我天心酔の最終回!己が道、求め進むが万物流転! その⑥

今の私は《水舞台の花影、ガーベラ》の効果によって、スピリットを墓地に送ることができない。それでも――打つ手は、ある!


「私はスペルカード《イズンの林檎》を発動します!このカードの発動コストとして、手札からカードを一枚、墓地に送りますッ!」


モック・タートルの鏡に映る対戦相手――二色のドレスをまとった鏡の中のリーシャ先輩は、私の一手に対して華麗な手さばきで応えた。


「ならば、その瞬間――《水舞台の花影、ガーベラ》の効果発動!この子がいるかぎり、ユーア君はコストとしてスピリットカードを墓地に送ることができないよ」


「私が墓地に送るのは、スピリットではありません!」


どうせ、手札に抱えていても使い道のないカードだ。

私は先ほど発動不能となったスペルカードを選択する。


「墓地に送るカードは手札の《遥かなるナグルファル》です。スペルカードを墓地に送ることなら可能……これで《イズンの林檎》の効果を発動します!」


スペルは承認され、決闘礼装が処理を開始した。


女神がもたらす黄金の果実が実体化する。

永遠の若さと美を約束する珠玉の林檎――


神々が愛した恵みの味。

その果実を食さんと、遠い彼方よりスピリットが参じる!


「《イズンの林檎》を発動したことで、私はデッキからレッサー・スピリットをサイドサークルに配置することができるんです」


「ほう、その手があったか。とはいえ、たかがレッサー・スピリットなら脅威にはならないけどね……いや、待てよ」


リーシャ先輩の表情が固くなった。


「《イズンの林檎》の効果は召喚ではなく、カード効果による配置を実行する。ということは、まさか……!」


「私のデッキには、あのカードが入っています」


そのカードは通常の方法では召喚できず――

他のカードの効果によってしか呼び出すことができない。


「出ておいで、《移り気なリョースアールヴ》!」


天上世界アールヴヘイムの使者、光輝く妖精が出現した。




《移り気なリョースアールヴ》

種別:レッサー・スピリット

エレメント:光

タイプ:フェアリー

BP2500

効果:

このカードは召喚できない。




リーシャ先輩は「なるほどね……」と歯噛みした。


「リョースアールヴ……!

 下級スピリットでありながら、BP2500を誇るカードか!」


リョースアールヴは黄金の果実に噛り付くと、イタズラ妖精らしいニヤニヤ笑いをしてフィールドに降り立った。

私は愛らしいリョースアールヴとウインクを交わす。


「この子は、本来は他のカード効果で墓地から蘇生することを前提として採用していますが――このように、デッキからレッサー・スピリットを配置できる《イズンの林檎》にも対応しているんです!」


更に手札からスペルカードを発動する!


「《光輝あれハヴァマール》!このカードを発動したターン、光のスピリットが攻撃するたびにターン終了時までBPを1000アップします!」


私は最大のBPを誇るリョースアールヴをメインサークルへと配置転換して、バトル・シークエンスに移行する――。


「バトルです!」




先攻:リーシャ・ダンポート

メインサークル:

《「主演の化身メインキャスト・アクトレス」Mock turtle》

BP1111(+5650UP!)

=6761

サイドサークル・デクシア:

《水舞台の花役者、ゼフィランサス》

BP2700

サイドサークル・アリステロス:

《水舞台の大輪、サイサリス》

BP2950


領域効果:

[水平思考宮殿シャドウストーリーズ・ウォーターパレス]


後攻:ユーア・ランドスター

メインサークル:

《移り気なリョースアールヴ》

BP2500

サイドサークル・デクシア:

《水舞台の花影、ガーベラ》

BP2750

サイドサークル・アリステロス:

《聖輝士団の一番槍》

BP1900



リーシャ先輩のメインサークルを守るスピリットのBPは6761。

フィールド上の水のエレメントを持つエンシェント・スピリット全てのBPを受け継ぐ幻想ダークスピリットは、一見して、無敵のカードにも見える。


「でも――付け入る隙は存在しています!」


私は《聖輝士団の一番槍》で攻撃を宣言する。

対象はリーシャ先輩のサイドサークルを守護する《水舞台の花役者、ゼフィランサス》――BPは2700。


光輝あれハヴァマール》の加護を受けた私のスピリットのBPは1000アップして2900となる。

これで、BPはこちらの方が上!


リーシャ先輩は私の意図を読んだらしい。


脇役俳優バイ・プレイヤーを狙いに来たか……!」


「先輩の《「主演の化身メインキャスト・アクトレス」Mock turtle》は、確かに強力なスピリットです。だけど、弱点もある。フィールド上の全ての水属性スピリットのBPを得る……それならば、まずは戦力を削げばいいってことです!」


BP2900となった《聖輝士団の一番槍》が、光のエレメントをまとった槍で一突きにする。

玉簾の花役者ゼフィランサスはエーテル体を保てなくなり、消失。


鏡に映るリーシャ先輩の二色に染まった衣装も、片翼をもがれ――白無垢は消え失せて、肌に密着した黒色のドレスの地が露わとなった。


「おのれ……!」




メインサークル:

《「主演の化身メインキャスト・アクトレス」Mock turtle》

BP1111(+2950UP!)

=4061




リーシャ先輩の化身は、未だにBP4000オーバーを保っている。

それでも、私の攻撃は止まらない!


