第55話 まさかの世界観


この薄暗く霧で見えづらい森の中を、虎太郎の言う通りにひたすら歩いている。


「あ〜、オイラ腹減ったぜぇ。

なんだかこの霧が綿アメに見えてきたな。

綿アメが食いたい。」


「デン……ったく。お前来る前にあんだけ菓子食ってただろ?」


「オイラは今、綿アメの気分なんだ!

誰か綿アメ持ってねぇのかー?」


「持ってるわけないだろそんなもの。我儘言うなよ」


「おーい、誰か綿アメ持って……ん??」


「どーした、デン」


「おい………」


「あ?」


「おい、止まれ!」


耳元で怒鳴られ、俺はイラッと盛大に顔を顰める。


「んだよ!うるさいな!……あれ?」


俺はその違和感すぎる事態にようやく気がついた。


「え……?」


「はっ、迷子だなこりゃテメェ」


いつの間にか、俺とデンと、前を行く虎太郎以外に誰もいなくなっていた。

俺は一気に顔面蒼白になる。


「おおおおおい!虎太郎!」


「あ?んだよ、っるせえ」


「誰もいないんだよ!!俺らはぐれた!!」


振り返った虎太郎も、眉をひそめながらキョロキョロと視線を走らせる。


「は……?どういうことだ?一体いつから……」


「わからない……俺も今気が付いたんだ!

やっば……俺ら迷子じゃん!!」


「……チッ……はぐれたのも迷子も、俺らじゃなくてアイツらだろ?」



そんなことはどっちだっていいんだが、とにかくこれは異常事態だ。



「ど、どうしよう?とりあえず捜す?」


「こんな霧の中をどうやって捜すっつーんだよ」


「確かに……いや、マジどうしよう?

皆何かに攫われたとかだったら……」


「っ、妙なこと言うなよ!」


どうして気が付かなかったんだ?

歩き出してまだ10分も経ってないと思うんだが……


「とりあえず……歩き続けるしかねぇだろ。

あいつらはあいつらで和巳とユーゴが神器持ってんだから、どーにか動いてるはずだ。行くぞ」


俺らは結局、仲間を信じて突き進むことにした。


「おいそんなにくっつくなよっ!」


「俺らまではぐれたら今度こそやばいだろっ!」


これ以上はぐれないようにピッタリくっついて。



20いや、30分はとうに歩いたはずだ。

さすがにずっと同じ所をぐるぐるしている感じがして、虎太郎を信用できなくなってきた。



「これ……ホントに合ってるのか?なぁ、」


「うるっせーな!そんならテメェが前行け!」


オラ!と言って草薙剣を持たされた。


「………。」


不思議なことに、なんとなくどの方向に進めばいいか感覚が伝わってくる。

しばらく歩いて、俺はまた止まった。


「はぁ……俺ぶっちゃけ、草薙剣も信用できないわ。

だって絶対おんなじとこぐるぐるしてるだけで、一生歩かされることになるよコレ……」


これってもうむしろ、自分の感覚というか、テキトーに歩いた方がいいんじゃないのか?



「……不思議の国のなんちゃらだなこりゃ……」


てことは、もしかしたらなんか変な生き物とか出てきたりして……

たとえばうさぎとかネコとか、双子とか……



って……!!



「えぇえっっ?!?!」



本当にうさぎ来たぁああああ!!!



なんと、本当に白いウサギが現れた。

あの御伽噺のように可愛らしい服を着てるなんてことはもちろんなく、目の赤い普通の野うさぎに見える。

しかしこちらをジッと見つめていて動かないのだ。



「なんだ?こいつ。ウサギの肉鍋にでもしてほしいのか」


「やめろよデン!ひょっとすると道案内してくれっかもだろ?」


「…………。ついに頭イカレたかテメェ」



「ウサギさん?えっと……俺たち実は、アマテラスさんの所に向かってるんだけど……」


ヒョコッヒョコッと突然跳ね進み出すウサギに、俺はとりあえずついて行くことにした。

虎太郎はどうにでもなれといった態度でついてくる。


「ハッ……!」


ズババッー!!


さすが察知能力が鋭い虎太郎だ。

突如襲ってきた小鬼を、虎太郎が小通連一振で消した。



「び………ックリした……なんだ今のっ」


「気を付けろ!まだ来るぞ」


虎太郎は真剣に刃を構えている。

俺も冷や汗をかきながらソハヤの剣を取り出し、感覚を研ぎ澄ませた。


頭の中にだけ、ザワザワと何かが迫ってくる音が響く。



「………本当だ……っ、来る!」



ズバババババババーーー!!



俺は主にウサギを庇うようにして攻撃を阻んだ。


どうしてこんなにわんさか鬼みたいなのが湧いてくるんだ?!


剣を振りながらチラとウサギを見ると、ブルブルと震えているのが分かった。


……か……かわいい……っ……


じゃなくて!!!!


「デン!!」


デンはようやくボンッ!と大狐の姿になってウサギを咥えた。

そして、ボワワワッ!!と大きな炎を全身から滾らせた。



……え?!

まさか本当にウサギを丸焼きにして食う気じゃ……?!



なわけはなく、その凄まじい狐火によって一気に周りの鬼たちは灰になって消えた。

ウサギは焦げてない。俺らも無事だ。



「いや……いやいやいやいや、初めからとっととそれやれよ!!」


ったく……



「それにしてもなんだったんだ、今のは。」


息を切らしながらそう言い、虎太郎が剣をしまった。


「恐らくアレだな。既に大嶽丸の勢力が入り込んでるんだろう」


デンが冷静沈着な態度でウサギを放してそう言った。


「はあ?!大嶽丸が?!なんでここに入れるんだ!」


「アメノウズメのように、ここに入れる誰かをとっ捕まえたとかじゃねぇの。んで、アマテラスはそれを見越して、こうやって簡単には岩戸に辿り着かねぇようにしてんだよ。多分。」


なるほど……。

確かにそれしか考えられない。



「………はぁ……俺らがここへ来てからどんくらいたったんだ。

2時間か?3時間か?」


虎太郎が言うようにそのくらい……いや、もっと経っている気がする。

この気圧の低い場所で、更には見通し悪すぎる霧の中、いつどこから何が襲ってくるか分からない状況で神経をすり減らし続けている。

さすがに俺らは疲れてきてしまっていた。



「腹も減ったな……

はー。不思議の国のなんちゃらみたいに、お茶会開いてるキチガイが……いるわけないよな、こんな所に……ん?」



なにやら楽しげな演奏が聞こえてくる。

なんだこれ……ついに俺の頭がイカレて幻聴が……?



……て!!!


いたぁぁあああああ!!!



ウサギが駆け出したため、ついて行くと、どんどん近づくその光景に驚愕する。


そこには……

長い帽子をかぶった河童かっぱみたいな妖怪と、リボン付きのタキシードのような格好をしている猫みたいな妖怪が……



まさに、ティーパーティーをしていた。

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