第六回「プレミアムカードの殿堂」

《完全生命体「RINFONE」》

目が覚めると、何もない白い部屋だった。


頭が、痛い。

ずきずきと……うずうずと……脳をかき乱される。


私は……誰だ?


覚えているのは、ただ一つだけ。

ここは本編とは異なる時空。


私は各章で活躍したカードの中でも、最も絢爛華麗プレミアムなカードを紹介していかなくてはならないということ……。


「って。ユーユー、そういうのはもういいってばぁ!」


ぽかん☆とオモチャのハンマーで頭を叩かれて、私は記憶を取り戻した。

目の前にいるのは――緑髪ツインテールの可愛らしい少女。


そうだ、エルちゃん!私はユーア!


「思い……出しました!

 ここは『プレミアムカードの殿堂』ですね!」


「そうそう。さっそく、第六章のボクとユーユーの決闘デュエルで使われたカードを”しょうかい”するよ♪」


「今回は「壺中天」の特性もあり、おとカド史上最長の決闘デュエルになりましたからね……。その分、使用されたカードの数も、かつてない量となりました。

 互いの属性を参照して四色の交響曲を奏でる少女楽団。墓地に眠る英霊の魂を力に変える、神話に謳われしワルキューレ。さらには二つの世界を作り出す驚きのスペルカードまで――その中でも、最も絢爛華麗プレミアムなカードは、これです!」


私は手にしたカードを指先でひっくり返す。

今回、殿堂入りとして紹介されるカードの名は――


「レッサー・スピリット、

 《完全生命体「RINFONE」》!」



《完全生命体「RINFONE」》

種別:レッサー・スピリット

エレメント:風

タイプ:アブストラクト

BP0

効果:

【このスピリットはデッキに入れることができない】

フィールドを離れる場合、代わりに「R」「I」「N」「F」「O」「N」「E」の文字を並び替えることで「二連祭壇体ディプティック・デカルコマニー」スピリットへと変形する。

注釈:

(大文字←→小文字への変換は可能)

(文字の反転、結合はできない)



「作中では「壺中天」のエルちゃんが使用したスピリットですね。ファースト・スピリットながらも、その強力な効果によって終盤に至るまで決闘デュエルを支配し続けました!とんでもない強敵です!」


「にひひ。このスピリットはね、元々はウィウィのカードなんだよ!」


「ウィンドさんの生得属性は「風」の一元体質。「RINFONE」が風属性のスピリットなのは、そのためなんですね」


通常のカードとは異なる正方形の形状をしたカード。


決闘デュエル中に折りたたんだり開いたりと変形したり、他のカードと合体して形状を変えていくという規格外のカード――故にデッキに入れることはできず、ファースト・スピリットとしてしか使用できない。


何から何まで特殊なスピリット・カードだ。


ただし、その本領を発揮できたのは《箱中の失楽パンドラ・ボックス》によって展開された「壺中天」との相性も大きい。


「何よりも……エルちゃんを想う、ウィンドさんの愛情。何度破壊されても、その姿を変えてフィールドに留まろうとする「RINFONE」は、まさしく――エルちゃんを傍で見守り続けた、ウィンドさん自身の性質を受け継いでいるんですね」


「あ、あいじょう……。ユーユーのことば、聞いてて、はずかしいよ……」


「そうですか!?私、思ったことは、つい口にしてしまうタイプみたいで。……すみません」


「ううん。いいけど。いいけど、はずかしいだけだから」


はにかむエルちゃん。

エルちゃんは「そうだ!」と、手元から紙を取り出した。


「かいちょーから、メモをあずかってたんだった。

 読むね♪えーと、なになに……」



――メモの内容によると。


「RINFONE」のモデルとなっているのは、ウルカ様やイサマルさんがいた世界では有名な「怪談」らしい。


「怪談」の名は、リンフォン。

またの名を「凝縮された極小サイズの地獄」。


「熊」「鷹」「魚」と姿を変えていき、完成した暁にはこの世を地獄へと変えてしまう――インターネットというメディアを通じて世界中に拡散した、世界を終焉へと導く恐るべき怪異なのだという。


「彼方」より「地獄の門」を開くべく遣わされた使者。

ラマルシャンの秘奥たる、究極のパズル――。


その真なる名を解き明かしたのは、物語の語り部のつがいたる「アナグラム好きの彼女」だそうだ……。



「アナグラム好きの彼女」――。

そこまで読んで、エルちゃんは「あれあれ?」と首をひねった。


「あなぐらむ。……ウルウルってアナグラム(文字入れ替え)が好きなんだっけ?

 にひひ、「アナグラム好きの彼女」だ!」


「エ」


「ユーユー?」


「エルっちゃん!それは、ウルカ様が私の……だと!

 そう……言っているんですかぁっ!!!?」


「ぎゃああああっ!いきなり大きい声、ださないで!?」


失礼、取り乱しました。


「そういえば、テキストの注釈を見てみると……」



注釈:

(大文字←→小文字への変換は可能)

(文字の反転、結合はできない)



「文字の反転や結合はできない、とありますね。でも作中では「Zero FIn」だの「Re Anon」だの、やりたい放題だった気がしますが……」


「ウィウィにおしえてもらったよ♪

 ”ぐたいてき”には、↓の"しよう"になってるんだって」



・第一形態

 「RINFONE」固定。


・第二形態~第三形態

 (大文字←→小文字への変換は可能)

 (文字の反転、結合はできない)


・第四形態~第五形態

 (大文字←→小文字への変換は可能)

 (文字の反転は可能)

 (文字の結合はできない)


・第六形態

 「INFERNO」固定。


・第七形態~第八形態

 (大文字←→小文字への変換は可能)

 (文字の反転、結合のどちらも可能)


・第九形態

 「FOR NINE」固定。


・第十形態以降

 第七形態~第八形態と同様の条件で変形。

 以後、固定形態は無し。


※一度の決闘デュエル中に同名形態への変形は一度まで。



「ウィウィは言ってたよ?


 ”「RINFONE」が変形可能な通常形態は

 7つのアルファベット

 「R」「I」「N」「F」「O」「N」「E」

 の組み合わせ(7!)から、

 重複分の「N」2文字分を割った

 7!/2! = 2520通り、

 そこから三種の固定形態の数を引いた

 A.2517通り になる。

 文字の反転・結合を加味した、

 亜種形態を含めば可能性は更に広がるわけさ。

 一つ賢くなったね、ユーア?”


 だって!すごい、すごい♪」


「それって……『スピリット・キャスターズ』におけるスピリット・カードの何割かは「RINFONE」関連のスピリットだけで埋まってしまうのでは……!?」


「うんうん。でもでも、”いみふめい”の名前だと、ちゃんとしたパズルが完成しないらしいよ?」


「それは……そうなりますよね」


よかった。

このままだと『スピリット・キャスターズ』が『リンフォン・キャスターズ』になるところでした!


「そういうわけで、そろそろお時間ですね」


「はーい。あとね、かいちょーからネタバレされちゃった!次回は次回は、こわーい話だよ♪」


「リンフォンと同じ「怪談」というわけですね!」


「にひひ。ボクも楽しみ楽しみ!

 第七章『《傾国反魂香-復活の千年狐狸精-》』でボクと”あくしゅ”っ!」


「唐突に始まるホラー回も、カードゲームではよくあること、ですね?」



(本編に続く!)

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