第2話
小学校から子供達が一斉に帰りだす放課後。
皆がスクールバスに乗り込みまるで逃げるように好矢見町から離れて行くのを尻目に、ふたりの少年が歩いて家路を目指す。
ボブヘアーの少年は水色のランドセルを背負い、ウエーブヘアーの少年は何故かランドセルも荷物も持っておらず手ぶらでボブの少年の隣を歩いていた。
彼らの家は、此処から歩いて三十分程の場所にある『なかよし商店街』の近所にある。
正確には、商店街の中にある通称を『酔いどれ横丁』と呼ばれる路地の更に細い路地を抜けた先にある妖ばかりが暮らす好矢見町────本当の名を宵闇町に暮らしていた。
近所────宵闇町外に出来た大型スーパーと、郊外に建てられた複合型施設のショッピングモールに負けてなかよし商店街は現在は半ばシャッター街と化しているように見えたが、実際は今も変わらず活気のある商店街として存在しているし、宵闇町の住民達も変わらず通っていた。
ただ、よそ者にはその商店街と宵闇町の存在を感知できないように結界が張られているのだ。
そのせいもあってか、宵闇町に暮らす者とそれ以外の住民とは多少の溝のような隔たりがあったが宵闇町に住む妖と人間はどこ吹く風とそ知らぬふりを決めていた。
ふたりは、住民達がそうするように商店街の真正面からは入らずに商店街の出入り口にあり、シャッター街と化した商店街で唯一開いている駄菓子屋の『ナカヨシヤ』に入って行った。
「あら、おかえり。慈雨ちゃん、
そう言ったのは店主のヨシコちゃんだ。ヨシコちゃんはふくよかな身体にヒョウ柄などの動物柄のトップスを好んで身に着けている。そしてその上にフリフリのピンクのエプロンを着け、下に着るボトムスは大抵はウエストが総ゴムで、身ごろが良く伸びる生地のレギンスだ。
そしてアフロっぽい髪形の、なかなかの迫力のおばちゃんである。
「ただいま、ヨシコちゃん」
「ヨシコちゃんたっだいま~~」
ボブヘアーの少年慈雨と、ウエーブヘアーの桃瑠は何時ものように挨拶を返す。
「おーい、ふたり共後で来るだろー?」
「おやつ食ったら佐々ン家でゲームするけど来る?」
人間の子のケイゴ、一つ目小僧のヨウタがそれぞれ声を掛けて来る。
「ごめん、今日は買い出しに行くからパスで」
「俺はそれのお供するからまた今度ね~」
ふたりはそれぞれお断りの言葉を言いながら、駄菓子を吟味する友人達の横を通り過ぎて店の奥へと向かう。
駄菓子屋のナカヨシヤは駄菓子コーナーの他に、店内の左手にもんじゃ焼きができる鉄板付きテーブルがふたつ置かれた座敷席がある。顔見知りの子供達で賑わう店内の奥にヨシコの居住スペースがある玄関の他に、本来の商店街に繋がる出入口がある。
もし、その入り口以外の所から入ってもただの寂れた商店街を通り抜けるだけになるので、必ずナカヨシヤから出入りしなければいけないのだ。
その出入口である木戸を引いて一歩中へと足を踏み出す。
すると、先程まで誰も歩いていないシャッター街が一変して賑やかな商店街が現れた。
買い物で行き来する人間と妖と老若男女、揚げ物の香ばしい匂いがする総菜屋に新鮮な野菜を売り込むおじさんの良く通る声やそれに負けじと響くご近所さん達の井戸端会議の声。
先程までの寂れた様子が嘘のように賑やかで活気づいた商店街の中を慈雨は目を細め、口許にうっすら笑みを浮かべながら歩き出した。
慈雨は、この宵闇町に住んでまだ二年程しか経っていない。
6歳頃まで慈雨は新幹線の距離の場所に両親と住んでいた。丁度7歳を迎える頃に巻き込まれた事件のせいでひとり、祖母が住む宵闇町にやって来たのだ。
その頃は祖母も健在で、祇鏖と3人で暮らし始めた。
友達も順調に作り、町と学校に馴染み始めた頃に両親を同時に亡くした。自動車事故だった。
葬儀は外の葬儀場で執り行われた。その時、ちょっとしたトラブルがあったらしいがそれは直ぐ治まった。
母の兄、慈雨からすれば伯父に当たる人物が何故か慈雨を引き取りたがったらしいのだ。
『いままで電話の一本、年賀状一枚寄越さなかったくせに』
祖母が忌々し気に言った。今迄何も接触が無かったのに急に引き取りたがるなんて、妹夫婦の生命保険が目当てなのが見え見えであったからだ。
祖母もまだ五十代と若かったのと事件のボディーガードの為に一緒に居た祇鏖のお陰で話にもならなかったが、その後風の噂でその話が原因で伯父が離婚したらしいと聞いた。
それが本当なら、自業自得だが。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます