第51話 心強いから
「キミは…とても強いクノイチだな。
キミのような優秀な者が、なぜうちの血統では生まれなかったのか…はぁ…」
「え?あ、まぁウチは確かにめちゃ強だけど〜、この子たちもウチ相手になかなか凄かったと思うよ?」
なんとなく気まずそうに葎がそう返した。
が、安達父は怒りを通り越して呆れている様子だ。
「双方とも、このクノイチに頼み込んで今後みっちり鍛錬でも付けてもらえ。馬鹿者が。今まで一体何をしてきたんだか…」
そう言いながら消えていってしまった。
「いや〜、けど危なかった危なかった〜
けっこー焦ったよ、アンタ本気出すとけっこーすごいじゃん」
「黙れ!」
虎太郎は相当悔しかったらしく、体を震わせている。
「勝たなきゃ意味ねぇんだよ!
俺は負けたことなんて今までなかったのに!クソっ!」
そういえば虎太郎は、武道でも剣技でも喧嘩でもなんでも負け知らずと駒子が言っていたな、と思い出す。
「つぅかテメェっ!
勝手に俺の間に入ってくんじゃねえよ!
助けろとか言ってねぇしそもそもてめぇと手組むのだってゴメンなんだよ!」
「別に私が…勝手にやったことだから」
冷静にそう返す駒子の擦りむいたアザを見て、虎太郎は顔を顰めた。
しばし沈黙したかと思えば突然つかつかと葎の前に行き、自分の愛刀、草薙剣を差し出した。
「やる。また勝てなかったわけだから、流石にケジメをつける。
これも一度取られたもんだ。
二度も情けをかけられたくない。」
葎は一瞬ポカンとしていたが、目を細めてそれを受け取った。
「あっそう…。じゃ、遠慮なく。」
強がりの虎太郎の表情の中に、一瞬歪んだ悲しげな瞳が見えた。
「吾が此処に於いて、光を放つ」
俺は無意識に小通連を取り出していた。
そして虎太郎の前に行き、それを差し出す。
「……は?なんだよ?」
「これからはコレ…使ってよ」
「っ?!てめぇまさか俺を憐れんでんのか?!バカにすんな!」
「違うんだ。君に使ってほしい。
俺はソハヤの剣だけで精一杯で、これは使いこなせないから。
それにこの小通連は、駒子との大通連とツイになってる。
今日みたいにきっと、上手く連携が取れるはずだよ」
虎太郎は複雑そうな表情でそれを握った。
「でも、俺らのチームには入ってもらうよ、虎太郎くん。
キミは強いからね。」
「……は?負けた人間に何言って」
「いいや、アンタ強いよ、虎太郎だっけ?
まだその年なのに、ウチとやり合えるじゃん!
てかさっきのだって、刺し違えてでもウチを殺ろうとしたんでしょ?たいしたもんだよ。
自分が死ぬ代償に相手も必ず仕留める。その歳でその覚悟があるなんて」
葎の言葉に、虎太郎は更に眉間のシワを険しくした。
かなり考え込んでいる様子だ。
何故そこまで頑なに仲間に入りたくないのかが分からない。
「こないだ勧誘した時も思ったけど、
どういった理由で入りたくないか教えてくれないか?
