第57話 木霊に会う
「なぁ、どーしてそんなにクイーンに会いたいんだ?ヒック」
「だよなぁ。いいじゃないか〜そんな無理して会わなくっても」
「そういうわけにはいかないよ!今後の日本を左右するすごく重要な案件だ!」
「え〜?どーしてお前さんばっか進んで苦労しようとすんだよ?」
「なぜせっかく生きているのに、毎日を楽しまず、そんな大層なことをやらなきゃならんのだね?」
俺は目を見開いて何も言えなくなった。
単純に、なんだこいつら……と思った。
俺は知ってる。こういう奴らが世の中を穢しているんだと。
「おいお前ら……あまりにも自分勝手すぎないか?
自分さえ良ければ他はどうなってもいいのかよ?」
河童も猫又も茶を啜りながら馬鹿にしたように笑った。
「いやいやお前さんこそ、クイーンに会えれば全部解決できるとか思ってるー?神任せにして自分勝手なのはお前さんなんじゃあないかぁ」
鼓動がドクンと嫌な音を立てた。
そうして思い出す。
どうしてそもそも天照大御神が岩戸に引きこもってしまったのかとアメノウズメに聞いた時。
" 八百万の神たちの頼みごとが休む間もなくアマテラス様に降りかかり……それらを何百年も一身に受けてきたために、心身が疲労困憊してしまったようです "
結局は俺も今、同じことをしに行こうとしている……?
いや……だとしても、助言を頂くくらいは許されるだろう。
こっちは藁にもすがる思いなんだよ。
「なぁお前さんはどう思うんだ〜い?
本当は、暑苦しい熱量がいい迷惑だ〜っとかって思ってるんじゃなぁい?」
河童が虎太郎の顔を覗き込んだ。
「……あぁ……その通りだな」
「っ?!虎太郎っ?!」
「本当は……こんなくだらねぇこと、今すぐやめてぇよ。」
え……。
あんなに張り切っていたのに……!?どうして急にそんな……
あ……でもそっか……。
そもそもこのチームに入ったのだって、俺が無理やり入れたようなもんだったしな……
「ほらなぁ?狐さんもそう思うよなぁ?」
「オイラは美味いもんで腹満たせてればなんでもいい」
デンは相変わらずバクバクと菓子を貪っている。
俺はなんだか絶望的と苛立ちと焦燥感でいっぱいになった。
俺が勝手なのか……?
俺がただ、みんなを助けたいとか、由香里さんを助けたいとか……そういうのって全部、俺のエゴで偽善なのか?
誰かをこうして巻き込んでるのは……
「……わかったよ。もういい。全部俺一人でやるから。悪かったな」
俺は虎太郎とデンを残してその場を離れた。
ムカつく。
アイツらにムカついてるんじゃない。自分にだ。
誰かに頼らないと進めない自分に腹が立つ。
どうして誰かが側にいてくれないと、俺は勇気が出ないんだろう。
思えば俺は、なんだかんだ1人になったことがなかった。
親も友達もいなかったけど、人間じゃない奴らは俺の周りにいっぱいいて、いつどんなときも俺のそばにいてくれた。
だから俺は、実は本当の孤独を知らない。
知った気になっていただけで。
なぜ孤高に生きているなんて勘違いしていたんだろう?
本当は誰よりも……小心者のくせに。
誰でもいつかは必ず1人になる。死ぬ時は1人だ。
誰かに頼るのなんてやめろ。
「おや?……ふふっ……キミは坂東昴だ♪」
歩いていたら、突然上から声が降ってきた。
まさか今度は!
不思議の国のなんちゃらの……あのシマシマの猫?!
