第46話 忍者の仲間入り


ー 数時間前 ー



安達虎太郎は服咲葎に襲われた。


しかし虎太郎は、随分と前から付けられている気配を察知していたため、瞬時に剣を振り抜いて応戦した。



「なんだなんだー?熱烈なストーカーだな、オイ」


「その剣をくれればすぐ引き下がってあげるけど」


「あ?顔も見せねぇで突然襲ってくるような奴に渡すか!」



カンっカンっカンっカンっ


猛スピードで互いの刃がぶつかり合う。

服咲は短いクナイだというのにビクともしない。



虎太郎は内心驚いていた。


この女っ!なぜこんなに手応えねぇんだ!?

刃には当たってるはずなのに!

まるで空気のように感触がない!存在感がない!

何かの影か雲とやり合ってるみてぇだ!



「四分身」


突然そう唱えたかと思えば、服咲がなんと四人になった。


「んなっ?!」


虎太郎は4人に囲まれ、四方からの攻撃を一度に相手にしなければならなくなった。


ヤベぇっ……!なんだこいつ!

タダモンじゃねぇぞ!!!


いや落ち着け……

本体を見抜け!

必ずどれかが本体なはず!あとは偽物だ!



戦いながらカッと目を懲らす。



「大したもんね、アンタ。

この数を一度に相手に出来てるなんて。」



口の動きが微妙に違った!

コイツだ!!!



「オワリだ!ぶっ殺してやる!!」



シュッッーー!!!



はっ……?


消えた?!



全員消えた……!!!

そう思った瞬間にはグッと後ろに引かれ、スっと何かが首に刺さった感覚がした。


その瞬間、ビビビッと身体中に電気が走ったようになり、その感覚を最後に体が動かなくなった。


バタリとうつ伏せに倒れる。



「大丈夫大丈夫〜、毒とかじゃないから。

コレ。この針はウチの家系で代々伝わる忍針にんばりなの。」



くそ……神経を弄る類のやつか……


本当にピクリとも動かねぇっ……

瞬きすらできねぇし表情すら変えれねぇっ!



スっと草薙剣を奪うと、服咲葎は満足そうに笑った。



「あ、大丈夫だよ!個人差あるけど、5分から20分くらいで解けるから!アンタなら早いかもね!

ここが人目につかない公園でよかったね!

じゃないとマヌケすぎるでしょう?ふふふふっ」



バイバーイ!

と言って服咲は忍者のようにスススッと飛びながら瞬時に去っていった。


その約3分後……

虎太郎は目が覚めたのだった。





ーーーーーーーーーー




顔を青くした駒子がスマホを取りだし、急いで虎太郎に電話をかけ始めた。



「……っあ!もしもし虎太郎!今何して」


«…っせぇ!!どーせてめぇの仲間だろ!!死ね!!»


プツッーー



「……虎太郎くん、なんだって?大丈夫?」


「どうしよう……私たちの仕業だと思われてる」


「えぇっ?!」



駒子と和巳のやり取りを聞き、俺は奥歯を噛んだ。


くそっ……!この女……!!



「返してくれ。その草薙の剣は虎太郎くんのものだ」


「はぁ?今はもうウチの物なんだからアンタらにとやかく言う権利はないじゃん。欲しけりゃウチから奪ってみなさいよ」


その態度にかなりカチンと来たが、何とか自分を落ち着かせようと必死になる。

ここは穏便に済ませないとさらにめんどくさいことに……


そーだ!!

こういうときこそ和巳の出番だ!!

いつもの調子でコイツを口説け!!


「……和巳」


「え……?」


「ほら早く!」


「えっ、なっ、なにが?」


「なにがってホラ!いつもみたいにGOJUの説明を1から10までしてコイツを誘うんだ!」


「えぇっ?!い、嫌だよぅ。僕にはできないっ!」


「はぁ?!なんでだよ!!いつもはアッツイ弁舌すげぇじゃん!」


駒子のときもユーゴのときもあんだけの熱意で口説いてたくせに一体どうしたんだ?!


