04 アルヘンティオ・エクスプレス

 これから乗るのは、7:00発の特急列車“アルヘンティオ・エクスプレス”、赤と緑に塗り分けられた10両編成の特急電車です。

 早朝のホームには、ビジネスマンや旅行者など多くの人が忙しなく動き、列車に乗り込んで行きます。


 アルヘンティオ・エクスプレスは定刻通り、ルンボリア・ゾリスク駅を発車しました。行き先はおよそ600キロ離れた、マレンティアーノ合衆国第2の都市、サンタレジーナです。


 駅を出るとしばらくはルンボリア市街の高架橋を走ります。1000年以上続くこの街を、最新鋭の特急列車が駆け抜けていきます。


 市街地を抜けると、長い鉄橋を渡り始めます。ルンボリアはアゾトリア湖の真ん中にある島にできた街、街から出るには必ず湖を渡ります。

 この湖が天然の要塞となり、ルンボリアは歴史上、何度も侵略の危機に陥りましたが、守られてきました。最終的にエストリリオ人により入植されましたが、ブリスク人たちの最後の抵抗により、王宮や神殿などの建物はそのまま残されることになりました。


 湖を渡ると、しばらくは市街地の中を走行します。ルンボリアと合わせた周辺地域で、世界有数の大都市を形成しています。


 市街地を抜けると、高原の田園地帯を進みます。標高が2000mほどのこの辺りでは、キヌアやトウモロコシ、ジャガイモなどが多く栽培され、首都の住民の胃袋を満たしています。


 車内の様子を見てみましょう。

 アルヘンティオ・エクスプレスはビジネスクラスが3両、ビュッフェが1両、そしてエコノミークラスが6両の10両編成になっています。


 ビジネスクラスは、片側2+1列のボックスシートが並び、中央には大きなテーブルが備わっていて、作業も快適に行えます。車内には専任のアテンダントも常駐しており、軽食とソフトドリンクのサービスもあります。首都と第2の都市を結ぶ看板列車なだけあって、威信がかかっているようです。


 威信がかかっていると言えば、この列車は他にもこの国唯一の特徴があります。それは電車であるということ。

 マレンティアーノ合衆国の鉄道は、都市部のメトロやトラムを除き、ほとんどが非電化ですが、この路線だけは電化され、最高時速200キロで走ることができ、ルンボリアからサンタレジーナまで、最速3時間50分で結んでいます。


 次にエコノミークラスを見てみます。こちらは片側2列ずつのボックスシートが並びます。ビジネスクラスほどではありませんが、ゆったりとしたシートにテーブルがあり、こちらでもゆっくりとした旅を楽しむことができそうです。


 あるボックスシートでは、小さな子どもを連れた一家がいました。


「列車に乗って旅をするのが楽しみだったんだ」


 3歳のアントニオくんはそう言うと、アルヘンティオ・エクスプレスのおもちゃをテーブルに出し、遊んでいました。ルンボリア・ゾリスク駅の売店でお父さんが買ってくれたもののようです。

 すっかりお気に召した様子のアントニオくん、それを見守る両親ともに優しい眼差しを彼に向けていました。


 この列車にはビュッフェも連結されています。カウンターと、いくつかの立食用テーブルがあります。朝早く出発した列車なので、朝食を食べる人が多くいました。


 アルヘンティオ・エクスプレスのビュッフェでは、マレンティアーノ合衆国で最もポピュラーな朝食の一つである「モルニージャ」が提供されます。これは、トルティーヤ(薄いトウモロコシのパンケーキ)を卵で包み、豆やチーズ、アボカドなど様々な具材で詰めたものです。風味豊かなサルサソースと一緒に楽しむことができ、地元の伝統的な朝食として親しまれています。


 モルニージャのお供には、なんと言ったってマレンティアーノコーヒーです。

 マレンティアーノコーヒーは、深い味わいと豊かな香りが特徴の特別なブレンドです。標高が高い地域で育ったアラビカ種のコーヒー豆が使用され、その土壌と気候がコーヒーに独自の風味を与えています。

 このコーヒーは慎重に焙煎され、適切なバランスの中にコクと甘みを持っています。一杯のマレンティアーノコーヒーからは、地元のコーヒー農家の手間暇かけた栽培と焙煎の技術が感じられ、その豊かな風味は旅の始まりに素晴らしいエネルギーを提供します。


 美味しい朝ごはんを食べていると、車窓も変化してきました。

 田園風景から、工場などの煙突が見え始め、次第に賑やかな様子に変わってきます。優美な曲線を描く水道橋を見ると、列車は街の中に入っていきます。


 8:20、定刻通りクアランサ駅に到着しました。

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