第8話 エリート課長、壮大な戦略を語る

いよいよ呂蒙との舌戦…の前に、課長の戦略が聞きたくなってきた。課長は何を目論見、そのために何を整えようとしているのか。課長の熱演は楽しみだが、一度頭の中を整理したいと声をかけた。


「戦略?そうやな、呂蒙との話も何のためにやっとるのか、ちゃんと整理しとこか。まず最終目標は【蜀と呉による時間差4拠点攻め】や。そのうちの1つが樊城ということになるな。魏の戦力を分散させんと樊城は落ちん。蜀は漢中から長安、江陵から樊城、呉は徐州と襄陽。この4拠点を時間差で攻められてみ、曹操はめちゃくちゃ焦るで。司馬懿の策で呉とは同盟が成立したと思うとるからな。焦りは判断を誤らせるんや。覚えとき。」


なるほど…って壮大過ぎませんか?樊城の戦いに勝つのはそんなに大掛かりなのですか!?


「ただ落とせば良いってだけなら、ここまでせんでも良いかもしれんな。漢中を放棄して全戦力で樊城を攻めれば勝てるかもしれん。それでも呉が襲ってきたら危ういやろうけど、樊城を落とすだけならチャンスはあるやろ。でも、その先は無いで。退路を断たれてジリ貧コース確定や。関羽やないかもしれんが、将の何人かは確実にやられるやろうな。それでは運命を覆すとは言えんやろ。関羽の運命を覆すんやったら、ただ樊城の戦い【だけ】に勝てば良いっちゅうことにはならんのや。」


確かに。補給路も断たれそうだ。補給が無い戦は負け戦、課長が早期に退却させる判断をしたのも補給だった。4拠点時間差攻略、そのために必要な要素を積み上げるのは至難の業だが、課長の頭にはすでに絵が描けているのであろう。


「せやから話が壮大にならざるを得んのや。で、この目標達成のために必要なことはな…」


課長が挙げた目標達成のための要素は

①樊城からの早期退却

②劉備と孔明へ最速で報告

③糜芳と傅士仁を懐柔するか人事異動で配置転換

④呉との同盟復活

⑤孔明と呂蒙の会談

⑥タイミングを合わせた時間差出兵

このうち②と③は同国内のことゆえ調整もそこまで難しいものではない。であれば激ムズと課長が語った④がやはり最大のヤマ場ということになる。そのためには呂蒙を口説き落とし、何としても孫権に辿り着かねばならない。………ふと、なぜ関羽は呉を軽んじ、孫権を見下すようなことをしたのだろう?と疑問になってきた。課長の話を聞いていると呉は超重要じゃん。


「こればかりは関羽に聞かんとわからん。少し考えたら呉と争ってはいけないことがわかるからなぁ。荊州を返さんかった劉備が不義理やったから、関羽自身は『わしがさらに不義理をはたらかねば、兄者の不義理が目立つ』とでも思ったんかもな…。そう考えると可哀想やな。誰や劉備を仁徳の人って言うたんわ。孫権から見れば無茶苦茶やっとる男やないか。」


ここまで拗れた呉との関係。魯粛の名を使い交渉するのも悪辣に思えてきた。しかし絡まった糸を解きほぐすにはそれなりの手段が必要なわけで、なんとしても呂蒙との舌戦には勝たねばならない。やれるのか、課長。

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