「はっ……」


俺は思い出した。

そういえば入学早々、初めてこのギャルを目撃した時……


" 僕さ、高校の頃、あぁいうスクールカースト上位系女子によくからかわれてたからさ~。ちょっと苦手なんだよね "


そう言っていたな……。

なるほど、和巳はこういうタイプの女子だけは苦手なんだ……!


仕方ない。

ここは俺が一肌脱ぐしかねえ!



「服咲先輩。あのさ……それだったら、俺らのチームに入らない?」


「は?チーム?なによそれ」


「話すと長くなるけど、今日本は危ないんだ。君がそうやって必死になって三種の神器を集めたところで、どっちみち君の好きな人は死ぬ。」


「っ?!は、はぁっ?!何言っちゃってんの、アンタ!」


「事実だよ。日本三大妖怪の鬼神に日本は潰されるんだ。

人間は確実にみんな死ぬか、奴隷にされて支配される。

本来、人間間でこんな奪い合いなんてしてる場合じゃないんだよ」



服咲は目を見開いたまま固まっている。



「そいつは最強の妖怪だ。

俺たち一人一人の力じゃとても適わない。

だから皆で力を合わせる必要があるんだ。

自分の大切な人を、家族を、友達を守るために……

日本を救うんだよ。」



いつの間にか周りには、デン、シロ、フク、松竹、酒呑童子、太郎坊が集まっていた。

やはり服咲葎も魑魅魍魎が視える目を持っているようで、複雑そうな目付きで俺らを見回した。



「俺ら全員でキミにかかれば、キミは確実に負ける。

さぁどうする?こっちについて、好きな人の人生守るほうが賢明だと思うけどね。」



服咲は暫く沈思したあと、



「……わかったよ。」



肩の力を抜いてそう言った。



「ウチ、好きな人のためなら……死だって怖くないから」



玲瓏に光る服咲葎の瞳は、なぜか異様に切なげに見えた。



ポンッ!と投げられた草薙剣を、駒子がキャッチする。


「それ、返しといて。

アンタの恋人だとは知らなくて。悪かったね」


「ちがっ、恋人じゃなくて弟!」


「?そうなの?」


そのとき、1羽の鴉が飛んできて、服咲の腕に止まった。


「じゃっ、また明日大学で」


フッと妖艶に笑うと、落ちている面をつけた。

そして呼び止める間もなくカラスと共にシュシュシュッと飛ぶようにして消えていってしまった。

カラスの鳴き声も遠ざかっていく。



「早っ……忍者みたいに移動してっちゃった……」


「ニッポンにまだ忍者がいたんデスネ!スゴい!カッコイイデス!

忍者は世界中の憧れ!」



和巳のつぶやきに、興奮しながらそう言うユーゴ。

俺は目を見開く。


「えっ?忍者なのかアレ?」


「どっからどー見ても忍者だろ」


と返したのはデン。


「いや、どっからどー見てもギャルだろ」


「ありゃあ忍者の末裔だろうなぁ。

カラス連れてんのも忍者らしいわ」


「ですねぇ。ヒック……

忍者なんて江戸時代までしか見ませんでしたけどヒック」


続いて酒呑童子と太郎坊が明らかに酔っ払っている口調でそう言ったので驚愕する。


「マジか……今度は忍者が仲間入りかよ……」


「良かったじゃないっすか昴くん~

忍者なんて今どき激レアでなかなか心強いっすよ~」


「まぁ俺らも相当激レアなんだけどな。

ってフクまで酔っ払ってんのかぁ?」


「ワタクシは、女子は反対ですけど!」


と口を出す松竹も顔をほんのり赤くしているのがわかる。


どうやら皆でどこかで飲み会でも開いていたようだ。


まぁ仲間の親睦を深めるのは良い事だ。



「じゃあまた明日、新メンバー歓迎会をやんなきゃだね!」


「またか……2日連続焼肉はナシだぞ……」



そんなこんなで俺らのチームに、また新たな仲間が加わったのだった。

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