第40話 八咫鏡の条件
そうしてようやく、赤い鳥居が見えてきた。
その奥に、これまた妖しい空気を存分に醸し出している小さな拝殿が見える。
こんな山奥でも一応参拝者がいるのだろう。
賽銭箱や手水舎があり、二体の狛犬は当然のことながら狐の姿をしていた。
和巳に習い、一礼してから鳥居を潜り、拝殿の方へと歩いていく。
「………。」
俺は今、全身の産毛が立っていた。
わかる人にはわかる。
ここのオーラの圧は尋常じゃない。
歓迎されてないとまでは言わないが、誰彼踏み込めないような……まるで来る者を品定めしているような複雑なオーラが渦巻いているのがわかる。
いつどこからどんなものが現れてもおかしくはない雰囲気が手に取るように分かり、俺は五感を研ぎ澄ませた。
「出だしは肝心だ。充分用心して、こちらに攻撃の意図は無いことを……」
「玉藻の前様〜っ!松竹でございます!」
えっっ!そんないきなりっ?!
シーン………
「……あら?いらっしゃらないのかしら?」
俺の鼓動の速さがMAXになっている。
だってこの雰囲気……
敏感な一般人でさえ、ここに入っただけでこの空気に飲み込まれてきっと頭痛や体調不良を起こすだろう。
「……気配もないな……。本当にいないのかもな」
いないと話が進まないし……
ここで待つか、帰るか……
さて、どうするか……
「うわぁぁあっっ!!」
「っ?!なんだ、どうしっ」
?!?!?!?!
和巳の眼鏡をとり、
和巳の顔に触れ合うほど顔を近づけているこの女……!!!
まさかこいつが……っ!!
「ほぅ……やはり
「えっ……えっ……なにっ……僕のっ、めっ、眼鏡っ」
「そなた、眼鏡を取るとなかなか良い男ではないか」
顔を近づけたまま、フッと妖艶に笑うその絶世の美女に、和巳は顔を真っ赤にして力が抜けたようにヘナヘナと座り込んでしまった。
「お久しぶりでございます!玉藻の前様!」
「おやおや、松竹。幾年ぶりか……ん?おや?」
松竹がニコニコと笑いながら凄い力で彦を引っ張り、目の前に立たせた。
「っ!!おや……おやおやおやおやおや!!」
彦は明らかに顔色悪く苦笑いを浮かべている。
「ど、どーも……」
「彦くーーーーーーんっっ♡♡♡♡」
「「「え」」」と全員の口から声が漏れた。
突然態度が激変した玉藻の前が、でかい乳房をギュッと彦に押付けながら抱き締めたのだ。
あ〜……なるほど……
と俺はもう既に気がついてしまった。
玉藻の前……この大妖怪……
美男子つまりイケメンが好きなんだ!!!
だから美男子な彦と、メガネを取ったイケメン和巳に欲情している!!!
・・・ん?
ちょっと待てよ……?
てことは何……俺は……
「・・・」
気づいた瞬間イラッとした。
「どーしたどーした今日は良い男を2人も連れてきて〜松竹や♡
何が目的なのだ〜?♡言うてみい♡」
あ、もうかんっぜんに上機嫌モード。
マジでなんでも叶えてくれそうなパターンだわ。
俺は急いで和巳に耳打ちした。
「おいお前、早く八咫鏡のこと言え!」
「えっ、僕がぁっ?」
「和巳が言った方がいいに決まってんだろ!」
和巳は困ったように頭をかきながら恐る恐る声を出した。
「たっ、玉藻の前様……えっと……あのー」
「んん?♡なんじゃ〜?男前くん♡」
「そのっ…ですね……や、
「……なに?」
美しく整った玉藻の前の顔が、僅かに歪んできた。
俺らはゴクリと生唾を飲み込む。
沈黙が長く、生暖かくて心地の悪い風が吹いた。
「あ、えっとあの……」
沈黙に耐えきれない性格の和巳が痺れを切らして何かを言いかけた瞬間……
「良いぞ♡♡♡」
玉藻の前が突然ニッコリ笑顔でそう言った。
「え……そんなあっさり……」
「そもそも何故あんなものを皆欲しがるのだ?
とくに使い道などないぞ?」
俺はホッと胸をなで下ろしていた。
まさかこんなにすんなり上手くいくとは。
全国の王を誑かし国を滅亡させまくっていた大妖怪だからか、今でもイケメン好きというわけか……。
「だが、八咫鏡をやるには条件がある」
「……条件?」
やっぱり一筋縄ではいかないか……
と俺はため息を吐いた。
「それが欲しいのなら、妾と一晩一緒に過ごすのじゃ♡」
サッと顔が青くなる和巳。
俺はそんな和巳の背をグイグイ押した。
「どーぞどーぞ!全然大丈夫っす!こいつも大歓迎らしいんで!」
「ちょ!ちょっと昴っ!!何言ってっ」
「こんな美人なお姉さんに童貞貰ってもらえるんだぞ?むしろ感謝しろよ」
俺がコソッと耳打ちすると…………
「……僕、童貞じゃないんだけど。」
と真面目な顔して返され、俺は白目を剥くほどショックを受けた。
彦が不敵な笑みを浮かべながら和巳の肩に手を置いた。
「ありがとね、和巳くん。
じゃあ僕はおいとまさせてもらうよ☆」
「えっ、ちょっと彦さん?!」
「大丈夫。彼女、そんなに悪くはないよ」
「んなっ?!?!」
真っ青な顔をした和巳を残して、
「またね昴!僕忙しいから!」
彦はテトを連れて一瞬で消えてしまった。
そんなにこの女が嫌なのだろうか。
俺からすれば正直結構羨ましいのに……
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