神なき大地の創世神話! 脅威の超古代デュエル(後編)
――私の告白に、ユーアちゃんの瞳は見開かれた。
「……ウルカが、この世界の人間じゃ……ない?」
「今の私は――ウルカだった私と、こことは別の世界から来た人間が混ざり合ってるの。二つの異なる記憶が融合してしまったのよ。あのユーアちゃんとの
……信じられないと思うけれど」
「……信じます」
「えっ」
「おかしいと思ってました。あの
ユーアちゃんの、真剣な眼差し。
――彼女に打ち明けることにした。
私の正体。
あの運命が分かれた日――「学園」退学を賭けたアンティ
「私の正体は、ここではない世界でユーアちゃんのことを知ってる人。だから、あのとき……スペルカード《光神バルドルの帰還》が手札にあることも……本当は、知ってたわ」
「《光神バルドルの帰還》……!」
『デュエル・マニアクス』における、冒頭のチュートリアル
本来の筋書きでは墓地の光のスピリットを呼び出す《光神バルドルの帰還》が主人公である彼女の切り札となり、悪役令嬢――ウルカ・メサイアは
ゲームのチュートリアルをプレイしてそのことを知っていた「わたし」は――対戦相手の手札に《光神バルドルの帰還》があることを前提にした戦術を組み立てることで――定められた筋書きを、ひっくり返してしまった。
それが、全ての始まりだった。
『光の巫女』であるユーアちゃんの運命は、ウルカの勝利によってねじ曲げられてしまった。
私が全ての元凶だったんだ。
「……アスマは、私が不正をしたって言ってたわね。よく考えたら、ある意味では真実なの。もちろん――あなたのデッキにこっそり寄生虫カードを仕込んだりはしてないわ。
……でも。前の世界で得た知識で、手札に《光神バルドルの帰還》があるのは知っていた。その知識がなければ、あの
相手の手札を
これは、カードゲームでは不正行為だ。
私は不正に得た知識で、ユーアちゃんに勝利していた。
破滅の未来を回避するため――不可抗力とはいえ、本当なら許されるべき行為じゃない。
それを黙っていたのは――自分がこの世界の人間ではないことを黙っていたのは――結局は、我が身可愛さから来た保身だったんだ。
せっかく仲良くなれたユーアちゃんに、嫌われたくなかった。
こうやって苦しんでいる彼女を見たことで、ようやく自分の弱さを自覚することができた。
だから……彼女の苦しみが、「わたし」を嫌い、糾弾することで晴れるのだとしたら。
ここで、打ち明けなきゃいけない!
「不正をしてない、というのは私が吐いた嘘。みんなを騙してたのは、ユーアちゃんじゃない。騙していたのは私の方なのよ!」
「……関係、ないよ」と、ユーアちゃんは苦しげに声を絞り出した。
「関係ない。私たちは真剣に
「ユーアちゃん……」
「見損なわないで、ください……!あなたが、勝つために自分から不正に手を染めるような人じゃないことくらい……わかります。それに今だって、全力で戦ってました。……私なんかの、ために」
「戦うわよ。私だって、ユーアちゃんにいなくなってほしくないもの」
「……それは。私が『光の巫女』だから?」
ユーア・ランドスター。
乙女ゲーム『デュエル・マニアクス』の主人公。
光のエレメントを操り、この世界を『闇』から救う救世主。
今の「わたし」にとっては――。
「――友達だからよ!この世界で初めて出来た「わたし」の友達だから!」
ここは「わたし」の大好きなカードゲームの世界。
元の世界では、ただの平凡な会社員だった私だけど――この世界では、せめて自分の好きなように生きていたい。
自分の気持ちに蓋をしたくない。
ここで友達を見捨てるなんて――私の好きなアニメの、
「とも、だち。……友達でいてくれるの?」
「当たり前じゃない!」
「私、あなたを殺そうと……」
「あー、だから!そうやって自罰的になるのがユーアちゃんの悪い癖ね!もっと、他人に怒ってもいいのよ!ほら、寄生虫カードを入れられたときみたいに!」
「……怒る?」
「私にも――「よくも手札を覗いたな、今度はコテンパンにしてやる」――ぐらい言ってもいいの!今だって、いきなり現れたザイオンXにグルグル巻きにされて、標本だのなんだの好き勝手にされてるのよ!?」
私たちのやり取りを静観していたザイオンXは、決闘礼装と化した左腕を構えた。
「……肯定する。本機は『光の巫女』を異星へ
ザイオンXは両手を広げると、無表情のまま両手の指でハサミを作り、チョキチョキと威嚇した。
――あれ?ちょっと前まで「泣いてる女の子を放っておくのはかっちょくよくない」とか言ってなかったっけ?
