第9話 エリート課長、第一幕を乗り切る
呉との同盟復活には呂蒙の説得が絶対条件。いよいよ伊籍VS呂蒙の対決が始まる。
「どこまで話したっけ?あ、そうや、呂蒙が非礼を詫びるところまでやったな。呂蒙はおそらくこんな感じで続けるやろな。『こたびは前都督、魯粛の言葉を届けに来られたとのこと。心からの感謝を申し上げる。私はまた同盟だの荊州のことだのを貴国と話さねばならぬのかと正直、冷静さを失いかけておった。貴国の態度は同盟国のそれではなく、私にはどうしても許容できるものではなかったのでな。あらためて非礼を詫びよう。』キツイで、これは。先制パンチや。伊籍はこれで同盟のことや荊州のことを口に出すことができんようなったわけや。」
さすが呂蒙。魯粛の書はきちんと受け取るけれど、それ以上でもそれ以下でも無いと釘を刺してきたわけだ。蜀と同盟する気はもう無いと匂わせた上で、そのことは口に出すなよと追い討ちをかける。素晴らしい開幕になった。さて、伊籍は何と返すのかな。
「ここを間違えると孫権には辿りつけん。伊籍の腕の見せ所やな。こっから先は舌戦や。」
課長は立ち上がり、左右に向きを変えながら演じ始めた。
伊籍『あらためて都督とお会いできて光栄でございます。このような緊張状態の中、お時間をいただけましたことに心からの感謝を申し上げます。こちらは都督への書(2通ある内の1つ)でございますれば、まずは中をご覧くださいませ。』
呂蒙『帝位への道標?これは面白い。貴国軍師殿はこれを書きながら何を考えておられたのであろうか。漢中王を名乗り、漢王室復興を掲げる貴国が我が国に帝位を示すとは、矛盾も甚だしい。』
伊籍『この書はあくまで魯粛殿が遺された言葉を諸葛孔明がまとめたものにございますれば、矛盾はございません。』
呂蒙『なるほどのう、矛盾は無いと申されるか。では軍師殿は我が国が皇帝を名乗っても許してくれるのか?』
伊籍『許すも許さないもございません。先に申し上げた通り、こちらは魯粛殿の望むものでござりますれば、諸葛孔明が口を挟むことではないと承知しております。』
呂蒙『では、伊籍殿はどう思われる?』
伊籍『私は魯粛殿のご意思に従い、貴国に法のなんたるかをお伝えする口しか持ちませぬゆえ、帝位のいかなるかを論ずる口を持ち得ませぬ。』
呂蒙『ははは、伊籍殿は存外頑ななお方だのう。ここは蜀の使者という肩書は捨てて、我が君の帝位について伊籍殿の思う所をご教示いただけぬかな。』
伊籍『都督が私に何をお望みかは存じませぬが、古の三皇五帝に由来する言葉でござりますれば、真の名君のみが名乗ることを許されるものと考えております。』
呂蒙『ふむ、そうか。であれば貴国の重臣、関羽殿から犬と嘲られた我が君には荷が重いとおっしゃるのだな。』
伊籍『都督は槃瓠(ばんこ)をご存知でしょうか?』
呂蒙『いや、初めて聞くが、槃瓠とは?』
伊籍『槃瓠は伝説の犬にございます。勇猛果敢に主を助け、敵将の首級を挙げたと言われる神とも崇められている犬でございます。関羽が申した犬が何を指すかは私には知る由もございませんが、私は犬を嘲る言葉とは思っておりませぬ。』
呂蒙『ほう、これは一本取られたと言うべきであろうな。いやはや、伊籍殿は肝の据わった御仁じゃ。畏れ入った。』
呂蒙も呂蒙、伊籍も伊籍。どちらも負けてない。
それを演じる課長も課長。負けてない(笑)
第一幕は伊籍やや優勢、第二幕はいかに…
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