単純にめんどくさいからとか?それならまぁ分からなくもないけど、でも君のその力を放置しとくのは勿体な」
「違ぇよ!そんなんじゃねえ!!」
突然大きな声で否定され、誰もがビクッと目を丸くする。
「……ただ……嫌なんだよもう……」
「……?何がだよ?」
虎太郎は下を向いたまま拳を握っている。
「……俺は……ただ……」
ただ、怖いんだ。
いつも傍らにいた人間が、ある日突然自分の傍から居なくなることの残酷さを知っているから。
二度と味わいたくない衝撃……
虎太郎の頭の中では今、最後に見た家を出ていく新しい母親の姿が回想されていた。
「……虎太郎くん、もしも嫌になったら、抜けてもいいよ。強制はしない。ただ、協力できるときだけでも力を貸してほしいんだ。
俺たちには君が必要なんだよどうしても。」
虎太郎が一瞬ハッとしたように目を見開いた。
黙っている虎太郎が何を考えているかは分からないが、グレてヤンキーになるくらい複雑な何かがありそうだとは思った。
「ところで、駒っちゃんと虎太郎くんのお父さんは厳しそうな人だね。よくあのお父さんに陰陽師としての稽古をつけてもらってたの?」
和巳の言葉に、虎太郎はため息を吐いた。
「俺はガキの頃からずっと、強けりゃ、あとは何してもいいって育ってきたからな。だから好きに生きてるわけ。
あんなクソ親父の言いなりになってたまるか」
なるほど……
だからこの子はヤンキーなのかな。
「なのにあの女たらしときたら、ある日突然、隠し子だったこいつを連れてきて……俺じゃなくてこいつに稽古をつけ始めた。
俺にはもう期待してねぇんだと!」
誰もが今、虎太郎がいつもこうである所以を理解した。
そして先程、あの男性に対して駒子だけ父としてではなくまるで他人のようにサン付けで呼んでいたことも。
いや実際はきっと、本人たちにしか分からない何かがまだまだあるのだろうが。
ともかく安達家の闇はかなり深そうだ。
「それは違うよ、虎太郎……
あの人が期待しているのは虎太郎であって、私じゃない。
当主は私じゃなくて虎太郎に継がせたいと思っているから、だからわざと私を連れてきたんだよ」
「んな器用なことあいつがするわけねぇだろ!
あいつはいつだって……自分のことしか考えてねぇんだよ」
俺らは当然何も言えないため、この気まずい空気の中押し黙るしかなかった。
あ〜……こーゆー空気を破ってくれるのっていつも間違いなくKYの……
「虎太郎くん!」
……あ、今回は和巳じゃなかった。
ユーゴ先輩……ヒヤヒヤするんだよなこの人も……。
「道を開くのは他の誰でもなく、君自身だよ」
いきなり何を言い出すんだとばかりに皆がユーゴを見る。
「そうやって鳥かごに囚われたまま不満だけの人生を送るのかい?
自分がどれだけできてどこまで行けるかなんて、出発するしか知る術はないのに。」
目を見開いている虎太郎に、ユーゴは優しく向き合った。
「行きたいところには行かなきゃ着かないし、やりたいことはやらなきゃできない。
自分らしく生きられる場所を求めることは逃げじゃないよ。」
その言葉と表情はまるで、ユーゴが自分自身に語り掛けているようにも聞こえた。
虎太郎が長めに息を吐き、視線を逸らした。
" 虎太郎……これだけは忘れないでね。
何があっても、自分の人生を生きるの。"
どうして今思い出す……?
ずっと思い出さないようにしてた……あの人の最後なんか。
「お前らは……お前らはどうしてそんなに仲間集めに拘るんだよ」
「だからそれはっ」
「心強いからだよ」
俺の言葉を遮ってそう言ったのは和巳だった。
「仲間の存在は、僕たちを物理的にというよりも、精神的に強くするんだ。仲間がいると、人は何百倍も強くなれる」
ニコッと笑う和巳に、虎太郎は暫く沈思してからハーっと息を吐いた。
「……わかったよ。入ってやるわ。
これを使いこなしてこの女をいつかぜってー倒してやる!」
「はははっ、その意気じゃん高校生陰陽師!」
「テメェいい加減調子乗ってんなよギャル女!」
「え〜?ヤンキーに言われたくないんですけどぉ〜」
本気のヤンキーの威嚇は恐ろしい。
しかし、それを可憐にかわすギャルも凄い。
このコンビがいるだけで先が思いやられそうだが、とにかく!
俺の中で今日、かなり士気が上がっていた。
想像以上の速さでここまで強い奴らが集まってきた。
一緒に鍛錬すれば、同時に俺らもここまでの強さに少しは近づけるだろう。
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