第13話 エリート課長、実務者協議に参加する

孫権の承諾により呉蜀同盟は成立し、いよいよ大規模軍事行動前の実務者協議とも言える軍議を開催することとなる。蜀代表は軍師:諸葛孔明、呉代表は都督:呂蒙子明。雑音が入らぬよう、二人だけの密談で執り行われる。


「ようやくここまで来れたか。長いなー。でもな、ここまでやらんと関羽の運命は覆せんのや。仮にあのまま樊城を落としたとしても前門の虎、後門の狼からは抜け出せんからな。魏と呉に挟まれるとか悪夢にしかならんやろ。益州も荊州もと欲張る割には人材が少なすぎて魏には遠く及ばんし、呉とは良いとこ五分五分やろ?遅かれ早かれどうにもならん未来しかない。そんなこと孔明にはわかっとったはずやし、関羽が何であんなに強気やったんか、本当わからん。もっと奥深いとこまで歴史書を読んだら、この謎は解けるんかなぁ。」


課長、考察は最後にしましょう。孔明と呂蒙の会談はどんな形で決まるのか、そこが気になります。


「せやな、先に片付けてしまおうか。この会談のキモは【どこをどのタイミングで攻めるか】や。魏に戦力を分散させ、荊州の樊城と襄陽を落とすことが目標やな。そこでや………あ!最初のやり取りは飛ばすで。」


孔明『呂蒙殿にもお考えはありましょうが、先に我が意からお伝えいたします。此度は長安、樊城を我が国が、合肥、襄陽を貴国が攻めることを想定しております。』

呂蒙『4箇所一斉とはなかなかに壮大な作戦ですな。して、諸葛殿の策はいかに。』

孔明『まず我が国が長安に兵を進めます。おそらく五丈原、もしくはその手前で会戦となるでしょう。しかしここは負けぬ戦いに徹する場所で、時間を稼ぎます。次に樊城、襄陽の同時攻略に向かい、そこから日を置かずに合肥へ侵攻いたします。どの場所も魏の重要拠点でございますれば、魏の曹操と司馬懿は兵を割かずにはおられませぬ。長安には司馬懿・徐晃・張郃、樊城と襄陽には曹仁と満寵、合肥には曹真・張遼・文聘あたりが出てくると考えております。』

呂蒙『4箇所にそれだけの人材を送ることができるのが魏の強みと言えますな。陣容には異なるところがあるやもと思いますが、どこに誰が出てきても不思議無しと思うことにしましょう。合肥の張遼とは浅からぬ因縁があるゆえ、合肥には大王自らに兵を率いていただくことにいたしましょう。』

孔明『長安へは私が馬超・黄忠・魏延を伴いましょう。樊城へは関羽・趙雲・蔣琬を向かわせます。』

呂蒙『蔣琬…聞かぬ名ですな。』

孔明『貴国の陸遜殿と同様にございます。いつか名を揚げる将であると考えております。』

呂蒙『では襄陽は陸遜・全琮に任せることとしましょう。若輩と思えば魏は痛い目に遭うこと疑いございませぬ。合肥は大王に率いていただき、私と周泰・朱治・朱然でお供をいたします。』

孔明『関羽の報告ではすでに樊城と襄陽へ工作兵1000を潜入させておりますれば、合図で食糧庫、武器庫に火を放つ手はずとなっております。』

呂蒙『これで樊城、襄陽が落ちなんだら陸遜は無能ということになりましょうな。』

孔明『それはこちらも同じにございます。』

呂蒙『長安攻めの早馬が一番として、二番が荊州攻め、三番が合肥攻めでよろしいか?』

孔明『呂蒙殿はどの順が良いとお考えですかな?』

呂蒙『曹操の位置からは東の合肥が一番遠い。指示を出した時はすでに戦況が動いていることから、合肥と長安攻めの報が同時に曹操の元へ届くように動くのが最善と考えております。そこから一日置いて荊州攻めとなれば曹操は焦り、先の指示を撤回するか悩み、最後には曹仁頼みに陥りましょうぞ。』

孔明『呂蒙殿のお考えに賛同いたします。そちらで参りましょう。この策は貴国だけでも我が国だけでも成り立ち得ませぬ。二国が共に動いてこその策でござりますれば、我が国への憂いを断ち切る働きをお見せするとお約束いたします。』


「と、こんなところやな。あとは出陣に向けての日程調整と補給の確保、自陣での作戦会議とやること盛り沢山で慌しなるで。これが実現すればさすがの曹操も4拠点のどこかは諦めなしゃーない。さて、曹操が諦めるとしたらどこやと思う?」


諦められないでしょう。どこも重要拠点だって言ってましたし。


「そうやな。でもな、全部守るのは現実的やないで。地図から見れば一番落としたらあかんのは長安や。次に合肥。最後に樊城と襄陽や。合肥の後ろには寿春があるし、樊城の先には宛がある。防衛ラインを敷ける場所がまだある分、長安が落ちるよりはましなんやないかな。二国が集中する樊城と襄陽が一番危険っちゅう考え方もあるやろうけど、蜀と呉がずっと仲良くするとは限らんし、まだ手はあると思えんこともない。そういう意味では樊城・襄陽よりは合肥を堅守するほうが賢いんやないかな。」


課長が言うとそれらしく聞こえる…。でも確かに曹操からすれば優先順位だけは間違えられないのは事実。


「まぁ現実的な話やないけどな。ここまでの条件を揃えるのは至難の業を超えて限りなく不可能や。自分の知識の範囲内の話やけど、ここまでやらんと関羽の運命は覆らんし、関羽がこのあとも活躍するのは無理やろうな。何かが起きた後に一人の運命を変えるっちゅうのは大変なことなんや。どこまででも時間を遡れるならまた話は変わるけどな。」


おそらくここまでやれば関羽の運命は変わる。樊城の戦いで命を落とすこともない。そして今度は味方に趙雲と蔣琬がいる。課長の壮大な策は関羽の運命を覆した…けれどなぜかスッキリしないんだよな…


「俺もやで…」



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