でも、そうだった!
今はユーアちゃんの身を賭けたアンティ
ここでザイオンXを倒さなければ、ユーアちゃんはこの星から連れ去られてしまう。
「待たせたわね、ザイオンX。
「どのみち、避けられない。このターンに敗北するウルカの運命は」
先攻:ザイオンX
【シールド破壊状態】
メインサークル;
《「
BP2700(+800UP!)=3500
サイドサークル・アリステロス:
《
領域効果:[神話再現機構ゲノムテック・シークレット・ラボラトリー]
後攻:ウルカ・メサイア
【シールド破壊状態】
メインサークル:
なし
今は私のターンの開始時。次にドローするカードで運命が決まる。
だけれど――!
「《
「肯定する。だから言ったよね、ウルカ。このターンがハストゥール・ハルピュイアが演じる『殺戮戯曲・黄衣ノ王』の最終幕になると」
――それでも、手段はある。
さっきのターンで引いた《カノン・スパイダー》を見て、気づいた。
この状況下でも
問題は――それを可能とするカードを、次のドローで引けるかどうかだ。
「(私には、フォーチュン・ドローは使えない。残りのデッキは38枚――あのカードはデッキに2枚入っているから、引ける確率は2/38)」
つまり――確率としては、だいたい5%ってところだ。
ユーアちゃんの運命を預けるには、あまりにも薄すぎる確率。
「それでも……私にできることは、このカードをドローするだけ」
決闘礼装に手を添える。
泣いても笑っても、このドローで決着が着く。
手が震える。
……思わず、目を瞑った。
やるしかない。
祈るようにして、デッキに触れた指に力を入れた――そのとき。
「これって……!?」
――光が満ちた。
まばゆいばかりの黄金の光が。
「ユーアちゃん!これは、あなたの光……!?」
身体を包む光は、祭壇に縛られたユーアちゃんから放たれていた。
私と彼女のあいだを輝く光の
「お願いです……!勝ってください、ウルカ様!
私、本当は一緒にいたいです。
お兄様と――お友達と――あなたと。あなたと、これからも一緒にいたい!」
ユーアちゃんは叫ぶ。
「だから……ザイオンXさんを、ぶっ倒してください!このコードだって……肌に食い込んで、とっても痛いんだからーっ!」
「ユーアちゃん……!わかったわ。勝つわよ。絶対に、勝ってやるわ!見てなさい、ザイオンXッ!」
無機質な声色に弾んだ感情を乗せて、ザイオンXが呟いた。
「……運命力、急上昇。
――成ったね、
手にしたカードに黄金が宿る。
「……今なら、できそうな気がする」
私はイメージする。
勝利へと繋がるロード、そこに続くかもしれない可能性の道筋を。
イメージは形となり――その形は、デッキの一番上へと集約される。
今こそ、カードを引くとき。
見果てぬ運命へと進むときだ!
「私の、タァーン!――フォーチュン・ドローッ!」
引き当てたのは――頭に思い描いていた、逆転の切り札。
私は手札から
「スペルカード《女郎蜘蛛の
このカードは相手のスピリットを奪って使えなくするスペル。
ただし、奪ったカードは召喚できない制約が課される。
だけど――召喚することができない、という制約がヒントになった。
「さあ、ザイオンX。あなたの手札を公開しなさい!」
「了解」と言って、彼女は二枚の手札を見せた。
《
《「
――予想通りだ!
