第34話 条件がある


ことの事情を説明し終えた頃には、もう23時をとうに回っていた。


しかも場所は近くの神社。

ほんのりと街灯だけが照らしているそんな薄気味悪い場所でこんな話をするなんてどうかしているのだが……


だからほら………


「わぁあっ……わわっ……うぉっ……!」


和巳だけが終始びくびくしていた。


なぜなら話してる間中いろいろな妖怪が次々と集まってきていたからだ。



「…ってことなんだよ。だから安達さん、これも何かの縁だと思って、協力してほしいんだ。一緒に大嶽丸を倒しに行ってくれないか」



安達は相変わらずの無表情で黙りこくっていた。

話している間も、何を言っても驚きもせずこの涼しい表情を貫いていたため、妖怪たちなんかよりよっぽど気味悪いと俺は思っている。



「昴様」


「っ!松竹ちゃんっ」


いつのまにか、松竹も俺のそばにいた。

神社に白い着物の座敷わらし……

誰かがこれだけ見れば、腰を抜かすほど本格的な怖さだろう。



「よいではありませんか、そんな女などいなくても」


「えっ?!そ、そんな女ってっ」


「だいたい陰陽師なんて今どき役に立つのですか?

相手は最強鬼神なのですよ?」



あっ、やばい。

松竹ちゃんヤキモチ妬いてんだわ、これ。



「そもそも陰陽師って、妖怪たちの敵なのです。

そんな種族と相入れるなど…」


「違う。私は妖怪を敵なんて思ったことない。

……少なくとも私は。」



初めて安達が言葉を発したので目を丸くする。



「……じゃあ…俺らのチームに入ってくれる?

だってこれって、日本の一大事なんだ。

このままにしていたらどっちみち俺らは危険…いや、きっと死ぬ。

安達さんの家族も友達も大切な人も…みんなだ。」



安達は俯き、相変わらずの無表情だが、ひたすら何かを考えているようだ。



「………じゃあ…1つ、条件がある。」



「条件?」



安達は顔を上げ、真剣な表情でまっすぐ俺を見つめてきた。

その玲瓏な瞳の色にぞくりとする。



「三明の剣……

それが揃ったら、私にちょうだい。」



「えっ」



どういうことだ……?

なぜそれが欲しいのだろう?

まさか、人間のくせに三明の剣の持つ全知全能が欲しいのか……?



「よしとけ、昴。

どうせロクなことにならん」


「そうですよ昴様!

こんな陰陽師の女なんかに三明の剣を渡すなど危険です!」


案の定、デンと松竹は猛反対してきた。

しかし……


ニョロリと俺の首に巻きついてきたのはシロ。

シロは俺の耳元で俺にしか聞こえないようにこう言った。


「大丈夫ですよ、昴さん…

利用しましょう…この女を。

大嶽丸を討ち取るには、この女の力は必要です…」



俺はまっすぐと真剣に安達を見つめ返し、こくりと頷いた。



「いいよ、わかった。」



全員が驚愕した表情になっている。



「ちょ、ちょっと昴様っ!」


「俺がリーダーだから、俺が決める。

今日から安達駒子を、俺らのチームに引き入れる」



そのとき……



「駒さま!こんなところにっ!遅いから心配したんすよもぉ〜っ!何してたんすか全くっ!!」



なんと、飛んできたのは明らかにフクロウだった。



「はぁ……次から次へと……」


「うわぁ〜っ!コキンメフクロウ!!

そっかこれが安達さんが言ってたペットだね?!

やっぱり猛禽類もいいなぁ〜!

爬虫類の次に好きなんだよね〜!僕も飼おうかな?」



感激している和巳を無視して、このフクロウは安達の頭をつつきだした。


「旦那様ブチ切れてたっすよ!

てかまずオレがブチ切れられるんすから勘弁してくださいよったくぅ〜っ!!」


「痛い痛い痛いっ!ちょっとフク!ごめんってば!」



俺はボーッとその光景を眺める。

そして考えていることはたった一つだ。




………名前……フクかぁ……



「ぶっっっ」



だっっっっせ!!!



フクロウだからフク?!


そんな短絡的なネーミングセンス、

このクールぶってる安達駒子だからこそ笑えるわ!



いや、そもそも和巳だって、白蛇をシロって……



もうどいつもこいつも面白すぎ!!



「そう考えると……俺がつけたデンってのはなかなかセンスがあるな…」


「てめぇだってただオイラの名前の上取っただけじゃねぇか」


心の声が漏れていたらしい。




「というか…あれ……??

こんなに皆さん勢揃いで…??一体何してたんす?」



「よーやく気付いたか、クソフクロウ」



「んん?…え!あっれー?!殿大狐様じゃないすかぁ〜!久々っすねぇ!ひょっとしてまだ人間グルメ旅やってんすかぁ〜?(笑)」



「まぁな。まさかテメェは陰陽師の式神にでも成り下がったんか?」



「やだなあ!そんな言い方よしてくださいよぉ〜っ!

新しい知識を仕入れるためなんすから〜!

それに……」



フクはそのオレンジ色の目を妖しく細めた。



「けっこー面白いっすよ……陰陽師って…」



ニヤリ…と笑う不気味なフクロウを見ながら、俺はデンに言った。



「なぁデン、こいつもお前の知り合いの妖怪かなんかか?」



「こいつは日本唯一のフクロウ神社、鷲子山上とりのこさんしょう神社の使い神だ。」



「えっ!こいつも神っ?」



「あっ、どーもーっす!まぁ今はそっち休職中っすけどね!」



「こいつは知恵を司る神だから、常にあらゆる知識に貪欲なんだ。」




なるほど……

確かにフクロウって博識で知恵の象徴ってのは聞いたことがあるぞ。


まさか安達駒子に仕えているとは思わなかったが…。



「てゆーか!!あなた坂東昴さんっすね?!

いっやぁ〜!神界の有名人に会えるなんて嬉しいなぁ〜!うわぁ〜本物だぁ〜っ」



「やっぱり昴は有名人なんだ……すご……」

などと言っている和巳は無視して俺はため息を吐く。


神界では確かに俺は有名人。

シロだって俺のこと知ってたし、多分神の類で俺を知らない奴はいない。

けどそれって一般的に見て完全にわけのわからない変人だ。

せっかくできた友達にあまり変な目で見られたくない。



「ってことなんで、ほら駒様!行くっすよもう!」


突然ブワッとデカくなったフクロウの姿に俺は驚愕する。

やっぱ神って皆デカくなれるんだな…。

いや、じゃなくって……!


「ちょっと待てよ!知恵の神ならお前も話聞けって!」



「今夜は遅いんで無理っす!旦那様に殺される!

また後日っすね!」


安達は、ヒョイとつまみ上げられて背に乗せられた。



「み、みんな明日また大学でっ……

えと……放課後私んちに来て」


そう言い残し、一瞬で彼方遠くへ消えていってしまった。

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