第6話 お礼
そして、和花の言葉を聞いた悠人は少し悩んでから。
「今日は夏休み初日だから良いんだよ、明日からやるから」
和花から目線を逸らしつつ悠人がそう呟くと。
「もう、そんな事を言っていたら、いつもみたいにギリギリになってやる事になりますよ、兄さんはやれば出来る人なのですから今回は後回しにせず頑張って早めにやりませんか?」
和花はまるで母親の様な事を言って来たが、その言葉を聞いた悠人は、
「……そうだな、考えとくよ」
その言葉から逃げるようにスマホに目を移してそう言った。
自分でもよくないと思っているが、悠人はどうしても期限が迫らないとやる気が起きないタイプの人間で、余裕を持って課題を終わらせるという事がどうしても出来ず。
和花も長年一緒に過ごして来た中でその事はよく分かっていたので、これ以上は言及せず再び数学の課題に取り組み始めた。
その後、悠人がスマホの画面を観ていると。
「あの、兄さん」
少し不安そうな声で和花がそう声を掛けて来たので。
「何処か分からない所があるのか?」
悠人がそう言うと。
「ええ、この問題なのですが」
そう言って、和花は一つの問題を指さしたので。
「ああ、この問題はな……」
そう言って、悠人はその問題の解き方を説明した。すると、
「あっ、そうやって解けば良いのですね、ありがとうございます、兄さん」
嬉しそうに微笑んで和花がそう言ったので。
「気にするな、それより他に分からない所があったら遠慮なく聞くんだぞ」
悠人がそう答えると。
「ええ、分かりました、ふふ、頼りにしていますね、兄さん」
和花もそう答えて、数学の課題を再開した。
その後も和花は課題を進め、悠人はスマホを観ながら和花に質問をされたら、悠人はその問題の解き方を和花に教えていた。
そして、和花が課題を始めてから一時間位経った頃。
「……兄さん、終わりました」
最後の問題を解き終わり、和花が安堵した様子でそう言ったので。
「そうか、お疲れ様、和花」
悠人がそう答えると。
「ありがとうございます、兄さん、えっと……頑張ったご褒美に私の事を褒めてくれても良いんですよ?」
少し遠慮がちに、それでも何かを期待するような表情を浮かべて和花はそんな事を言ったので。
「……仕方ないな、夏休み初日に苦手な課題を済ませるなんて偉いぞ、和花」
そう言って、悠人が和花の頭を優しく撫でると。
「ふふっ、ありがとうございます、兄さん」
嬉しそうな笑みを浮かべて和花はそう言ったので、俺の妹は本当に素直で可愛いなと悠人は内心思いつつ、その気持ちは表には出さずそのまま無言で和花の頭を撫で続けた。
そして暫くの間、和花の髪の毛の感触と可愛らしい顔を堪能した後、悠人が和花の髪を撫でるのを辞めると。
「えへっ、ありがとうございます、兄さん、久しぶりに兄さんに可愛がって貰えて私は嬉しかったです」
和花は嬉しそうに微笑んでそう言ったので。
「そうか、それは良かったな」
悠人がそう答えると。
「ええ、そうですね、だから兄さん」
そう言って、和花は悠人の顔を観ると。
「今回は私のお願いを一杯聞いて貰えたので、私も兄さんのお願いを何か一つ聞いてあげますよ?」
和花はそんな事を言った。
そして、和花のそんな言葉を聞いた悠人は、
「お願いって、急にそんな事を言われても特に思い浮かばないな」
そんな風に返事をすると。
「もう、遠慮しなくても良いのですよ、それに今はこの家には私たち二人しか居ないので、いつもはお願いできない様な事も私に頼んでも良いのですよ?」
和花は何故か頬を赤く染めて、悠人に向けてそんな事を言ったので。
「……いつもはお願いできない事って一体なんだ?」
妙な胸騒ぎを感じつつも、悠人がそう質問をすると。
「もう、兄さんったら、そんな鈍感そうな事を言っていますが、本当は分かっているんじゃないですか?」
そう言うと、和花は上目遣いで悠人の顔を見上げて。
「兄さんだって年頃の男の子なのですから、可愛い妹である私に何かお願いしたい事があるんじゃないですか? 今は丁度お義父さんも居ませんしね?」
悠人を誘惑するような口調で和花はそんな事を言った。
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