第41話 男の次に好きなのは


「と、とりあえずそのっ……め……眼鏡を返してもらえますか」



和巳はまだ玉藻の前に眼鏡を取られたままだ。

たしかに裸眼の和巳はかなりのイケメンだ。

俺も最初は驚いたくらいに。



「そなた、眼鏡でだいぶ損しておるぞ。

妾がその目を治してやろう」


「いっ、いえいいです!眼鏡気に入ってるんで!

そ!それより!本当に八咫鏡を持っているんですか?」


「ここにはないぞ?」


「「「えっっっ」」」



全員で目を見開いていると、

幻聴かと思うような言葉が降ってきた。



「つい先日な、ここへ来た男前が欲しがったのであげてしもうて」



俺らは耳を疑った。


誰だよそれ……!



「そっ、それは……人間ですか?」


「あぁ、人間の男じゃ。近年稀に見る男前……

いやもしかしたら……妾がここ千年以上見てきた中で断トツの男かもしれん〜♡」



赤く染めた両頬に手を当て、照れ照れとしだす玉藻の前。



「えっ……いや、ていうか……

もう手元に無いものなのにあげるって……どういうつもりだったんですか!」


「じゃから、その男から貰えば良いだろう?

妾の許可をとってあると言えば良い」


いや、なんだそれ。

倫理観おかしくね?

所有者もう変わってんだよそれ!!!



「それは……どこの誰……

どういう見た目のどういう人間……」


ここにきて初めて駒子が声を出した。

玉藻の前はその存在に今気がついたかのように顔を顰めた。


「貴様は……陰陽師じゃな?

妾がこの世で1番嫌いな人間じゃ。」


なるほど。やはり陰陽師は妖怪たちから嫌われてるなぁ。デンのときも松竹ちゃんのときもそうだったし。

まぁ確かに、陰陽師っていわゆる妖怪退治屋だからなぁ。


「この子は別に、あなたに危害を加えるようなことは一切しないっすよ」


「ん?おぬしはやはり……天日鷲神あめのひわしのかみの使いフクロウか?」


「そのとーりっす!日本一の物知りフクロウっす!

この子の祖先は陰陽師最高位の安倍晴明。

玉藻の前様の嫌う過去の陰陽師連中とは関係がないっす」


「そんなことはどーでもよい。

妾はそもそも、人間の女が嫌いなのじゃ!」


俺は鼻でため息を吐きながら肘でつんつんと和巳を押した。

和巳は気がついたように慌てて口を開いた。


「あっ!あの、とにかくその人の特徴だけでも教えていただけませんか?

僕らどうしても……八咫鏡が必要なんでっ」



玉藻の前は、自分の気に入った男の言うことならなんでも聞くのか、フフっと妖艶な笑みを浮かべ、思い出すようにまた頬を染めだした。



「年齢はそなたたちと同じくらいに見えたな♡

背は190くらいかのぅ♡

髪は肩より長く、白銀に薄いブルー……美しい♡

肌は雪のように白く、瞳は……ちょうどそこの小娘の紫と、フクロウの黄金色を混ぜたような……

まさに人間離れした美貌を持つ青年じゃ♡

確か……コウモリを連れていたのぅ」



「「「・・・」」」



「や、それホントに人間?」


思わず突っ込んでしまった。


だってそんな目立つ容姿していたら、モデルかタレントやってるか、噂くらいはされてるはずだけどな……



「はぁあ♡♡会いたいのぅ……♡

あっ、そうじゃ!見つけたらまたここへ連れてきてくれ!約束じゃぞ♡

そして、眼鏡のそなたと、白銀のそやつと妾の3人で夜を過ごす……♡

したら八咫鏡をあげてもよいぞ」



いや、だからもう所有者変わってんだから既にアンタのもんじゃないんだって!



「え……え……え……僕とその人とこの人で……ささささんぴ」


「まぁまぁ和巳!いいじゃないかぁ!減るもんじゃねーし!それに……」


俺はビクビク顔を青くしっぱなしの和巳の耳に口を近づける。


「お前ドーテーじゃねぇんだろ、和巳。

絶世の美男美女に揉まれて経験値爆上がり間違いなしじゃん……」


そう囁くと、和巳の青かった顔は一気に真っ赤になった。


可哀想なような羨ましいようなだな。

いや、ホントは超羨ましいぜ。

つかそもそもドーテーじゃない和巳が許せないぜ(泣)

代われるもんなら代わってやりたいわ!



「ん、おや?そなた、坂東昴か。」



今気付いたんかーーいっ!

はじめからずっっといましたけどーーーー?!



「もちろんそなたのこと、噂には聞いておったが……」


おったが?

おったが何?


って、終わりかーーーい!!

感想ゼロかーーーい!!


え、俺の容姿そんなにダメなん?


なんかマジで腹たってきた。




「ま、なにはともあれありがとうございます、玉藻の前様!助かりました。

よろしければこちらの稲荷寿司をどうぞ!」



「おぉ、松竹はいつも気が利くのう♡

男前の次に好きじゃよ。」



「ふふっ、よかったです!男の次に稲荷寿司がお好きなことは承知しておりましたから」



「違う。男の次に好きなんはそなたじゃ、松竹」



「っ!いや〜ん、玉藻の前様ったら……!」



俺は今日何度目かも既に分からなくなっている溜息を吐き、考え込んだ。


せっかくここまで来たのに、目的のものは無かった。

今はどこの誰だかわからん男の手にある。


仕方ない……

手がかりなんてないけど探すしかない。



人間離れした美貌かぁ……


ったく、俺の周りは妖怪含め美男子ばっかかよ。


なんか探すの嫌んなってきた。




・・・しかし・・・



その人物は、思いのほか早く見つかったのだった。

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