって来た。
引っ越し屋は、艶鵺が手配した宵闇町の事情に詳しい何でも屋の手により執り行われてこの大雨の中を迅速に、且つ濡らさぬように細心の注意を払って行われて何でも屋は帰って行った。
何でも屋を見送った後、仕事を途中抜けてきた艶鵺に呼ばれて休みだった祇鏖と桃瑠は照子の家に招かれた。
「と、言う訳で時任慈雨君だよ」
慈雨を艶鵺が紹介した。ショートボブの、砂糖菓子のような優し気な少年、と言うのが桃瑠の、慈雨への印象であった。
「慈雨です。よろしくお願いします」
慈雨は緊張した面持ちで、挨拶した。
「で、此方の大きいオジサンが
緩やかにウェーブがかったショートヘアで勝気な子猫のような顔立ちの、印象的な美少年が人懐っこい笑顔で慈雨を出迎えた。
「こんにちは、桃瑠だよ」
ひゃ~~~~・・・すぅーっごいっ、カワイイ子だあ・・・・・・。
慈雨は東京都の、郊外の小学校に通っていた。そこで六年生ではあったが読者モデルから事務所に所属するようになった女の子を知っているが、その娘も中々可愛かったが桃瑠はその比では無い。
カワイイ・・・・・・ううん、キレイ。うん、そうだ。キレイ、ってこう言う子のコトを言うんだ!
初めて見るタイプの美少年に感動しながら慈雨は、桃瑠と仲良くなれたら良いなと思った。
「・・・・・・祇鏖だ、よろしく頼む」
言葉少なに此方を見下ろす大男に、慈雨はめちゃくちゃに緊張した。
鬼瓦とか鍾馗さんと言う怖いお顔の瓦を知っているが、そんな感じだろうか。
「もお~~、祇鏖さん、ったらもっと愛想良くしなきゃダメだよッ!」
慈雨の両肩を抱きながら祇鏖に向かってダメ出しをした。
「う・・・む・・・・・・っ」
自覚はあるのだろう、気不味げな顔で子供ふたりから顔を逸らした。
すると艶鵺はまあまあと言いながら間に入った。
「お互い慣れれば笑顔も出るでしょ、それよりも明後日は初日だから照子さんと登校するけど、帰りは桃瑠君頼むよ」
艶鵺に頼まれた桃瑠は任せて、と元気に応えた。
「じゃ、僕は仕事途中だから戻るね」
「あ、そうなんだ。いってら~~」
四人に見送られて艶鵺は仕事に戻って行った。
「・・・さて、今晩は慈雨が好きな唐揚げよ」
「ホント?やったー!」
慈雨が照子に抱き着きじゃれついた。慈雨は、実は照子と何度か会った事があった。しかしそれは何時も照子の方から此方に会いに来てくれるばかりで、慈雨は宵闇町に来た事が無く。今回が初めての訪問であった。
「あ、そうそう。ふたりもいっぱい食べて、って頂戴ね」
「はーいッ! いただきまーす」
「む、すまん。馳走になる」
その日の晩ご飯は楽しい思い出の一つとして慈雨の心に残るのであった。
こうして、慈雨の宵闇町での暮らしが始まる。しかし、楽しいばかりでは無かった。
宵闇町での暮らし自体は楽しいものであった。宵闇町外の人達が此方を見てヒソヒソするのが不快な以外は、皆親切だし楽しい友達が出来た。だが、その数か月後。夕飯の時間に黒電話がけたたましい音を立ててその団欒の時間を中断させた。
照子が出て、電話の向こうで誰かが名乗ったのを聞いて照子が驚いたような声を上げた。
「え・・・っ! け、警察・・・・・・」
暫く照子は会話を────と言うか相槌を打つばかりだったが────して受話器を置いて暫く放心したようになっている所を祇鏖が声を掛けた。
「照子さん、大丈夫か?」
祇鏖が声を掛けてきたので照子は我に返り、しっかりしなければと奮い立った。
「ええ、大丈夫よ・・・慈雨、聞いて、お父さんとお母さんが交通事故で亡くなったらしいの」
と、衝撃的な話をされた。その日はもう新幹線には乗れないので明日、学校を休んで行く事が決まった。
その日は妙にドキドキして眠れなかったのを覚えている。
そして次の日、寝不足のまま祇鏖と共に両親の死を確認しに行った。
そこから方々に両親の死の連絡を入れたり、通夜と葬式を経て慈雨は一週間くらいで何時も通りの生活に戻ったが、照子は色々な手続きをするのに忙しそうにしていた。が、半年もすれば元の生活に戻って行った。
しかし、照子はその数日後に倒れたのである。
元々心臓に疾患があったのだが、この所の忙しさ等で心労が溜まっていたのだろう。
暫く入院をする羽目になってしまった。
其処で主治医から細かい検査を受けさせられて、そこで癌を告げられた。
しかも余命宣告まで受けてしまい、色々と時間がない中照子は出来うる限りのことをしてその半年後に亡くなった。
母方の祖父母が随分と心配してくれたが、しかし其方には行けない為このまま宵闇町で暮らす事を選んだ。
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