第3話

祇鏖は慈雨がまきこまれた事件で宵闇町に来た頃にボディーガードとして紹介されてからずっと、家族同然に暮らしていた。

 そして桃瑠も、慈雨の親友でありボディーガードも務めていた。



 祖母を病気で亡くしてからも祇鏖は親代わりとしてずっと側に居てくれている。祖母の家は宵闇町の中でも人間側のエリアにあったが、今は引っ越して妖側のアパートで暮らしていた。



 総菜屋と肉屋の間の細い路地、そこから広がるのは飲み屋街である通称を『酔いどれ横丁』である。

 飲み屋ばかりでなくラーメン屋だったり、うなぎ屋定食屋などの飲食店も軒を連ね今の時間帯は仕込み中で閉店していたりして、そのせいか人影もまばらだった。



 大人がふたり並ぶと道が塞がる程度の広さしかない道を通り抜け、ラーメン屋と焼き鳥屋の間のこれまた細い路地に入った。

 ここは更に狭く、大人がひとりくらいしか通れないような細さの路地を行くと途中、建物と建物の間、誰かの家の勝手口のような細いドアの前で立ち止まる。



 そこから向こう側が本当の『宵闇町』だ。



 ドアを開けてその隙間に小さな身体を滑り込ませる。

 するとそのドアの向こう側はいきなりコンクリート造りの、ロッカールームのような部屋が広がっていた。



 何故このような部屋に出るかと言うと、ドア一枚隔ててこちら側では、篠突くような雨が降っているからだ。

 宵闇町では365日二十四時間雨が降っている。気温も低く、常に真冬のような寒さだ。



 なので、好矢見町へ行く人と妖は冬場と好矢見町でも雨が降っている時以外は一旦ここで傘と上着を置いて行く必要があるので、ロッカールームがあるのである。



 慈雨と桃瑠は自分の名前のロッカーを開けて上着を取り出して着る。そして傘を持って、来たドアとは反対側の引き戸を開けて傘をさすと家へと向かった。



 ざあざあと降る雨の中を透明な傘を差したふたりは路地を抜け、大通りに出た。



 しかし路地を抜けた先は街頭以外は薄暗く、人通りは皆無。そして信号は設置されているのに電源が入っておらず真っ暗だ。

 幸い、車通りも無いから道路標示の白線外を走り抜けた所で咎める人はいない。



 慈雨達は足早に横切ると今度は北に道なりに進んでとあるコンクリート三階建てのアパートの前に辿り着く。



 一階部分に無人のコインランドリーとその横に上の階に上がる為の階段があり、その二階部分が慈雨と桃瑠がそれぞれ暮らす部屋がある。



 傘を畳み、エントランスになる場所に設置されている共同ポストを覗いて中を確認する。

 中には夕刊とDMが数通入っていた。



「すぐ降りるから待っててね」



 取り敢えずそれらを回収して、桃瑠にそう言いおいて急いで二階へと上がった。



 コンクリート造りの階段を上がり、左右にある部屋のドアの右側のドアの前に立ち、ランドセルに付けたぬいぐるみ型の鍵カバーのリールを伸ばすと鍵を取り出し鍵穴に刺して捻る。



 ガチャンッ!となかなか大きな音を立てて鍵が開いた。



 薄暗い室内、祇鏖はまだ帰って来ていない。慣れた様子で玄関横のスイッチを押して部屋の電気をつける。

 パッと明るくなった部屋に上がり、リビングダイニングである部屋に置かれたちゃぶ台に、先程の新聞とDM類を置いて慈雨はランドセルを置きに自室へと向かった。



 ランドセルを置き、慈雨は机の上にあらかじめ置いていたお財布の入ったミニショルダーバッグとエコバッグを持って急いで玄関へと向かった。



 勢いよく階段を駆け降り、待ってくれていた桃瑠の元に駆け寄った。



「お待たせっ、行こっ!」



 慈雨は桃瑠と買い物に行く為、またなかよし商店街に戻るのであった。

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