第43話 エクソシスト加わる



和巳も駒子も当然、まるでお化けでも見るかのように目を丸くして目の前の人物を見上げた。



「紹介するよ。フランスからの留学生、ユーゴ・メリン先輩だ。

先輩は必ずつけてあげて。」


「ハジメマシテ!ヨロシクネ♪」



「は、はじめ…まして……」

「よろしく……」



「彼は、エクソシスト……祓魔師らしい」



「「えぇっっ!!」」



キラキラした笑みを振りまくユーゴは、どこに行ってもキャーキャー言われ、すぐに人集りができてしまうため、ひとまず俺はいつも密会をする3棟校舎の屋上へ連れてきて、2人を呼び出した。


高校の時の名残か、俺はなぜか屋上にいるのが1番落ち着く。

あの頃みたいに、松竹、酒呑童子、太郎坊も集まってきている。



「これは一体……どういうことなの、昴。どう見ても……」


「うっわぁ〜っ!すっごい!フランスから留学に来たなんて!

身長たっかーい!髪なっがーい!目きっれーい!

祓魔師とかカックイーーっ!!」



駒子とは真逆のいつもの反応をする和巳に、さすがに今回ばかりはギョッとする。

まさか、気付いてないのか……?



「ねえ!フランスのどこから来たの!?」


「パリデス!」


「首都じゃないか!!いいなぁ〜!

エッフェル塔とか凱旋門とかルーブル美術館とか、僕すっごく憧れてるんだ!!

いつか絶対見てみたくて〜」


「是非来てください!案内シマスカラ!」


「ホントにっ?!あっ、ねえフランス人は毎日クロワッサンを食べるってホント?」


「あ……そういう人はマレと思いマスネ!

ワタシはcroissantコワソンよりGaletteガレッの方が好きでよく食べるのデスヨ!」



いや、発音!!!



「ガレッって何?!あ!もしかしてガレット?

知ってる!!日本でも最近流行ってるって噂が!」



やばいやばいやばい……!

かんっぜんに和巳モードに突入している……!!


この謎のフランス美男子に嘘をつかせず逃がさないためにこの場を設けたのに!!



「ちょ、ちょっと和巳!一旦ストップ!!」


「……へ?」



俺はさっそく、ユーゴに向き直った。



「ユーゴ先輩。聞きたいことがあるんだけど」



「Evidemment!」(もちろん!)



「え、エビだもん??」


エビなの?

いや、いいよってことかな……?

この笑顔はそうだよな??


俺は生唾を飲み込み、真剣に言った。



「八咫鏡……持ってるよな?」



ユーゴはポカンとした表情になった。


そんな顔したって誤魔化せないぞ!!



「んー?……あぁっ!八咫やたのミラーね!」



「ん、んん、そう、ソレ。ミラーミラー」



「うん!持ってマス!」



うっ……美男子スマイルが眩しい……!!


じゃなくて!!



「せんぱっ」

「ユーゴさん、私たち、それが必要なんです」


俺を遮って、駒子が声を出した。



「あなたは…どうしてそれを?」



「あぁ……ワタシは…」


「ユーゴ!いたいたこんなところにっ!ッピ〜」


ったく!と言ってすごい勢いで飛んできたその黒い物体に目を見張る。


どう見てもコウモリだった。



「捜したんだぞ!ったく!

……ん?もうこんなにオトモダチできたのか?ッピ〜」


「うん!すごいでしょう?!Youpiユピーっ!☆」


さぞ嬉しそうな顔で微笑むユーゴに、俺らは若干怯む。

どう切り出していいか分からなくなる。



「あ、紹介しマス!

この子はガブリエル。ワタシのアイボウ!!」


コウモリのガブリエルは、不気味な瞳でグルリと俺らを見回すと、ピ~と鳴いた。


「どーもッピ〜。人間じゃないのも混じってるみたいだけど、仲良くしてくれッピ〜」


「「「よろしく.....」」」


俺はつい、


「ピ~て...…コウモリって鳥だっけ」


ボソリと呟いてしまった。



「コウモリは哺乳類……のはずよ」


駒子も静かに呟いた。

まぁそんなのなんだっていいんだが、コウモリのくせに口癖が鳥っぽくてオカシイ。


「いいなぁ!コウモリ!カッコイイ~!

