第45話 服咲葎


ユーゴの瞬発力は只者じゃなかった。


「和巳、ダイジョウブ?怪我はないデスカ」


「あ、っうん...っ」



あんな一瞬で……?!

しかもこれを弾いた?!


ユーゴは和巳を庇うようにして背後に隠したので、俺も駒子も急いで警戒する。

和巳を囲むように全員が背中合わせになり、視線を走らせる。


シュパンシュパンシュパン!!!


四方八方から飛んできた手裏剣...

それと同時に、


「エクラテル」


ユーゴがそう言って十字架を握ると、それらが全て弾かれた。


「プロテクション」


今度は十字架からの光が俺らを包み込んだ。


その光に照らされ、近くの木の上にいる一人の人影が見えてきて、俺らの目が見開かれる。


「ガブリエル」


ガブリエルを中心に、ババババババババと大量のコウモリが出てきてその人物目掛けて飛んでいった。


「うわぁぁあっっ!なにこれぇっ!?ちょっ!離しなさいよ!」


コウモリたちに囲まれたその「女」が、俺たちの前に転がされた。


不思議な面をつけていて、顔は見えない。

俺はゆっくりと近づいていき、その面を取った。



「「「え」」」


「キミって……」



何度か大学内で見かけている、大学一目立っている派手ギャルだった。



「どうしてキミが……」


「アンタらに用はないのよ!

そこのモデルとメガネ!アレ持ってるんでしょ?」


俺はすぐにピンと来た。

ユーゴと和巳しか持っていないもの……



「まさかキミも三種の神器目的か?」


「いいからさっさと離しなさいよこの薄汚いコウモリを!」


チラとユーゴを見て、俺はゾッとした。

恐ろしいほど冷酷な目付きをしていたからだ。


「アナタが攻撃をしないと誓えば離しマス。

さもなくば、今ここでコロします」


「えっ、ユーゴ」


「……はぁ。わかったわ……何もしないから。」



ユーゴは静かに目を細め、

「ガブリエル」と小さく呼ぶと、ガブリエルを残して他のコウモリたちはすぐに消えた。



「で……アナタは何者デス?」


「ウチは、服咲 葎ふくさき りつ

K大学3年、法学部。」


立ち上がりホコリを払う葎の服装は、やはり今日もすごい。

髪型やメイクだけでもすごいのに、いつものへそ出し露出度激しめな派手な服装にはやはり驚きを隠せない。

ただ、尻が小さくて胸がデカく、足が異様に長いため、まさにナイスバディというやつで、その服装が似合っているのだからすごいと思った。

それに葎は、たまにロリータのようなテイストの格好もしてくるため、学内では彼女を知らない者はいない。



「服咲先輩。三種の神器を求める理由が知りたい。」



服咲葎は、鋭い目線を突き刺し、ムッとした表情で言った。


「必要なんだから必要なの!

アンタたちだってそうでしょ!」


「俺らはちゃんと目的があるんだよ。

とゆーか……三明の剣ならわかるけど、三種の神器がこんなに人気なのなんでなんだよ……」


俺らはあの大嶽丸に立ち向かうため、天照大御神に会う条件の三種の神器が必要なわけで。

けど、ユーゴもこの女も、三種の神器を集めようとしている。

ユーゴの目的は、祖国のエクソシストの力を復活させるためとか何とか言ってて、あまり詳細は聞かなかったけど……

そんな力、三種の神器に本当にあるのか?



「昴くん。三種の神器、手に入れた者が1番強く願うことを叶えると言われてマスヨ」


「……でもさぁ、それ、言われてるだけだろ?

ちなみに俺はそんなの聞いたことないし」


「ケド……その可能性にかけてみたい。たとえ1パーセントでもあるなら」


ユーゴは切なげに笑った。

わざわざはるばるこの国に来てまで成し遂げたい望みなんだろう。



「……じゃあ、服咲先輩は?何が望み?」


「う、ウチは……」


服咲葎は、口ごもってしまった。


「理由によっては、俺らの目的が達成した後にキミにあげてもいい。ユーゴ先輩の後になるけど。」


ぶっちゃけ使い回しできるかすら知らんけど、シロのアドバイス通り、そんときのことはそんとき考えればいい。

最近気づいたんだが、俺って結構テキトー人間らしい。



「ウチの……目的は……、す……」


「「「す??」」」


「す……す、すす……」


俺らは首を傾げる。


「スから始まるニホンゴ……スシ……スキヤキ……スルメ……スイーツ……」


ユーゴがなにやらブツブツ始めてしまい、ますます分からなくなってくる。

服咲葎の顔は少し赤くなってきていて、次第に痺れを切らす。



「はぁ……なんですか、服咲先輩。

はっきり言ってくださいよ」


「わかった!スバらしい世界にしたい!とか!」


次の瞬間、和巳の言葉にかぶせるように放った答えに我々は全員言葉を失ったのだった。



「好きな人に!好きになってもらいたい!!」



「「「・・・」」」



……は?


そんなバカげた目的のために……?!

嘘だよな嘘だよな?!



「言ったわよ。これで文句ないでしょう?!」


「いやいやいやいや文句あるわフツーに!」


「はぁ?なんでよ?!ちゃんと約束は守ってもらうからね!」


「願望のレベルが違すぎるんだよ!!

いいか!?俺らは神の頂点の神中の神に会うっつー崇高な目的があるわけ!なのにアンタはなんだっ?!す、す好きな人に惚れさせるために三種の神器を奪おうとしてたのかよ!!」


「ばっ、バッカにすんじゃないわよ!なんにも知らないくせに!!

ウチの愛がどれほど大きくてどれほど長くて一途か!!」


「そうだよ、昴。

人の夢や希望をバカにしたり笑ったりしたらダメだよ。

本人にしか分からないことなんだし。」


「...っ……」


和巳にそう言われると、言葉に詰まってしまう。

涙目になっているこの女に、とてつもなく悪いことをした気分になってきた。俺は本来単純な性格だから……。



「あー……えっと、ごめん。

はぁ……わかったけど、先輩はなんでこんな危険なもの持ってたんすか?」


俺は地面に落ちている手裏剣を拾った。

めちゃくちゃリアルでおもちゃではないことは一目瞭然。


「っ……」


こんなもん当たったらガチでヤベエじゃねえかよ!

何考えてんだこの女!!

一人の男に心酔するメンヘラ女子か!!!



そのとき………


俺らは信じられないものを目にした。



「あ~もう。やっぱ分散するとまだまだ力不足かぁ~

こーんな雑魚に捕まったりして。ったくもぉ」


そう言って道を歩いてきたのはもう1人の服咲葎だった。


服咲葎が二人?!?!


俺らの目の前にいてさっきまで会話していた方の服咲葎が、ビュンッ!と一瞬で消え、現れた方の服咲に吸収された。



「なっ……どーゆーことだよ。お前誰だよ」


「は?さっきまで話してたじゃない。服咲葎よ。」


「ちょっ……!あなた、どうしてっ」


駒子が突然、驚愕した表情で指を指した。


「どうしてあなたがっ……虎太郎の刀を持っているの?!」


「「「?!?!?!」」」


「虎太郎に何したの!!」



よく見ると、今現れた服咲葎が腰につけているのは……



「草薙の剣……!!」


服咲はニヤリと笑った。

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