手にしたスペルカードから蜘蛛の糸が出現する。
幾重にも放たれた白い糸は狙い通りに相手の手札に絡まり、スピリットカードを――《「
ザイオンXは表情を変えずに言う。
「……本機の手札から、本機を奪う。それがウルカの狙い?」
「その通り。本来、『スピリット・キャスターズ』では同じカードはデッキに3枚までしか入れることができないわ。そしてこの
《「
《「
《「
これで三枚の《「
でも――。
「本機は《
「
そして、ザイオンXの分身である「
その「法則」とは――
「カードゲームでは……いや、ファンタジーではよくあるモンスターよね。
フィッシュ・スピリットとの
それなら――きっと、あのスピリットだっているはず」
私は手札を1枚選んで、墓地へと送る。
これによって起動する――このフィールドに付与された領域効果が。
周囲に展開された機械柱に電光が灯る。
プラズマ球が空間に走り、機械が作動する電子音が響いた。
つまり、コストさえ払えば私にも使うことができるのだ。
「もう
私の背後に巨大なホログラムの系統樹が浮かび上がる。
天地が逆さとなった樹の枝の部分に、私は手札の《「
「
予想通りに、申請は承認された。
これが私の作戦。
「
やがてカードは一体化し、一枚のカードとなって私の手元へと舞い降りた。
あとは――このカードが逆転に必要なスペックを満たしているかどうかだ。
それだけがこの作戦で賭けとなる部分。
テキストを確認して……私は、この
逆転のエース・スピリットをメインサークルにセットする!
「繁栄と幸運の
《「
その上半身は漆黒のドレスに包まれ、まるでおしとやかな深窓の令嬢のようにも見える。
だが――その下半身は、ドレスと同じ黒一色で染まった、異形の蜘蛛と一体化していた。
黒々とした八本の脚と、糸を出すための
「アトラクナクア=アラクネアのBPは2800。さらにユニゾン・スピリットであるため、シャンタウク・ケンタウルスの特殊効果を受けてBPは800アップするわ!」
墓地に埋葬された
幻槍の力はすべてのユニゾン・スピリットに及ぶ。
先攻:ザイオンX
【シールド破壊状態】
メインサークル;
《「
BP2700(+800UP!)=3500
サイドサークル・アリステロス:
《
領域効果:[神話再現機構ゲノムテック・シークレット・ラボラトリー]
後攻:ウルカ・メサイア
【シールド破壊状態】
メインサークル:
《「
BP2800(+800UP!)=3600
「
私はバトルに移行した。
ザイオンXは、自分と同じ顔をしたスピリットと対峙する。
これまでとは違い――今度は敵同士として。
「『第三ノ禁忌』だよ、そのスピリットの攻撃名は。かっちょよく、宣言してね」
「悪いけど、攻撃名は私が決めるわ!いきなさい――ディドリーム・アトラクター!」
ザイオンXは、残された最後の手札に手をかけた。
「……本機は、嬉しい。ウルカたちが元の仲良しに戻れたみたいで。だけど、本機は本気。
「あのカードを発動するつもりね……!」
《女郎蜘蛛の
それは正真正銘、彼女の最後の切り札。
「
このカードはインタラプト。かつ、本機の墓地に
第一の槍、第二の槍に続いて――またも墓地から立ちはだかるのね、ケンタウルス!
先攻:ザイオンX
【シールド破壊状態】
メインサークル;
《「
BP2700(+800UP!)(+1400UP!)
