第33話 駒子の正体


俺はここに入った時から、実はもう一つ気がついていることがあった。



「ごちそうさまでした、店長。」

「ありがとうございますっ」

「また来まーす」


会計時、3人1000円ずつで良いなどと言ってくれたこの優しくて明るくてどう見ても人が良さそうな店長。

この人に、小妖怪がなんと15.6匹もくっついている!


まぁ、まれ〜にいる。

こういう人。


おそらくこれは、他から譲り受けてしまうタイプの人だ。

人が良すぎたりすると、逆に相手の負を吸い取っちゃったりしてこういった妖怪も吸収してしまう。


こういった接客業で、しかも仕事終わりの疲れ果てた人たちが集まる居酒屋的店だから尚更なのだろう。



俺はこっそり払ってあげようと、影玉・あの飴を取り出そうとした。


その瞬間、俺はとんでもない光景を目撃してしまった。



シュッー……!



安達駒子が、財布から1000円札と同時に何かの御札を出したのだ。

それを出した瞬間、なんとあんなにいた小妖怪たちが一瞬で消えた。



「え………」



俺は文字通り口を開けたまま言葉を失った。

だがそんな俺には安達も和巳も気付かず普通に会計を終わらせとっとと店を出た。


その瞬間……


「おいてめぇっ!オイラを差し置いて肉なんか食ってやがったのか?!どーこ逃げやがったんかと捜したんだぞ!」


「しーしーしーぃ!」


俺は飛びかかってきたデンの口を塞ぎ、おそるおそる安達の方に視線を移した。


やはりこちらをジッと見つめていて、俺はため息を吐く。


本来ならデンの姿だけでなく声も聞こえないはずなのだが、この女子にはなぜか見えているとさっき聞いたから、やはり声も聞こえてしまっただろうか……?



「あ〜、紹介するね、安達さん。こいつが俺のペットのデン…」



あれ……?

どうして安達さん……全く驚いた顔してないんだ?

ってことはやっぱり聞こえて……



「……なんだ?テメェは」


「こらデン!初対面の女子に失礼な態度やめろよ!」



て、えっ!?!?


突然デンが、ビビっ!と逆毛を立て始めたので俺は目を見開いた。

鋭い眼光を光らせて安達を睨んでいる。

安達はどこか冷徹な態度でデンから目を逸らさない。



「どっ、どうしたのー?なになにー?デンくん?」


和巳が不安そうに俺らを交互に見ている。



「テメェ……陰陽師の家系だな?」



おんみょうじ?!?!?!


この人が…っ?!


陰陽師ってのは、古代日本の呪術師だよな?

怨霊とか祓ったりまじないをしたり……



だからデンたちのことも見えるってことか?

さっきの御札も……



「やっぱりあなた……狐の神様だったんだ。

大学で見た時から思ってた」



「いつもする気味悪ぃ視線はテメェのだったんだな。

オイラは昔っから陰陽師が大嫌いなんだよ。

狐を粗末に扱ってきただろう。」



「……詳しくは知らないけど、式神として狐を主に使役してきたとは聞いた、けど。」



「だろうな。オイラには視えるんだよ。テメェの先祖代々から受け継がれてきた狐の念たちがな……」



「そんなこと言われても……私は式神なんて滅多に使わない。父は使っているけれど…」



「式神使い……テメェまさか……安倍晴明の末裔か?」



あべのせいめい?!?!

平安時代の最強の陰陽師、呪術師じゃないか!

俺だってそのくらいは知ってる!



「そう言うあなたは……なぜ坂東くんの遣いを?

それこそ式神と変わらないと思うけど」


「遣いじゃねえ!オイラがこいつを飼ってやってんだ!」


俺は顔を引きつらせる。

やっぱりそう言うと思った…はぁー…。



シュルルルルル


突然現れたのは、和巳の白蛇だった。


「あっ、シロちゃん!

ねぇ助けてよ、なんか今喧嘩中みたいなんだ」


シロは細長い舌をピロピロと出しながらジィっと安達を見つめた。

全てを見透かしたような赤い目に、ゾクリとする。

が、相変わらず安達は表情を変えない。

俺の中でもますますこいつの不気味さが際立つ。

安達駒子……何考えてるのか全く掴めない。

けど………



「なるほど。陰陽師の生き残りですか。

てっきり全滅したと思っていたのですが」


「シロ、こいつぁ安倍晴明の末裔だぜ。

式神を扱き使うあの家系の」


「あぁ……ではちょうど良いではないですか、昴さん」


「えっ?」


「鬼退治の仲間入りしてもらいましょう」


「!!!」


目を見開いている俺に、安達は眉をひそめだした。



「……なんなの。…鬼退治って……」



俺はこの数秒で一気に頭をフル回転して決断した。

どう考えても、この安達駒子という女子は使える。

剣術も呪術もプロならば、これ以上に心強いものはない。



だから……



「安達さん。」



俺は彼女をまっすぐ真剣に見つめ、意を決した。



「聞いてほしいことがあるんだ。

キミには絶対に。」



絶対に、安達駒子を俺の仲間に引き入れようと。

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