第52話 天宇受売命
あれから俺らはよく全員で稽古をするようになった。
場所は専ら安達邸だ。
すぐ横が安倍晴明神社だが、結界も張り巡らされているためある意味ここは誰にも邪魔されない安心安全の場所だ。
とはいえ俺は今日も、神仕事をしていた。
あれからこの重大な事情にとりかかっていることは神界隈では既に広まったため、かなり仕事は減った。
とりあえず今は俺は、塩玉真珠がしてある左手でそこらじゅうの人間たちの負を集めていた。
そして、たまに見かける小妖怪にそれらをばら撒く。
いわゆる完全に人助けってやつだ。
だが、これをしなければきっと、大嶽丸がますます力をつけてしまう。
奴は、世の中の負が強まることに比例して強くなるのだ。
「俺も早く強くならなくちゃな……。
うかうかしてるとアイツの完全復活が速まる……」
「昴さまぁ〜っ!♡♡」
ビクッと思わず肩を揺らした。
右斜め前方から、大きな乳房を揺らして走ってくる、いろんな意味で神々しい女神の姿があった。
「っ!奥姫っ……!」
「昴様ぁ!お久しぶりです〜っ!」
「あぁ、うん、久しぶり……」
こいつは昔の神裁判のときにも俺に熱烈エールを送っていたほどヤバめの俺のファンだ。
とはいえ奥姫は普段本当に忙しい。
なぜなら彼女の奥姫神社は「縁切り」で有名な神社であり、参拝者が後を絶たない。
もちろん俺も何度か彼女の仕事を手伝ってきた。
そして今日は約1年ぶりに手伝うことになっていた。
「あ〜っ♡お会いしたかったですぅ〜♡」
ガバッと抱きついてそう言われ、本来ならこんな美女にこんなにぎゅうぎゅうと乳房を押し付けられて上目遣いで見つめられれば失神するところなのだが、なぜだか彼女を前だとそうはならない。
おそらく俺が子供の頃、出会った頃からこれをされているせいか、何も感じなくなってしまったようだ。
人間には全くモテないのに魑魅魍魎からはモテる俺ってなんなんだろ。
実は俺って人間じゃないのかな……とよく思う。
「……っ、あのさ、もう離れてくれる?
仕事は早く終わらせたいんだよね。
俺が最近大事なことがあるの奥姫も知ってるだろ?」
「ええもちろん!ですから今日は、仕事で呼んだのではないんです!」
「……は?」
「昴様の御多忙を、私が邪魔するとお思いですか?」
奥姫は俺の手を握って神社の奥へと引っ張って行った。
「……?!え、誰アレ……」
そこには、あまりにも大きく神々しいオーラを放っている天女がいた。
奥姫よりも強いオーラに感じ、見た瞬間からゾクゾクと鳥肌が立った。
「私の妹です!」
「えぇっ?!奥姫、妹いたのぉ?!」
「
アマテラス様に会いに行く際に、昴様に協力したいとのことです。」
「?!どゆこと……?」
俺はその美しい天女に近付いた。
天女は俺に気が付くと、ニッコリと微笑んだ。
もうその微笑みだけで目が潰れてしまいそうだ。
それに気づいたかのように耳元に奥姫がコソッと口をつけた。
「昴様ぁ……私以外に惚れてはなりませんよぉ…?」
その低く妖艶な声色に、ゾクゾクっと背筋が凍った。
「あなたが坂上田村麻呂様の………あら?
大狐様まで……!」
「なんっでてめぇがここにいる!」
「おいこらデン!天女様に何失礼な態度とってんだよ!」
デンの態度にはいつもヒヤヒヤしてしまう。
どんなに目上の高貴な神にも妖怪にも、いつもふてぶてしく威圧的なので本当に勘弁してほしい。
「お話があるのです。昴様。」
「あ、はい。」
「大嶽丸がまた
それは……アマテラス様が岩戸に隠れてしまったせいでもあるのです」
「……えっ?そうなのっ?」
「アマテラス様は太陽を司る神。
光や慈愛、真実などを象徴する、最も尊い神様と言われております。
彼女が岩戸から出てこなくなってから、この世に様々な光が入り込まなくなり、大嶽丸の暗黒の闇が増大したのです」
「ま……マジか……」
でもそれならある意味丁度いい。
俺はそもそも、日本最古の最大の神に、大嶽丸という日本三大鬼神を退治してもらう目的でいるからだ。
「てかさ、そもそもどうしてアマテラス様は引きこもりやってんだよ?」
「それが……
俺は思わず、うっわ……とため息を吐いてしまった。
なぜなら、その気持ち、嫌という程わかるから……
俺だって死ぬほど神々に仕事押し付けられて、引きこもりたい気分だったよ!!
それにしても神って、神にまで面倒事を押し付けるほど面倒くさがりなんだな……。
「……それから、弟君のスサノオノミコト様の粗暴な振る舞いもあったとのことで……詳細は御本人にしかわからないのですが……」
「スサノオノミコト……?
聞いたことあるな……」
「スサノオ様は、荒ぶる神とも言われており、とにかく気性が荒いのです。
嵐や暴風雨を巻き起こす神です。」
「なるほどね……だから世の中、嵐とか暴風多いわけね。」
「えぇ……。なので作物などといった天からの授け物が荒らされることを、アマテラス様は悲しまれていて……」
「………。」
俺は思った。
いやでもソレ弟なんだろ?って。
だったら力づくでもどうにか出来んだろ!
なんで自分が引きこもるんだ?!
俺だったら妹が荒らしマニアだったら速攻どうにかするけど!
「で……どうして
「ひ、引っ張り出すって……(苦笑)
えっと……私はアマテラス様に御恩をお返しせねばならない立場なのです。
とてもお優しいアマテラス様に…昔から何度も助けられてきましたから。」
まぁさぞ優しいんだろうなとは思う。
八百万の神たちの頼みも、古代からこの国の光の何もかもを一身に支えてきたお方なのだから。
「私も協力致します。
三種の神器を手に入れたら、アマテラス様の岩戸へ御案内致します」
「えぇっ?!アマテラスさんの所って、誰彼行けないんじゃないの?」
確か呼ばれた者しか行けないって一番最初に彦から聞いて、それ以降ずっとそう思い込んでたんだけど……
「岩戸へは誰でも行けます。
しかし、選ばれた者しか会うことは叶わない。
三種の神器を所持しているということは大前提の絶対条件なのです。」
「……なるほど。
三種の神器ならもつ揃ってるんだけどなぁ」
「え?!」
八尺瓊勾玉は和巳、八咫鏡はユーゴ、草薙剣は今は葎が持っている。
「そそそ揃っているなら早く言ってください!」
アメノウズメさんは立ち上がると、
「早く行きましょう!
それらを所持しているうちに!!」
そう俺を急かしてきたわけだが、いきなり押しかけていってどうにかなるのか不安しかない。
しかし、行ってみる価値はありそうだ。
なぜなら……
「ねぇ……アマテラスさんは……意識不明の人間たちを救うこともできるかな?
俺の大学の人たちがたくさんそういう状態なんだ、今……」
ある意味それは、最優先事項でもある。
他人だからって、このままにしておくわけにはいかない。
「できます。天照大御神様なら。」
アメノウズメという天女はキッパリとそう言った。
俺は急遽、三種の神器と皆を連れて岩戸に行くことになった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます