第54話 天照大御神の岩戸


翌日さっそく、和巳、駒子、虎太郎、ユーゴ、葎そして俺の6人と、デン、シロ、フクでアメノウズメに着いて行くことになった。


「またか……」


どうしてなんかあると絶対ここなんだろう…などと思っていた。

それは宮城県だった。

宮城県は以前、塩爺とウタに会って以来だ。

俺の全てが始動したあの日。

そして大嶽丸派閥に両親が殺された地。



「ワタシ……宮城県は初めてデス。

しかし、ニッポンの中でも神聖な場所が集まったパワースポットであると聞いていました」


「僕も。あ、もしもちゃんと天照大御神様に会って目的完遂したらさ、温泉にでも寄ってかない?

宮城県て温泉の穴場スポットとも聞くよ!」


「成功したらな」


場の空気を和ませようとしたのか、それともただのKYだからか、和巳だけは明るい。



「あら、よくご存知ですね。

私も以前、よくこの地の温泉へは密かに通っていたのですよ」


「えっ、アメノウズメさん、そーなんですかー?」


「えぇ。オススメは刈田温泉。

神の湯と呼ばれていて、浸かると美貌が際立つとか……」



「温泉なんて嫌」


突然そう声を出した葎に皆意外そうに疑問符を浮べる。

美貌なんて聞くと真っ先に飛びつきそうなギャルなのに……。



「え?りっちゃん、なんでさ?」


「嫌なもんは嫌。温泉嫌いなの」


「はっ、なんだそれ。

あ…まさかお前、なんかやましい事でもあるんだろ?」


虎太郎の言葉に、一瞬だけ葎が目を見開いた。

が、それは直ぐに険しい表情に戻った。


「はあ?!テキトーなこと言うなし!

やましい事なんかヤンキーにあるもんでしょーが!」


また口喧嘩を始める2人を俺らは無視し続け、

ひとまず宮城県の岩戸があるらしい場所には到着した。



「戸の守り神……岩戸への道を開き給え」


アメノウズメがそう声に出しながらなにやら手で印を作ると、突然一気に目の前の情景が変わった。


明らかに、この世ではないと分かる、圧倒的異次元な雰囲気漂う森だ。



「これは、アマテラス様の信用の証として、この印がついている者にしか開けない道なのです」


そう言う彼女の右手首には、なにやら不思議なマークが描かれていた。



「それにしても……本当にこの先に岩戸が?」



「ええ。しかし……なにか、妙ですね。」


アメノウズメの言葉に、皆が頷く。


異次元の雰囲気は分かるのだが、それとは別の、とてつもない悪寒のようなものがする。

どす黒く嫌な空気が毛穴を通して伝わってくる感じがしていた。



「以前と全く違います……どういうことなのでしょう……

まさかこれも……アマテラス様のご機嫌の問題……なのかしら」


「チッ。その神ってのはガキなのかよ?

そんなにご機嫌取りが必要な神なのか?」


「虎太郎っ!最高神にそんなこと言っちゃダメ!」


「いちいちうっせぇなぁ。別に本人聞いてねぇんなら何言おうと勝手だろ」


「神様なんだから、聞こえているかもしれないでしょう?」


「オイオイ嘘だろ?ハハッ!お前ンな純粋だったかー?」


今度は姉弟喧嘩が始まってしまったが、本来マジでそれどころじゃない。


この異様な空気……

絶対に天照大御神のものではないだろう。

俺には生まれつき、人には無い感覚の鋭さがあるから空気の違いには敏感で、なんとなくどういった奴が発しているものかも分かる。



「ねえ、アメさん……

岩戸まではまだ結構あるんだよね?」


「えぇ……。ここからは徒歩移動しかないのです。

岩戸まで繋がる道がまるで森の中の迷路のようになっているのです。

それを突破することが、岩戸前まで行ける者の最初の条件です。」



「えっ、迷路って……」


「もしかしたらですが……三種の神器を持つ者は優先的に道が示されるかもしれません。ただの私の想像ですけれど……」


「じゃっ、じゃあとりあえず皆!はぐれないように固まって動こう!三種の神器持ってる、和巳、葎、ユーゴは前へ!」


狼狽える和巳と、少し不安そうな面持ちの葎とユーゴ。

とりあえず3人を前に押しやるという俺の狡さ。


まるでお化け屋敷か肝試しに挑む中高生グループみたいだ。



「ど……どっちへ行ったらいいんだよ?」


前にいる和巳が泣きそうな顔で振り返ってそう言った。


「……へ?どっちって……わからないのか?」


「分かるわけないよ!三種の神器は地図じゃないんだから!」


これは困ったな……。

スタートラインから何も始まらないとは。


「多分だけど……こっちっぽいかもぉ?」


「え、ホント?葎センパイ。

ワタシは左だと思いますケド……」


なんと今度は葎とユーゴで意見が分かれてしまった。



「ったく、勘弁してくれよ。

やっぱり俺が草薙剣持ってた方が良かったんじゃねぇの」


「じゃあほら!アンタが持ってみなさいよ!ンでどっち行けば岩戸に着くのか最後までアンタが案内しなよね!」


ホラ!と言って草薙剣を押し付けられた虎太郎は、ムッとしながら感覚を研ぎ澄ませた。



「いや……お前らどっちも違うだろ……」


「「え?」」


「右でも左でもねぇ。……後ろだ!」


「「?!?!」」


全員同時に振り返って目を見張った。

なぜなら先程まで後ろは元の世界だったはずなのに、そこは同じように霧の濃い森だったからだ。


四方八方から何が現れ襲われてもおかしくないような霧の多い森に、俺ら6人とアメノウズメ、そしてデンとシロとフクだけがいる。

クロウ、ガブリエル、トラはいわゆる式神方式で現れるため、今はいない。

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