第49話 忍者と陰陽師


その日から、このことがテレビニュースで大々的に取り上げられた。


約100人の人間が、意識不明。

目を覚ます気配はなし。

しかも原因が分からない謎な怪異事件として世間を賑わす大きな話題になった。


俺たち5人はその場にいた重要参考人として警察に何時間も事情聴取された。



翌日にも、意識不明の生徒や教授たちは、誰一人目を覚まさなかった。

世間の噂は専ら、空から降ってきたエイリアンの毒か、テロではないかなどという話に…。

ちなみにもちろん俺らは、ヤモメの遺体をデンたちに処理させたのだが、天井から変なものが降ってきたということはその惨状から誤魔化しが効かなかった。



「兵庫の魔羅山に行こう。」


俺の言葉に、葎が「はぁ?」と目を見張った。


「何言ってんの、アンタ。そんなに弱いくせに本気?

そっこー瞬殺されに行くってわけ?」


「俺が弱いってなんで分かんだよ!ムカつくな」


「分かるし!

ウチに襲われた時も、全部ユーゴに頼りっぱでアンタたち何もできなかったじゃん」


「っ、それは……」


それを言われては何も言い訳できない。


「ウチとユーゴならまだしも、アンタら3人は信用できないっつの!ぶっちゃけフツーに足でまといだと思う」


ギャルのバカにした物言いにはだいぶイラッとするが、力について言及されるとちょっと言い返すのが厳しい。



「そもそもちゃんと本格的な訓練積んできたわけ?」


「訓練……ま、まぁ剣道部で…だけだけど」


「はっ!?冗談でしょ?!」


葎だけでなく、ユーゴも若干引いた顔をしている。



「ウチはねぇ!小さい頃から忍者としての鍛錬をこの身に叩き込まれてきたの!それはもう血反吐を吐くまでやったわよ!

ユーゴだってそうでしょ?子供の頃から祓魔師として鍛えられて来たんじゃないの?」


「ウン、モチロン。ワタシは生まれた時からエクソシストの父や祖父、親戚を見て育ったし、ワタシが力に目覚めるための指導は本当にスパルタでしたヨ…。

毎日泣いていて……あれは厳しかったなぁ。」



「「「・・・」」」


俺らはどういう顔していいか分からず押し黙った。



「ま、まぁ俺と和巳はともかく……駒子は違うと思うぞ」


「そっそうだよ!駒っちゃんはちゃんと強いよ!剣技のプロ!」



「……フンっ。どーだか。」


「だったら私と勝負してください、葎さん。」


やっぱそーなるかぁ…と冷や汗気味に駒子を見ると、今までにないほど真剣な顔をしていた。



ということで今日の放課後また、安達亭へと赴くことに。


ヒューーと風が吹き抜ける中、

服部半蔵と安倍晴明が対峙しているまるで映画のような絵面に圧倒される。


なんじゃこりゃ。

まだ何もしてないのにすげーオーラ。普通に恐ろしい。



「忍者と陰陽師って…戦ったらどっちが強いんだろう?」


和巳の呟きはご最も。

まさに俺も考えていたことだ。

加えてもしも、俺ら武士と鬼斬り、そして祓魔師……

この中でガチ勝負なるものをした場合、一体どうなるのか。



駒子は険しい顔をして愛刀の大通連を構えているが、

対する葎は余裕さながらの表情で丸腰で突っ立っている。



「ウチ、ぶっちゃけ陰陽師と戦ったことなんてないけど、結局はただの占術師みたいなもんでしょ?強いなんて印象は持ってないからね。」



シュシュシュシューーー!!!



目にも止まらぬ早さで突っ込んでいった駒子を瞬時に避けまくり、腰からクナイをクルクルと回しながら取り出した。


カキンッ!カキンッ!

と刃同士の音が響く。


葎が大きく飛び上がったかと思えば、いくつも連続で手裏剣を落としてきた。


カンカンカンッ!

と、それを剣で払う駒子の瞬発力も只者ではない。


その瞬間葎はビュンッとクナイを投げつけ、今度は槍を取り出した。


先の長い槍を見事に使い、様々な技を繰り出した。



「さすがニッポンのクノイチですねぇ…」


「いや、感心してる場合じゃなくない…?

駒っちゃーん!頑張れーーー!」



ユーゴと和巳の隣で、俺も生唾を飲み込んでその光景に圧倒される。


葎は槍を後ろで横にかけながらクルクルと回転技で攻め出した。



「そういえば…服部半蔵は槍が1番得意だったそうっすね」


「あのクノイチすげーな。きっと忍具もこんなもんじゃねぇだろ」


フクとデンは、オヤジのようにスルメをつまみながら屋根の上でこの光景を眺めている。


デンの言う通り、今度は長い鎖に鎌のような刃物がついた忍具を取り出した葎が、クルクルと回し始める。



シュンっ!と放たれるとそれは一瞬にして駒子の大通連に巻きついた。


ハッとした駒子がググッと力を入れる。



「…へぇ、やっぱ大通連って凄い。だいたい普通の刀だと折れるのに」


葎がふふっと笑ってそう言った瞬間、なんと葎の背後を狙ったように虎太郎が現れた。

それを察知していたかのようにサッと葎が避けた。



「「「!!!!」」」


全員が驚愕し、突然のことすぎて言葉を失う。



「あん時はよくも俺のプライドを傷つけてくれたなクソクノイチ〜」


冷酷で完全に憎悪を滾らせた笑みで虎太郎は草薙剣を片手で構えた。



「ちょっ、ちょっと虎太郎っ!

突然後ろから狙うなんてまた卑怯よ!今は私と葎さんの勝負だからっ」


「いいよぉ、ぜんっぜん」


と葎は笑った。


「敵は2人くらいが丁度いいわ。ウチにとってはね。

このままじゃ弱すぎてつまんないもん」


プチンとまたキレ顔になる虎太郎、そして眉を釣りあげて冷や汗をかく駒子。



「はぁ…なんっでそういつも煽るかなぁ…」


つい俺はそう呟いた。

そのときふと、違う気配に気が付き視線を走らせる。


「?!」


ものすごいオーラを持った着物姿の男性が、

いつのまにか向こう側に立っていて、3人を険しい表情で見つめていた。

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