僕と不思議な町

璃々丸

僕と宵闇町

第1話

 帰りの学級会を終えて皆と帰りの挨拶をして、ゾロゾロと子供達は教室を出ていく。



「ほら、無駄なおしゃべりしてないで早くバス乗り場に行きなさいっ!」



 学級会が長引いたせいで時間ぎりぎりのせいか、担任の田村はイライラしているようだ。



 長引いたの先生のせいじゃん・・・・・・。



 田村の机を悪戯した犯人捜しを、帰りの学級会でしたのがそもそもの間違いなのである。



 せめて明日の朝にすりゃ良かったのに、バカだよなー。



 リョウタは、いや、クラスの大半はきっとリョウタの意見に賛成した事だろう。

 伏木小学校では奇妙なルールがあって、放課後は学校に残らず皆────先生も生徒も居残りせず帰宅せねばならない、と言うルールが存在していた。



 しかもそれはリョウタの在籍している伏木小学校以外の、伏木市良矢見町ふしきしよいやみちょうにある全ての小中高で共通しているルールであった。



 そんな奇妙なルールのせいで子供達はスクールバスで通って黄昏時である五時になる前には帰っていた。

 部活がある場合は隣町の公園のグランドか、どこかの小中高の空き教室を借りて行っていた。

 取り敢えず、黄昏時に好矢見町内に居てはならないのである。



 どうしてかは、リョウタ達はもう身をもって知っている。



 グランドの端を横切りながら、リョウタ達が居るのとは反対方向に同じ年頃の子供達が何かしているのが視界の隅に映った。



 ヤベ・・・・・・ッ!



 リョウタは大袈裟に顔をそむけた。



 そう、コレが原因の一つだ。



『放課後グランドの端で遊んでいる生徒を見掛けても、声を掛けてはいけない。そして目を合わせてもいけない』

 声を掛けたり目が合えば最後、彼らが満足するまで遊びに付き合わなければいけなくなるのだ。



 勿論、満足したら家に返してもらえると思ったら大間違いで、遊ばれている最中に五体をバラバラにされ、殺されてお終いと言う悲惨な最期を迎えるのである。



 遊びの内容だって声を掛けられた生徒をオモチャにしてめちゃくちゃにするようなおぞましいものばかりで、日々怪異の上澄みでも、それ等に触れて来た者達はそうはなりたくないので極力避ける術を否応なしに身につけて行くのだった。



「三組遅いぞっ!」

「先生のせいでーすっ!」



 そうだそうだとクラスメイト達はブーブー文句を垂れた。

 怒られても、先生のせいなんだけど、と皆流石に反論せずにはおれなくて、声を上げた。



「田村先生、長引きそうな内容は次の日の朝にして下さいと言ってるでしょう」



 もう時刻は十五時半を少し過ぎていた。



 隣のクラスの担任で先輩に当たる村上は田村を咎めた。


「す、すみま・・・・・・」

「ああ、もうっ! それは良いから早く準備して下さいっ」



 村上はそう言って子供達をそれぞれの町内に送るバスへと向かわせた。



「貴女はだから此処の怖さが分からないでしょうけどね・・・・・・」



 と、お説教が始まりそうになったが、目の前のバスが短いクラクションをプップッ!と二度鳴らしたので慌ててふたりはバスの前を退いた。



「ほらほら、村上先生もそこまでにして、この事は明日にしましょう?さ、当番の人も帰れなくなるから我々も帰りましょう」



 ベテランの遊佐に言われてふたりは慌てて教員用の駐車場に向かった。



「やれやれ・・・・・・」



 そう言いながら遊佐は溜息を吐きながら二人の後を追うように歩き出した。

 遊佐の後ろでは子供達の姿をした何かは変わらず楽し気に遊んでいるが、その声は一切聞こえない。例え多少の距離はあっても微かにでも聞こえてくるものである。



 そう言ったものが一切ないのが、まさに不気味であった。



 そして大人とも子供とも、男とも女ともつかぬその姿も何処か朧気で、蜃気楼のようにはっきりしないシルエットがはしゃぐ姿が放課後の、誰もいなくなった学校で遊び続けるのであった。 

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