と思いながら恐る恐る見上げると、木の枝にちょこんと座っている小さな妖怪がいた。
「なんだ……木霊こだまか。」
木の精霊妖怪である木霊は、自然の多い森によくいる。
幼い頃から幾度となく見てきた。
結構群れでたくさんいるものだが、ここにはこいつ一匹しか見当たらない。
「アマテラス様の所へ行くの?一人で?ふふっ♪」
「その通り。やる気のない仲間は置いてきたよ」
木霊はまた、ふふっと笑った。
歌うように喋るこの木霊は、まだ可愛らしい子供といった感じだ。
しかし木霊は結構性別不詳が多い。
「ここの森に入ると皆、生気を吸い取られるの。
やる気なんてモンは簡単に削がれるンだ♪ふふっ♪」
「はっ?そうなのか?」
「自分がどこから来て何の目的があったのかさえも忘れる♪」
どうやら天照大御神の力は絶大らしい。
神や妖怪でさえも、その精力を失うのだから。
「じゃ……じゃあどうして俺は……」
木霊はジィッと俺の腕に嵌めてある塩玉真珠を見つめた。
「あぁ……なるほど。これのおかげか……」
「まぁ、キミはわりと、意思の強い人みたい♪
そういった神の道具を持っていたとしてもね、天照大御神様の御本みもとでは効力に限界があるンだ♪」
「っ……どうしたらあいつらを元に戻せるんだ……
はっ!はぐれちゃった仲間たちももしかしたら今頃……っ!」
くそ!どうするのが正解なんだ!
まず駒子たちを捜す?!いや、デンたちを連れ戻す?!
「天照大御神さまのこの御本ではね、実にいろんな者たちが迷いこんでるンだ♪それぞれの目的があったはずなのに、それをいとも簡単に忘れてね、何年も何百年もここにいたりね♪」
「えっ!じゃあキミも?!」
「私は違うよ♪ふふっ♪爺様とここへ来たのだけど、はぐれてしまったの♪ふふっ」
「いや、ふふって……そんな呑気にしてる場合か?
見た感じキミは正常だろ。爺ちゃん取り戻さないと」
「んーでもね……幸せならいいんじゃないかなって。
ここはね、現実の辛いことや悲しいこと、負の感情を全て忘れさせてくれる場所だから♪」
俺はハッと腑に落ちた。
だからあんなふうにワイワイ馬鹿騒ぎしてるキチガイがいたのか。
「あれ……でも……。
なぁ、ここの森、なんか鬼みたいのが紛れてないか?」
その言葉に、木霊はピクリと反応し、神妙な面持ちをした。
「うん……奴らも何かを求めてるみたい。
だから私はね逃げてるんだよね」
俺は確信している。
奴らは絶対に大嶽丸一派だと。
俺らをどうにかして見張っているらしいことは先日知ったし、きっとまた邪魔しようとしてるんだろう。
こっちはマジで急がなきゃならないって分かってて……
きっと、弄んでいるんじゃないかと思う。
「俺には今……余裕が無い。
早くしないと、1番守りたい家族が危険なんだ」
「じゃあ仲間は置いていくのー?」
「だから余裕がないって言ってるだろ!説得して連れ戻す余裕も!はぐれた仲間を探す余裕も!」
なんだろう。
やたらイラつく……
これもこの場所の影響か?
「……ふーん。キミにとっての仲間って、その程度なんだ♪」
ドクッと鼓動が跳ねた。
木霊は愉しげに笑っている。
無意識に塩玉真珠に触れながら、頭の中に全員の顔が一つ一つ浮かんでは消えた。
"仲間の存在は、僕たちを物理的にというよりも、精神的に強くするんだ。仲間がいると、人は何百倍も強くなれる"
ふいに、和巳の言葉が降ってきて目を見開く。
ただ力が欲しいから仲間を求めていたんじゃない。
それがなによりも心の支えだって分かっていたから。
俺はすぐさま駆け出し、茶会に戻った。
霧で道は分からずとも、賑やかな音楽を辿れば迷わなかった。
「デン!虎太郎!目を覚ませ!現実から目を背けるな!」
2人は大層ウザったそうな表情でこちらを見た。
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