第48話 襲撃に来たのは


「なんだなんだなんの騒ぎだ?!おいお前ら!!そこで何して」


「来るなっ!!!」


ビクッ!!!


駆けつけてきた教授を咄嗟に一喝すると、全員がピタリと止まった。



「吾が此処に於いて、光を放つ」


俺は静かにそう言い、ソハヤの剣を引き抜いた。



「……昴、気をつけて」


駒子の言葉に頷きながら俺は、険しい顔をして足で椅子とテーブルの破片を退かした。


「っ……なんだ、こいつっ…」


「っったたぁ……っは!オイ近寄るなっ!!」


「「「?!?!?!」」」


それは見るからに、小さな子供のような鬼だった。

普通に可愛らしい顔をしていて、攻撃力は低そうに見える。


「お前らなんて怖くないぞっ!うわわぁ!来るな!」


ヒョイとそいつをつまみあげると、じたばたと暴れだした。


「おい暴れるなよ、静かにしろ。

さもないとここで殺すぞ」


俺はしまったと思った。

もうとっくに遅いが、この光景を周りの一般人たちにかなり目撃されている。

この異様な生き物は見えていないかもしれないが、武器を振り回す俺らがこの騒ぎを起こしたと思われて退学させられるかもしれない…。



「は〜、マジかよー…」

まだ1ヶ月しか経ってないのに……!!!



「昴!危ない!離れてっ」


「っへ?」



突然、ユーゴにパンッ!とソイツを弾かれた。

その瞬間・・・


シュパパパパパー



「え……っ…!」


ケラケラと笑っているソイツから、毒々しい色の煙のようなものが噴き出した。

それは飛沫のように一瞬にして食堂に広がり、この場にいる俺ら以外の人間が気を失った。



「っ!!おいお前っ!何をしたんだよ!」


「くくくくくくっ!どーだー!凄いだろぉ!ヤモメの力は!」


どうやらこいつはヤモメというらしい。

が、そんなことはどうでもいい。


「まさかお前…大嶽丸の使いかなんかか?」


「えっ!なんで知ってるの!?」


正直すぎる……。

まぁそれならよかった。

コイツから聞きたいことはごまんとある。



「ねぇキミ……。どうして僕たちのことを知ってて、なぜ居場所もわかったの?」


「そんなの!大嶽丸様なら朝飯前だぞぉ!!」


和巳に対し、ヤモメは「舐めるなよ!」などとブチギレている。



「おいコラ、そんなことより!ここにいる人間を元に戻せ!さもないとお前の首が飛ぶぞ」


一見、小さくて弱っちく見えるくせに、なんて力を持ってるんだと思った。

だが恐らく、妖力が高い俺らには辛うじて効かない。


駒子が周囲の人間を確かめ、息はあると判断した。

毒のような類かもしれない。



ヤモメは「楽しい〜ッ!」と言いながらケラケラと笑い転げている。


くそっ…ダメだこいつ。

何言っても通じないタイプだ。



「昴、ソイツを押さえてて」


ユーゴが小さな瓶を取りだし、ヤモメの頭に数滴 水のようなものを垂らした。



「答えてください。大嶽丸は、どこにいマスカ?」



ヤモメは突然大人しくなり、目が据わりだした。



「……兵庫の……魔羅山……」



「まらやま?……大嶽丸はこちらのことをどのくらい知っていマスカ?」



「……全部…知ってる……」



「「「?!?!?!」」」


ヤモメがニヤニヤと不気味に笑った。

徐々に恐ろしい声色になっていき、まるでその口調は……


「お前らの顔も…家族も…場所も…

何をしようとしているのかも…全部…全部……」



ゾッと鳥肌がたった瞬間、ヤモメがパッと我に返った。



「はぁ……やはりワタシの聖水は…

父上のものほど強力じゃないデスネ…」



「オイオイ!ヤモメを離せっ!!

ヤモメはなっ!強いんだぞ強いんだぞ!」


「……暴れるなよ。意味ないから。」



こいつの毒は確かに強いが、毒以外はほぼ何もできないような奴だろう。こうして暴れていても笑えるくらい力がないまるで本当に子供のようだ。



「こいつ…どーするか。

とりあえずデンたちと相談してから決めるか。

誰か何か縛るもんとかないー?」


ヤモメはムッと焦った顔をしたかと思えば、アッと閃いたように何かを取り出した。



「……ん?なんだそりゃ」


なにか小さなスイッチのようなものだ。



「はっはっは!これでお前らイチコロ!ケラケラケラ」



俺らはギョッとする。

まさかっ……ここを全て吹き飛ばす気か?!


ヤバいっ!どうする?!


駒子も和巳も葎もユーゴも、目を見開いて思考を巡らせた。



「クスクスふふふっ…」


" ヤモメ、どうしても困ったときにはこれを押すんだ "



ヤモメは得意げに笑いながら、ピッ!とスイッチを押した。



俺らが、やられた!と思った瞬間には、

信じられないことが起きていた。



ヤモメが白目を剥いてグッタリと死んでいた。


俺は目を見開き身震いし、ついヤモメを持つ手を離してしまった。


ボトッ…と嫌な音と共に床に死体が落ちる。



「自爆装置を持たされていたようね」


冷静な声色で葎が言う。



「忍者の世界では、敵に捕まった時、自ら自死を選択するけど、なんかこの子は騙されてそれを持たされていたみたい」


「ゆ、許せない!……どう見てもまだ子供…

利用するだけして簡単に殺すなんて……」


和巳は眉をひそめてしゃがみ込んだ。


俺はギリと奥歯を噛み、ソハヤを握る手を強めた。



「きっと始まったんだ…いや、もう始まっていた。

これから先、アイツらは本気で俺らを攻撃してくるぞ。

こんなふうに……」



周りの人間たちが倒れている。

天井には大きな穴が開き、そこらじゅうが散らかっている。



" ……全部知っている。お前らの顔も…家族も…場所も…

何をしようとしているのかも…全部…全部……"



俺たちだけじゃない。

家族や大切な人、周りの人間、環境…

全てが今、破壊されそうになっている。




「これは奴の宣戦布告だ。」



きっと、そう遠くない未来にやってくる。

俺らが全力を出さなくてはならない時が。

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