=4900
サイドサークル・アリステロス:
《
領域効果:[神話再現機構ゲノムテック・シークレット・ラボラトリー]
後攻:ウルカ・メサイア
【シールド破壊状態】
メインサークル:
《「
BP2800(+800UP!)=3600
「BPが、4900……!」
「これが
選択された墓地のスピリットのBPの半分をフィールドのスピリットに加える――それが
そう、そのカード・テキストはさっきの時点で確認済みだ。
カード効果も――その、発動条件も。
「アルス・マグナっていうのは、よくわからないけど。そのカードを発動するために、これまで
ザイオンXは、気まずそうにうつむいた。
「肯定する。……本機の役割は『光の巫女』を標本にして、次の惑星に運ぶこと。それは『光の巫女』の望むことじゃないのは理解した。でも、3000年のあいだ本機は
「3000年!?」
このときになって、初めて気づいた。
《アルケミー・スター》を始めとする、ザイオンXのデッキのモチーフ。
この地下施設にあった『デュエル・マニアクス』の世界観にはそぐわない機械の数々。
これらは、一見して未来の科学技術に見えるけれど――そうじゃない。
ザイオンX。
知性を持つスピリット。
彼女の本当の正体は――。
「あなたは大昔の――超古代の時代から眠っていた存在だったのね!?」
「肯定する。本機は、本機の使命のために戦う。ウルカたちの敵。悪いスピリット。……ごめん、なさい」
「謝る必要なんてないわ。だって、勝つのは私だもの」
私が手を向けると、
「《「
ドリームアゲイン・ウェーバー!」
アトラクナクア=アラクネアは下半身から吐き出した糸をザイオンXの墓地に向ける。
「墓地からコピーする対象はもちろん――。
《
「待って、ウルカ。それは無意味。
「うふふ。それは、どうかしら?」
スペルの効果により、墓地からスピリットの幻影が現れる。
フィールドに君臨したのは、麗しき蒼銀の双翼。
私のエース・スピリット――《金殿玉蝶ブリリアント・スワローテイル》。
その加護を得て、メインサークルの
メインサークル;
《「
BP2700(+800UP!)(+1400UP!)
=4900
サイドサークル・アリステロス:
《
領域効果:[神話再現機構ゲノムテック・シークレット・ラボラトリー]
後攻:ウルカ・メサイア
【シールド破壊状態】
メインサークル:
《「
BP2800(+800UP!)(+1500UP!)
=5100
ザイオンXは目を丸くした。
初めて彼女の表情が変わったのを見た気がする。
「理解、不能。人間特有のルールの錯誤?……その可能性を否定する。決闘礼装は処理を承認した。……どうして?」
立会人となっている機械音声が、その問いに答えた。
「恒星間移民星船『ノア』が回答する。「墓地に特定のカード二枚を要求する」のはスペルカード《
「ザイオンX――あなた、3000年も眠っていたものだから、対人戦の経験は薄かったみたいね」
この手の処理は、カードゲームではよくあること――なのだけれど。
「アラクネアがコピーする対象は「自分か相手の墓地にある、このゲーム中に発動したスペルカードの効果」よ。効果をコピーした時点で、アラクネアの特殊効果はコピー元の効果そのものになる。ただし、発動条件は効果ではないから、コピーの対象外。だから――コピー元のカードの発動条件を満たしていなかったとしても、アラクネアの特殊効果は問題なく発動できるのよ」
「知らなかった、そんなの。……本機が使っていても、相手に使われることなんて無かったから」
「良い勉強になったみたいね。それじゃ――攻撃を続行するわよ!
《「
異形の
まったく同じ顔をした二人の少女が、互いの爪を交わして戦い合う。
だが、BPはこちらが上回っている!
勝負の行方は見えた。
それにしても【ブリリアント・インセクト】デッキ専門の私が、まさか可愛い女の子のカードを使うことになるなんて。
「ジョセフィーヌちゃんの目論見通り。テコ入れ、大成功かしらね?」
――戦いを制したのは、アトラクナクア=アラクネアだ。
メインサークルのスピリットが戦闘で敗北したことで――ザイオンXのライフ・コアは砕けた。
しかし、目を閉じた彼女の表情は、どこか穏やかにも見える。
「おめでとう。――ウルカの、勝ちだね」
「……やったぁーっ!」
ついに、
勝者は、この私――ウルカ・メサイアだ!
