会話と施設長と

エモンカケってなんだ?わからないながらでも周りを見て聞いてみよう。カントは利用者さんと将棋をしてるし、アイトもエイタもそれぞれの利用者さんと話をしてるから聞きに行けない。

『よし。指導者さんに聞いてみるのが一番だな』


『すみません。酒井さん聞きたいことがあるですけどいいですか?』

『どうしました?』

『エモンカケってなんですか?太田さんに持ってきて欲しいと頼まれたのですが、、、』

『あーエモンカケね。それハンガーの事だよ。若い人にはわからないよね』

どうやら、エモンカケはハンガーの事らしい。

『ハンガーの事だったんですね。ありがとうございます』


ハンガーを持って太田さんのところへ戻る。

『太田さん。エモンカケ持ってきました』

『ありがとう。高尾くん』

『いやーエモンカケって僕分からなくて、聞いてきましたよ』

『あら、若い子はエモンカケ知らないのかい?』

『そうですね。ハンガーのことを聞くまで初めて聞きました』

『そうかい。分からないのに持ってきてくれてありがとう』


しばらく、太田さんの話を聞いていた。

『高尾くん。ちょっといいかな』

酒井さんが声をかけてきた。

『はい。すみません太田さん。少し席を外しますね』

酒井さん着いて行き、介護士たちが記録等を行うワーカー室へ入る。中に他の実習メンバーが先に待っていた。

『これで、全員だね。ついさっき施設長が出勤したから、これから施設長に挨拶してもらうね』

そういえば、施設長には会ってなかったな。どんな人なのか少し気になるな。

『じゃあみんな施設長室にいくから、ちゃんと挨拶してね』


施設長室前に行き、酒井さんが扉をノックする。

『どうぞ』

中から声が聞こえる。

『失礼します』

酒井さんの後に続いて実習メンバーも入る。

『施設長、津久理高校の福祉科の実習生を連れてきました。じゃあ一人ずつ挨拶して』

酒井さんからの合図で端から各々挨拶をする。そして、僕の番が来た。

『津久理高校から来ました。本日より実習をさせて貰います。高尾です。よろしくをお願いします。』

よし、みんなと同じようにしっかりとした挨拶ができたぞ。

そういえば施設長はどんな人なんだろ。緊張しすぎて、顔をまだしっかり見てないな。

顔を上げて施設長の顔を見る。

どこかで見たことある人だな。気のせいかな。


『うん。元気があっていいね。高校生は元気があっていいものだからな。私がこのデイサービスの施設長をしてる高尾 武(たかお たけし)です。緊張してる人もいるけど、しっかり学んで行って下さい』


!?

『たけじぃ!?なんでここいにいるの!?』

『高尾君、いきなりどうしたの?もしかして施設長のこと知ってるの?』

知ってるも何もこの人は、僕の親戚で毎年お盆や年末年始にはうちに来て、酒を飲んでいつも酔っ払ってる叔父さんだ。

『え!?えーっと、、、はい。僕の親戚の叔父さんです』

『えっ!?親戚だったの?確かに同じ苗字だけど、まさか親戚とは』

他の実習メンバーも驚いていた。

『なんだよ。涼の親戚だったのか』

カントもそんなことを言っていた。

『全く。叔父の顔もちゃんと見ないで挨拶して、これからはちゃんと挨拶するときは、相手の顔をしっかり見て挨拶するんだぞ』

僕が完璧と思ってた挨拶がダメだったとは。

『まぁ今回は皆んな初めての実習って聞いてるからな、これからの実習で生かしなさい。それじゃあみんな、実習に戻って、しっかり学んできなさい』


施設長室を出てから、ワーカー室へ戻る。

『涼どうした?なんか暗い顔して』

僕の顔色が見て、カントが声をかけてきた。

『いやね。実習初めてだから緊張してたけど、まさか、親族がいるとは思わなくて。実習とは違う緊張が出てきてね』

『あー確かに、違う緊張ってあるよな、授業参観みたいな』

『気疲れしちゃいそうだよ』

『まぁそんなに気にしなくて良いんじゃないか?気楽にやれば良いんじゃないか?』

『そ、そうだね。頑張ってみるよ』

カントに励まされて少しは元気が出た。

『ほら、そこの二人早く利用者さんのところに戻って』

酒井さんから注意を受けて、各々担当の利用者さんの元へ行く。


太田さんのところに戻ったがそこに、太田さんの姿はない。トイレかな?

トイレを少し見たが、鍵は掛かっておらず誰も使用してない様子だ。


太田さんはどこに行ったんだ!?

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