第50話 クノイチの強さ
「すっ……げぇ……」
3人が今、どんな戦闘をしているのか、何をどう動いているのか、全く見えない。
さらに驚くべきは、葎の忍具の数々と…
そして……
「二分身……」
葎の主な忍術である分身の術は、その名の通り二体の自分を作り出すのだ。
だからこうして敵が何人いようと、一度に相手にすることができる。
葎が言うには、分身を作れば作るほどその分、力も分散されると言うが、だとしても非常に便利なスキルだ。
2人の葎は、余裕そうに駒子と虎太郎の技をかわし、忍者さながらのその身軽な動きでまるで兎のように跳ねたり飛んだりしている。
「トラ!」
虎太郎がついに札を取りだし虎の式神を出した。
彼の腹心であるトラを中心に、三体に分裂した虎が葎に襲いかかっていく。
しかしなんと……!
「クロウ…」
今度は葎の腹心のカラスたちが一気に数十羽も出てきた。
バタバタと黒に包まれ、2人は目の前が見えづらくなり、立ち止まるしか無くなった。
「虎太郎っ!このままじゃキリがない。
まずは2人で本物だけを仕留めよう」
「あぁ?なんっでてめぇなんかと、」
「そんなこと言ってる場合じゃないでしょう!
勝ちたいんでしょうこの人に!」
虎太郎は悔しそうな表情でチッ…と舌打ちをした。
そうして2人でどうにか本物だけに注力を注ぐことにした。
「鼠」
駒子が札を取りだしてそう唱えると、式神の鼠が大量に湧いてきた。
それに呼応してカラスは鼠を攻撃し始め、視界が開ける。
余裕そうな表情で、それぞれの忍具をクルクル回している2人の葎。
肝心の本物がどちらか分からないことには始まらない。
「ところであなたの意中の相手はあなたと同じ忍者なの?」
駒子はわざと葎に向かって口を開いた。
「違うけど?ウチがクノイチだってことすら知らない」
「……それって…いろいろ大丈夫なの?」
「はぁっ?なにそれ。アンタは自分の心配したらどう?」
ズババババババ
カキンカキン!
「分かった虎太郎!こっちがホンモノ!」
喋らせると、その微妙な口の動きに違いが出るため、見抜けたのだ。
分身と共に力も分散されてるなら、
2人で1人に尽力すればきっとやれる…!
駒子はそう心の中でシュミレーションしながら、
更に強く大通連を握った。
ボワっと駒子のオーラが大きくなるのが分かり、皆が息を飲んだ。
「トラ!あっちを止めてろ!」
「御意」
虎たちはもう片方の葎を相手にし、その隙に本物の葎を2人で倒すことにした。
「今度こそテメェをぶっ殺す!」
「……殺しちゃダメだよ、虎太郎…」
「うるっっっせえええええええ」
雄叫びを上げながら飛びかかっていく虎太郎。
その後を追う駒子。
暫く虎太郎と駒子と葎の凄まじい近接戦が続いた。
しかしさすが日本一のクノイチと言ったところか、
2人を相手にしても、様々な忍具を器用に使って決して不利にはもっていかない。
鎖の鎌を取り出すと、一気に2人の剣に巻き付け、同時に2人の動きを封じた。
「チィッ……!クッソ!!」
するとなんと、虎太郎は突然その草薙剣を離した。
それによって一瞬体勢を崩す葎。
そこに目掛けて虎太郎は札を投げつけた。
「陰陽の魅影……ここに集え」
虎太郎がそう唱えた瞬間、そこかしこからあらゆる影がみるみる葎を包み込んだ。
「チッ。めんどくさっ」
葎は舌打ちし、クナイで影を振り切りながら飛び回るが、かなり付きまとわれていて見るからにウザったそうだ。
「陰陽師ってやっぱすげぇんだな…」
「虎太郎様は、駒様よりも妖術や式神を使うタイプっすからね〜」
フクがドヤ顔でそう言うと、コウモリのガブリエルが疑問符を浮かべた。
「駒子はなぜあまり使わないんだ?
先程出したヤツも弱っちそうな鼠だし。
あいつのようにもっと虎とか出せないのか?」
「駒様は、式神として動物を使うのが好きじゃないんすよ。
動物想いなんす!」
葎は突然、自分の分身を吸収すると、一瞬で大きく飛び上がった。
1番の愛刀とする長い槍に術を溜め込み、冷徹な目を見開いたまま勢いよく虎太郎に投げた。
「虎太郎っ!!!」
「「「!!!!」」」
全員が目を見開いた時にはすでに、虎太郎を庇って駒子がそれを受け止めていた。
長い槍は完全に駒子の腹を貫通している。
「「「!!!」」」
しかし……
なんと、葎の体の周りにも、無数の刃物が今にも突き刺さらんとばかりに先端を光らせていた。
「……やるね。ウチ死んだじゃん今。」
全員が我に返ったように駆けつけようとすると、葎は冷静な態度で近づいていき、その槍を抜いた。
「だっ大丈夫?!駒っちゃん!!あれ……血が出てない…?」
和巳の言葉と共に俺らも気がつく。
「本気で刺すわけないでしょ。ウチ、人殺しなりたくないもん」
どうやら、葎の忍術による見せかけの武器だったらしい。
「くっっそ……2対1でもこれかよ…」
「でもウチも気付かず殺られてたとこだったよ。だから引き分け。」
虎太郎の悔しさは最もだが、
服咲葎という凄まじい強さのクノイチに、ここにいる全員は完全に圧倒されていた。
パチパチパチ
突然手を叩く音がし、全員がその方向を見る。
「っ!オヤジ…!」
「あ…安達…さん…」
先程から向こうでひっそり凝視してきていた着物の男は、どうやら2人の父親らしかった。
見るからに厳格な佇まいに、厳しそうな表情、そしてオーラが伝わってくる。
だが、なぜ駒子は父親に向かって安達さんと他人行儀に呼んだのかには首を傾げた。
「まさか陰陽師2人がかりで勝てんとは……
恥を知りなさい。」
虎太郎は不機嫌そうに顔を背け、駒子は眉をひそめて下を向いた。
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