「……ウルカ様っ!」
「きゃっ!ちょ、ちょっとユーアちゃん!?」
二人で抱き合うような形となって、思わず私は赤面する。
気恥ずかしくなって、離れようと手をかけたが――彼女がすすり泣いていることに気づき、肩にかけた手をそのまま置くことにした。
少しでも、ユーアちゃんが安らぐように。
鼻をすすりながら、彼女は言った。
「ウルカ、様……!私、ウルカ様にひどいこと言って……!心配ばかりかけて……!ごめんなさい、ごめんなさい……!」
「謝るのは私の方。ずっと黙っててごめんなさい。私が、ウルカじゃないって」
「……私にとっては。あなたが、ウルカ様です」
「えっ……?」
「なんで、ウルカ様をどうしても「ウルカ様」って呼びたかったのか、やっと、わかりました」
ユーアちゃんは、胸にうずめていた顔をあげる。
涙でぐちゃぐちゃになっていたけれど――そこには、とびきりの笑顔が輝いていた。
「ウルカ様のことが……大好きだから、です!」
「ユーアちゃん……!私も、大好きよ」
すっかり元気を取り戻したらしいユーアちゃんに、私は安堵した。
安堵したの、だが。
「……あれ?」
だ……大好きって。
まさか。これって、もしかして……?
思い当たった可能性に、私は顔を青くする。
いやいや、さすがに考えすぎよね。
と――そこにザイオンXが挟まってきた。
「祝福する。本機は二人の仲をとりもつために天から遣われしキューピッド。その真の目的は……こうして二人をらぶらぶにすることにあった」
「そうだったの!?」
「嘘。本当は負けただけ。本機は本気だったよ」
「な、なんなのよ……」
変な嘘は吐かないでほしい。
「……ウルカと、ミシュア。二人で一人の運命。それが『光の巫女』と
私はユーアちゃんと顔を見合わせた。
ユーアちゃんはザイオンXに尋ねる。
「あの、ミシュアって……?私は、ユーアですけど……」
「ユーア。祝福するね――それが、ユーアの選んだ在り方なら」
私も疑問を口にする。
「そういえば、さっきの
ザイオンXはこちらに向き直った。
「『光の巫女』の運命は一人では完結しない。共に同じ運命に立ち向かう半身を選ぶ。二人で一人。『方舟』に乗って次なる惑星へと向かうか――それとも、この星で『闇』に立ち向かうか。どちらを選んだとしても、
ちょっと待って。
『光の巫女』は
本来の『デュエル・マニアクス』が乙女ゲームであることを考えたら――。
それって、攻略対象のことじゃないの!?
「私が、ユーアちゃんの
私は、非攻略対象なのにー!?
もしかして――『デュエル・マニアクス』の筋書きを、現在進行形でさらにめちゃくちゃにしてないか、私!?
だけど……。
「ウルカ様が、私の運命……」と、ニコニコしているユーアちゃんを見てると――まぁ、いいか――と思ってしまう。
どっちみち、ユーアちゃんがいずれ『闇』と戦う運命にあるなら。
手伝ってあげるのは、当然だしね。
私のカードゲームアニメの知識は――この世界では、意外と武器になるみたいだし。
そんなわけで、このようにして。
私とユーアちゃんの、長い一日は終わることになったのだった。
ダンジョン『嘆きの地下坑道・Lv7』非公式アンティ
立会人:恒星間移民星船『ノア』
勝者:ウルカ・メサイア
敗者:ザイオンX
アンティ獲得:Zillions Immortal of Nameless one Xion.