「リョースアールヴで《水舞台の大輪、サイサリス》を攻撃です。

 眩惑のヘイズ!」


BP2500の《移り気なリョースアールヴ》は《光輝あれハヴァマール》の効果を受けてBP3500にアップ……細やかな光の粒子が鬼灯の紅女優サイサリスを包み込むと、連鎖的に爆発を起こして消滅させていく!


「これで……!」




先攻:リーシャ・ダンポート

メインサークル:

《「主演の化身メインキャスト・アクトレス」Mock turtle》

BP1111


領域効果:

[水平思考宮殿シャドウストーリーズ・ウォーターパレス]


後攻:ユーア・ランドスター

メインサークル:

《移り気なリョースアールヴ》

BP2500(+1000UP!)

=3500

サイドサークル・デクシア:

《水舞台の花影、ガーベラ》

BP2750

サイドサークル・アリステロス:

《聖輝士団の一番槍》

BP1900(+1000UP!)

=2900




「私の場には先輩が召喚した《水舞台の花影、ガーベラ》が残されています。このスピリットは『水のエレメントを持つスピリットを攻撃できない』制約がありますが――先輩の分身であるモック・タートルのエレメントは「闇」です!」


「そうだね、ユーア君の言うとおりだ。ガーベラの攻撃対象に関する制約はモック・タートルには適用されない……いかに「闇」のエレメントを持つスピリットは「光」のスピリット以外との戦闘では破壊されないとはいっても、バトルに負ければライフを失う……」


「いきます!

 《水舞台の花影、ガーベラ》でモック・タートルに攻撃です!」


「いいや、その前に……私はスピリットの効果を発動するよ!」


リーシャ先輩が宣言すると、真紅の花弁がフィールドに舞い散った!


「これは一体……!?」


「シフトアップ召喚された《水舞台の大輪、サイサリス》がフィールドを離れたとき……私はインタラプト効果を持つスペルカードをランダムにデッキから4枚めくり、その中の1枚を発動することができるのさ!」


「サイサリスのスピリット効果……!」


花弁の中から4枚のカードが出現して、リーシャ先輩の前に並べられていった。


「《鎧袖一触》、《明鏡止水》、《東方不敗》。

 あはは、選り取り見取り……」


リーシャ先輩は4枚目のカードを手に取った。


「このカードに決めたよ。

 私は《獅子身中の虫》を発動する――!」


「なっ……!?」


私は驚愕する。


今、まさに攻撃宣言を行おうとしていた花車の才媛ガーベラは、突如として転身すると、そのままリーシャ先輩のフィールドへと戻っていったのだ!


「故、あれば寝返るのさ!」


《水舞台の花影、ガーベラ》は水属性の最上級スピリットである。

サイドサークルにガーベラが配置されたことで、先輩のモック・タートルはBPを上昇させて――逆に、私は攻め手を失うことになってしまった。




先攻:リーシャ・ダンポート

メインサークル:

《「主演の化身メインキャスト・アクトレス」Mock turtle》

BP1111(+2750UP!)

=3861

サイドサークル・デクシア:

《水舞台の花影、ガーベラ》

BP2750


領域効果:

[水平思考宮殿シャドウストーリーズ・ウォーターパレス]


後攻:ユーア・ランドスター

メインサークル:

《移り気なリョースアールヴ》

BP2500(+1000UP!)

=3500

サイドサークル・アリステロス:

《聖輝士団の一番槍》

BP1900(+1000UP!)

=2900




「コントロール奪取効果ですか……?でも、そんな強力な効果が……何のコストも無いスペルカード1枚で実行できるなんて、おかしいです!」


きっと、何かトリックがあるはず。

リーシャ先輩は私の疑問に答えてくれた。


「コントロール奪取ではないよ。《獅子身中の虫》……このカードの効果はね、元々の所有者が自分であり、かつ、相手に奪われたスピリットを対象にすることで、自分のフィールドに取り戻すスペルというわけさ」


「そうか、ガーベラは元々は先輩のカードだったから……!」


モック・タートル――亀の甲羅の水鏡に映るリーシャ先輩の分身は、ガーベラと同じ桃色のドレスをまとうように変化した。

新たな衣装を着た先輩は、唇に手を当てて一礼する。


これで、私はこのターンの攻撃手段を失ってしまった……!


「ターンエンドです!」


「それでは、反撃といこうか。ドロー!」


リーシャ先輩は腕に装着された亀型の決闘礼装からカードを引いた。

モック・タートルのBPは今では3861。

他にもエンシェント・スピリットを召喚すれば、BPはもっと上がる……


「でも。《水舞台の花影、ガーベラ》は自身をコントロールしているプレイヤーに対して『スピリットを墓地に送ることができない』という強力なデメリット効果を与えるスピリットです。ガーベラをコントロールしているかぎり、リーシャ先輩はこれ以上の展開はできないはず……」


「それは、どうだろうね?」


鏡の外のリーシャ先輩――黒一色のドレスをまとった「闇」の決闘者デュエリストは、軽く準備運動をするように伸びをした。


私と先輩のあいだには「水平思考クイズ」を司る水球が漂っている――

ここで、私は先輩が次に出る行動に思い当たった。


「そっか――[水平思考宮殿シャドウストーリーズ・ウォーターパレス]の領域効果ですね!」


この領域では「水平思考クイズ」の出題に成功したプレイヤーは、そのターンのあいだスピリットの召喚にコストが不要となる……!



「さて――クイズの時間だよ、ユーア君!」



流星を描くような綺麗な軌道を描いて、リーシャ先輩は水球に飛び込んだ!

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