第32話 友達との食事



安達駒子の剣術指導はホンっトーに容赦なかった。


しかも休憩無しで3時間もぶっ通しの練習をさせられ俺らはもうヘトヘトになっていた。



「体力がないのね。あんたたち、本当に剣道やりたいって思っているわけ」


「「・・・」」


まぁ厳密に言えば俺らは剣道がやりたいわけではなくて、鬼退治をするための剣術を学びたいだけだ。


このスパルタ剣道指導で強くなれるのか…

少々不安だが、多分今日で少しは基本を学べたような気はした。



「今日は……あ…ありがとう安達さん…

俺たちもうそろそろ…」


「ダメ!まだ100分の1も学べてない!」


「「えぇっっ」」


こんだけしごかれてまだそれしか……


俺らはその後も、更に2時間ほどしごかれ、既に外は暗くなっていた。

当然他の部員たちはとっくに帰っている。



「やはり安達は面倒見がいいな!だが程々にな!明日もあるんだし!」

などと言って乃木部長も帰ってしまった。


いや、止めろよ。

つーか、明日もこの調子で?!

いやその前に……俺ら剣道部入るの確定?!




「はぁ……死ぬ……」

「足腰が痛い……」


ようやく解放されたのは19:00過ぎ。

もう今日は帰って爆睡だな……


とぼとぼと歩きながら、スタスタと前を歩く安達をげんなり見つめる。


なんでこいつ、女で小柄なのにちっとも疲れてねーんだ?



「あっ!そーだ昴!これからラーメンでも行かない?

体力削りまくったからスタミナつけないとっ!」


「おー、いいな。俺死ぬほど腹ペコだわ……

あ、でも和巳んち平気なのか?家政婦さんがいつも作ってくれてるんじゃ」


「あー、へーきへーき。毎日じゃないし。

もともと今日は外で食べる日なんだ。週2は外食か出前って決まってるんだよ」


「へぇ〜〜っ」


リッチだなぁなんか。


「おーい!安達さん!

僕たち今からご飯食べに行くんだけど、安達さんも行かなーい?」


さすが。また和巳の人見知り皆無のフレンドリーさに俺は感服する。


安達はピタリと止まり、振り返った。

暗闇の中、街灯に照らされたその無表情がなんとも不気味だ。



「……どこに行くの」


どうせすました顔して断るだろうと思っていたのだが、意外にも食いついてきたので俺は目を丸くする。



「一応ラーメンって話してたけど、別に僕はどこでもいいよ?」


「俺も別に、なんでも…」


「じゃあ肉がいい。焼肉。」


おお!こいつが自分からそんな提案をするなんて更に意外!

肉が好きなのか…?



「よし!決まりっ!安達さん、どこか行きたい店とかあるの?」


「うん…まぁ…」


「おっ、いーねぇ!じゃあそこ連れてってよ!」



こうして安達駒子の行きつけらしい焼肉店へと行くことになった。

「焼肉こころ」という看板だけがやけに派手に光っている。

そこは民家の中にある、一見こじんまりとしている小さめの店だが、かなり賑わっている様子だ。



「おお!駒っちゃん!2週間ぶりか?」



店長らしき人が忙しそうにしながらも朗らかに話しかけてきた。


「伸店長、こんばんは。3席空いてますか?」


「ちょうど今そこのテーブル片付けてるところだからちょっと待っててくれ!

にしても駒っちゃん!うちに誰かを連れてきたの初めてじゃないか!

入学早々彼氏が2人もできたのか?!」


「ちっ、違うよ!そんなわけないでしょやめてよ!」



しばらくして俺たちは席につき、適当にメニューを選んだ。

初対面の女子と会ったその日に焼肉なんて……

見かけによらず、和巳ってこーゆーの結構慣れてんのかな?


ガツガツと飯をかき込んでいる和巳を横目でちらりと見る。

熱気でメガネが曇ってきて、それを取った時の和巳はやっぱりビビるほど美男子で……

きっと外食デートくらいしょっちゅう誘われてたんだろうな〜本人はそういうのかなり鈍感そうだけど。


あと、よく見れば……

安達駒子も相当な美人の部類なのでは?




「そういえば、安達さんは実家?一人暮らし?

家はこの辺なのー?」


相変わらずズケズケ行くしなぁ和巳。

普通初対面の子との食事でそんな質問したら、勘違いされて警戒されるって俺でも知ってる有名な話なのに。



「実家。バスで15分くらい。

この焼肉店は、高校の頃たまにバイトしてたの」


「へぇそうなんだ!実は僕も飲食店でバイトしてたんだ!ファミレス!親が勉強に厳しいからたった2ヶ月で辞めさせられたけど。

昴はなにかバイトってしてたの?」


「えっ」


してたけど……バリバリしてたけど……

神の仕事なんて言えるわけないし意味不明だしな。



「あー、うん………ピザ屋さんで……」



実は俺の昔からの夢は、ピザ屋でバイトすることだった。

単純に、ピザ生地をクルクルやったりしてみたかったから。



「じゃあみんな飲食店経験者なわけだね一応!

他に共通点は……あ!じゃあペットは飼ってる?安達さん」


「…うん。……ふくろうを…。」


「ふくろう?!すげーっ!今度見せてよ!

僕らもペット飼ってるからここも共通点だね!」



俺はなんだか心が暖かくなって来ると同時にこの状況が不思議でならなかった。

こんなふうに他愛もない会話をして食事を囲む友達ができるなんて想像したこと無かったから。



「今日は連れてこなかったの?あんたたちの蛇と狐。」



突然のその発言に、俺と和巳はドクッと鼓動が跳ね、動きを止めて目を丸くした。



「え……?なんで……それを…?」


「だっていっつも連れて来てるじゃない、狐。

それから今日は、白蛇を連れてきてるのも見たし」


「みっ、見えるんだ……」


そんな一般人初めてだ。

デンもシロも、学内にいる間は基本必ず<姿くらまし>の状態で、俺ら以外には見えないはずなのに。


「ちょっと待って……てことは…っ…」


酒呑童子とか妖怪たちも見えて……?


そう聞こうとした瞬間、


「へいおまち!特盛ライスおかわりと、これいつものサービス!うちの名物厚切り生ハラミ3人分!」


「わ!いいんですか?店長!ありがとうございま」


「ったりめぇよ!駒っちゃんが初めて連れてきてくれた彼っ、いや、お友達だろ?」


「……と、友達ってわけじゃ……っ」



店長が置いていったそれらに、先程の空気は一切忘れたかのように嬉しそうに食事を再開しだす安達。


しかも俺はさっきから気がついている。



安達駒子は・・・



超大食いである。



「すごいなぁ、安達さん。そんな小柄なのにもう特盛3杯目だよ?

肉もいっぱい…。僕もうそろそろお腹苦し…」



「はぁ?せっかく店長が持ってきてくれた名物残す気?

ここの生ハラミは日本一なんだから!」



もう一つ気付く。


佐渡和巳は、超少食である。




「うん、確かにここの肉美味いね。

これなら俺はまだもう少しいけるよ」



俺がそう言うと、安達の表情はパアッと明るくなって驚いた。


「でしょう?他とぜんっぜん違うよね?」


「う、うん……」



もしかして……この子ってデンと同じ部類?

見かけによらず、食い物に目が無いグルメ系?


なるほど、じゃあ食い物の話題してりゃあ盛り上がるってわけか。

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