「……って。何、これ」
決闘礼装のモニターに映し出されたアンティ表示を見て、私は首をかしげる。
「じりおんず……おぶ……?」
「本機だよ」と、ザイオンXが言った。
「本機のコントロールはウルカに移譲されたよ。
「……は?」
相も変わらず、表情を変えないままに。
ザイオンXは、とんでもないことを言うのだった。
「本機の新しい役割は、本機が決めることにしたの。よろしくね、
☆☆☆
一方、その頃。
王立
三人の生徒が集まっていた。
彼らの肩にかかっているのは、「学園」のトップに立つ上位ランカー10名――「
そこで顔を合わせていたのはいずれも『ラウンズ』のメンバーであり、うち2名は
生徒の一人――長い前髪で顔を隠した、気弱そうな青年が、声を張り上げる。
「し、小生は……納得、できません……!ウルカ嬢は『ラウンズ』に入ったばかりの序列第十位です。それが、いきなり会長自らがアンティ
青年の名は、ドネイト・ミュステリオン。
アルトハイネス王国が誇る『
『ラウンズ』序列第九位。
異名は――「コズミック・ジョーカー」。
ドネイトの言葉に、傍らに立っていた眼鏡をかけた青年が口を挟んだ。
「――私は、
青年は眼鏡を軽く抑えると、ダンジョンで発見された「ロスト・レガシー」の一つである古文書――その写本を開きながら、続ける。
「ウルカ・メサイアの所持するカードで『ラウンズ』戦のアンティとして吊り合うのは《バーニング・ヴォルケーノ》だけだ。ならば、初戦であのカードを奪ってしまえば、自動的に彼女は『ラウンズ』から降格となる。
”先ずその愛する所を奪わば、即ち聴かん”――とは、古代イスカの軍事思想家の言葉だったかな?会長殿」
青年の名は、ミルストン・ジグラート。
アルトハイネス王国で代々武器商人を営む名門貴族ジグラート家の嫡男にして、学生の身でありながら各地のダンジョンから「ロストレガシー」を蒐集する古代文明研究者としての顔も持つ男。
『ラウンズ』序列第五位。
異名は――「英雄殺し」。
「会長殿――」と、ミルストンに声をかけられ、頷いたのは奇妙な人物だった。
見た目の年頃は十を超えたあたりにしか見えない。
童子とも童女ともつかぬ美しく整った色白い顔立ち。
鮮やかな桃色の頭髪はおかっぱに切り揃えられ、その身を包むのは桜柄で彩られた女性ものの和服――東の国・イスカの伝統衣装である「着物」だった。
少年は、蠱惑的な目を狐のように細めて笑う。
「しゃあないやん。アスマくんがおらへんのやったら、結局、ウチが一番強いんやし。――ウルカちゃんは、あのアスマくんを倒しとるんやで?せやったら、勝負になるのは『ラウンズ』の中でもウチだけ。そうやろ?……みんな、情けないもんなぁ」
けらけら、と笑う少年にドネイトとミルストンの表情が険しくなる。
だが、反論はできなかった。
なぜなら、彼の肩にかかっている金縁の白マントは――アスマ・ディ・レオンヒートが失脚した今となっては、この「学園」において『最強』を示す証なのだから。
「ウルカちゃんなぁ。あれ、邪魔やねん。あの子の役割は『光の巫女』とのアンティ
きしょいねん、潰したはずの虫がうろちょろしてるみたいで。
少年は、邪悪な笑みを浮かべた。
「あの子な。ウチ自ら、潰したるわ。ぷちっと、哀れなごきぶりみたいにな」
少年の名は、イサマル・キザン。
イスカの将軍家筆頭――キザン家の嫡男にして、「学園」の一年生で唯一の『ラウンズ』在籍者。
ラウンズ序列第一位の新生・『学園最強』。
異名は――「三国伝来白面九尾」。
その悪意が向けられていることを――ウルカ・メサイアは、まだ知らなかった。
Episode.3『[神話再現機構ゲノムテック・シークレット・ラボラトリー]』End
Next Episode.4…『[呪詛望郷歌・歌仙大結界『百人一呪』]』
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