蒼い巨星
「――闇の
この海が?」
「かいちょーはそうなんじゃないかって思ってるみたい」
砂浜にて。
奇妙な立方体の砂細工――おそらくはウィンドさんのRINFONEだろう――を作りながら、エルちゃんは云った。
「だからだから、ボクはユーユーの”ごえい”で来たんだよっ!」
「そうだったんですね。
……エルちゃんは、いいんですか?」
「いいって、何が何が?」
「私を守ってくれるのは嬉しいです。でも、それってエルちゃんが危険な目に遭うかもしれないってことですし――あの「旧校舎」の時みたいに」
一学期にあった「旧校舎」の一件で、エルちゃんは闇の
「イサマルさんからも聞きました。
これからの
私がそう言うと、エルちゃんは声を落として云った。
「ユーユーだって、子供でしょ?」
「…………」
「世界を救う
「エルちゃん……」
「にひひ。できあがりーっ!
ユーユー、みてみて!」
エルちゃんはパアッと笑顔を見せると、完成した箱型の砂細工を披露した。
《完全生命体「RINFONE」》――
一学期であった、ラウンズ昇格戦のことを思い出す。
あのとき、
完全なる
生まれ落ちたその時から、ドリアード家の再興という重圧をかけられて育ってきたエルちゃんの境遇は――『光の巫女』として生まれた私と、よく似ていたんだ。
私は、エルちゃんのお友達になりたいと思った。
勝利を義務付けられた「学園」での生活……エルちゃんの苦しみを、少しでも和らげる力になりたいと思った。
そう、それはきっとエルちゃんも同じ。
エルちゃんも、私の力になりたいと思ってくれている。
「――ユーユーは一人じゃないんだよ?
次にボクをこども扱いしたら、”げきりん”だからねっ!」
「……はいっ。
私、一つ賢くなりましたっ!」
エルちゃんは立ち上がって、私の手を引いた。
「ほらほら、ユーユー♪ボク、砂でじゃりじゃり!
そろそろ泳ごう泳ごう?」
「あっ……それなんですけど」
実は、私には言い出せないことがあった。
こんなこと言ったら『光の巫女』のくせに、って言われるかもと思って言えなかったんだけど……エルちゃんになら、言えるかも。
「実は、その。私……泳げないんです」
「えっ。そうなの、そうなの?」
「子供の頃から、泳ぐ習慣がなくって……ムーメルティアには海もありませんでしたし、孤児院にいた頃は、水泳を習う機会もなかったので」
「そうなんだ……でもでも、ウルウルは泳ぐのが好きみたい」
エルちゃんが海水浴場を指差した。
ウルカ様は砂浜にパラソルを置いて、遊泳コーナーで思うままに身体を動かしている――あれはバタフライ泳法!水を大胆にかき分けながら進む、整ったフォーム――なんてお美しいんでしょうかっ!
エルちゃんは上目遣いで私を見上げた。
「ウルウルが戻ってくるまで……ビーチボールでもする、する?」
「そう、ですね……」
本当は、泳ぎたいけど――
屋内プールでも難しいのに、いきなり海というのはハードルが高い。
そこに、一人の女生徒が現れた。
「そういうことなら、手伝ってあげようか?」
振り向くと、そこには見覚えがある美人がいた。
TV中継で何度も見た――『
リーシャ・ダンポート――
「学園」では一年先輩の二年生で、水泳部のエースだ。
「(き、きれいな人……!)」
美しいのは顔立ちだけではない。
スタイリッシュな競泳水着から伸びるすらりと長い手足と背丈――実際に目の当たりにすれば、一目で優れたアスリートだとわかる機能美を備えた肉体。
マリンブルーの髪の下で、
深海のような昏い輝きの瞳が笑みを作った。
「これでも、泳ぎを他人に教えるのは得意分野でね。それとも音に聞く『光の巫女』が相手となっては、この私では役者不足かな?」
「と、とんでもないですっ!ぜひ、お願いしますっ!」
まさか、あの憧れの『
「ユーユー。この人、だれ?」
エルちゃんは低い声で呟くと、私を守るように前に立った。
その様子を見て、リーシャ先輩は腰を落としてエルちゃんに目線を合わせた。
「これは失礼。申し遅れました、姫君」
「ひ、ひめぎみっ!?」
「私はリーシャ・ダンポート。気軽にリーシャとお呼びください。エル・ドメイン・ドリアード――『ラウンズ』序列第四位の「
エルちゃんの手を取ると、リーシャ先輩は手の甲に軽く口づけをした。
――う、うらやましいですっ!
エルちゃんは顔を真っ赤にして、逃げるように私の陰に隠れる。
「…………っ!」
「あはは。ちょうど練習のために屋内プールを貸し切っているんだ。これも奇縁というものでね――良かったら、エル君も一緒にどうかな?」
「ボ、ボクは大丈夫っ!(リーリー、距離が近すぎっ!)」
「それは残念。では――ユーア君、行こうか?」
「はいっ!」
屋内プールなら、特に危ないことは起きないはず。
エルちゃんは一旦、浜辺でウルカ様を待つことになった。
ウルカ様が戻ってきたら合流するということで――
私はリーシャ先輩と校舎に戻る。
「助かります、リーシャ先輩。私も、これからどんなことがあるかわからないので、できれば水泳を覚えておきたかったんです。恥ずかしくって、これまでは他人には言えなくて……」
「どんな人にも、苦手なことはあるものさ。それに、私も以前からユーア君には興味があったんだ。実のところ、仲良くなる機会を探っていたと言ってもいい」
「わ、私とですかっ!?」
「さて。見せてもらおうか――
『光の巫女』の水泳の性能とやらを……ね?」
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