第5話 エリート課長、閃く

蜀で交渉役ができそうな武将をググってみると、簡雍・伊籍・馬良の名が出てきた。早速、それを課長に伝えたところ

「その中で法律に強そうな武将は誰や?」


と問われ、またググった。

どうやら伊籍は蜀の法律作りに参加していたらしい。

「おー!それなら伊籍やな!」


課長の目が光った(気がした)

「これで呉との同盟復活は成ったで!武将を調べてもろうとる間、俺もいろいろ調べてみたんや。名案が閃いたでー!!!」


さっきまで関羽を棒打ちにするとか過激なことを言っていた課長が何を閃いたのか…

「鍵は魯粛や!魯粛の名前を借りるで!いかに孫権と呂蒙といえど、魯粛の名を出されたら無視はできんやろ。そしてその書簡の差出人は孔明や。表から見えるように『帝位への道標 子敬(魯粛の字)』とだけ書いとくのがベストや。そしてそれを伊籍に持たせ、呂蒙に突撃させる。孫権宛と呂蒙宛の二つを用意して、孔明の直筆で送るのがキモや!」


魯粛といえば呂蒙の前任都督である。孔明とも親交があり、孔明に呉の未来を語っていても不思議はない。それを孔明が文字にし、孫権に敬意を込めて贈ったとなれば、これは呂蒙の判断で捨てるわけにはいかない。孫権は魯粛に最大の信を置いていたと言われているくらいだ。これはいけそうな気がする。

「書簡の中身はこんな感じや。『子敬殿とは赤壁以来、友として互いの国家について語り合って参りました。すでに大王(孫権のこと)も子敬殿よりお聞きになられている内容と存じますが、子敬殿の晩年のことゆえ大王のお耳に入っておらぬかもと余計なことを考え、こうして筆を取った所存です。子敬殿は呉の未来は大王がいらっしゃる限り心配無いとおっしゃっておられました。しかしながら大王がご病気などになられれば国は乱れかねないともおっしゃっておられました。それは呉の統治には大王が欠かせぬという意味であるのと同時に、大王の力が偉大過ぎて大王の力が及ばなくなった瞬間に国が乱れることを危惧されておられるという意味でもあります。子敬殿はこれを解決するに法を以てすと、私に何度もおっしゃっておられます。法は存在すること自体に意味はございません。その執行を厳格にできるか否かが法のすべてなのです。秦や漢は優れた法がありながらご存知の通り、滅び衰退しております。これは法を厳格に執行できなかったがためです。魏の曹操は法の重要性に気付き、その体系の整備と執行にすでに着手しております。子敬殿は呉にも法を制定し、その執行者についても言及されておられました。子細は書簡を持たせた伊籍にお尋ねください。伊籍は蜀でも私が全幅の信頼を置く法の専門家です。願わくば子敬殿の意を大王にお届けできますように。 子敬殿の友 諸葛孔明』

これで交渉のテーブルには着けるやろ。」


呉は教養や文化の発展という意味では魏に圧倒的に劣る。それは山越などの異民族の影響もあるが、もともとが孫堅から始まった武力の歴史であることにも由来する。その内情は決して安定的ではない。君主たる孫権がそれを知らぬはずはなく、信頼していた魯粛が自分のため、呉の未来のために遺した言葉だとすれば聞かぬはずはない。これは嘘も方便ということで良い…のかな…

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