僕も昔、コウモリ飼いたくて親に打診したけど、見た目が不気味とかって却下されたなぁ」


蛇は了承するのにかよ、と心の中で突っ込んだ。



「それでユーゴ先輩!八咫鏡がどうして必要なの?!」



KYで話題変えるのが早いところも和巳らしい。

が、まぁ助かる。



「……アナタたちと、同じ理由だと思いマスケド?」


ユーゴがニタリと笑った。


「えっ、じゃあユーゴ先輩も天照大御神様に会いたいんだ!!」


和巳の言葉に、ユーゴの目が点になった。


「なら今日からユーゴ先輩もGOJUの仲間になればいい!」


「ご、ゴジュウ……?」


「うん!あのね僕らはね!ガーディアンズ・オブ・ジャパンってユニットなんだ!略してGOJU!そして僕らの目的は、日本三大妖怪の大嶽丸を倒すこと!そのための課題の1つに、三種の神器を集めて日本最大の神である天照大御神様に会うことってのがあってー……」



止める間もなくペラペラと内部事情を話されてしまい、俺たちは内心焦り出す。

こんな得体も知れない奴にいきなりそんな……



「ってわけだから、君も僕らと同じ、"五十師いそしにならない?」


「イソシ?」


「僕らを総称した呼び名だよ!

僕は鬼斬師、昴はリーダーの武士、駒っちゃんは陰陽師!そして君は……祓魔師だ!!」



ドヤ顔の和巳を前に、沈黙が流れる。


ユーゴも目を丸くして瞬きをしている。


そりゃそうだ。

突然そんなワケわからんこと言われたら誰だってこうなる。

もしかしたら俺らは、大学生になっても厨二病拗らせてるおかしな集団だと思われたかも。



「そ……だったのデスカ……」



うわ……この顔絶対引いてるじゃん!!



「あっ……ユーゴ先輩、ちょっと待って今のはっ…」



「やりマスッ☆」



やるんかいぃっっ!!!!!



「ニッポンを救う守護者たち!!

すごくCOOLです!!superスュペール!!

ニッポン大好きなので、ワタシも救う!!」



あれ、もしかして……

コイツも和巳寄りの人間……?




「デモ、三種の神器……

その神様に会ったあとは、ワタシにクダサイね?」


うわ、出た。コイツもか。



「えっ……いやあのさ……

マジでユーゴ先輩は、なんで三種の神器集めてるの?」



「それは……故郷のエクソシストたちの力を復活させるため……」


ユーゴは急にしおらしくなった。

眉をひそめて十字架のペンダントを握った。

読めないが、なにか文字が書いてあり、クリスタルのような石が埋め込まれているようだ。



「ワタシの国では、エクソシストは20世紀前半でほぼ滅びました。

今残っているのはワタシの家系だけ。

エクソシストは崇高な悪魔祓い。祖国では、サタンに抗う術として唯一残された力だと思っていマス……

時代と共に弱まるエクソシストの力がもう一度……必要なのデス…」



「つ、つまりそれって……キミの国も危険にさらされてるってことか?」



ユーゴは小さく頷いた。


俺は無意識に顎に手を当てて考え込んでいた。

和巳も駒子も、リーダーである俺の意見を待っているようだ。


「昴さん……いいんじゃないでしょうか」


また耳元でコソッと囁いてきたのはシロだった。

シロは俺が悩んでいる時や決断できない時にはいつもニョロリとやってきてこっそり耳打ちする。


「ひとまず今は神器については了承しておいて、その時になったら考えればよろしい…この男の力は使えるので…今は引き入れることが最優先かと…」


「……だけどなぁ……それって……」


駒子を引き入れた時も、三明の剣を渡すと約束して引き入れた。

そのときもシロの提案で。

んで、今回も。

蛇だからなのかなんなのか……ずる賢いというか……

人を騙してるみたいでちょっとな。



「昴、ユーゴ先輩を仲間にしよう。

日本だけじゃなくて、全世界を救おうよ」



和巳の瞳の中に、光が宿っているのが見えた。



「僕ね……昔から人を見る目はあるんだ。

だから、良い人か悪い人かくらいはすぐに分かる。

ユーゴ先輩は、絶対に良い人だ。」



こうして俺たちGOJUの仲間に、新たに祓魔師が加わった。

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