第31話 剣道部の安達


翌日……



「う、うわぁ……まさか……!

こんなことってあるぅ?!」


俺はさっそく和巳に、

仲間である松竹ちゃん、酒呑童子、太郎坊を紹介した。


和巳はどういうわけか、あの刀・鬼切丸を持ってから、俺のようにこの世のものではない者が見えるようになっていた。



「すごいなぁ……!本物の鬼に天狗〜?そのツノとかってどーなってるの?」


「ちょっと待て貴様!その刀を持ってオレ様に近づくんじゃねえ!

オレ様が切れたりしたらどうしてくれる!」


「え、そんなこと言われても……!

これは肌身離さず持ってないとなんないから」


和巳は大学でも鬼切丸を背中に巻いており、いつどんなときも持ち歩くつもりらしい。

意外と心配性だが、まぁ安心と言えば安心かもしれない。

だから勾玉も、鬼切丸の鍔につけたまんまだ。




「っというか!大蛇神様までっ!

最近お噂を聞かないと思っていたら……まさかデン様のように人間界のお食事にハマっておられるのですか?」


松竹に驚かれているシロは、「まさか」と言って首を振った。


「私は……冷凍ネズミやヒヨコで充分……」


「人生損してんなお前!」


「こらデン!お前が食いしん坊なだけなんだよ!」


俺はたまに、なぜよりによって俺の相方がこの人間以上のグルメ野郎なんだろうなぁと思ったりする。

まぁでも……ネズミやヒヨコをあげるのも嫌だな……



「とりあえず今日は、剣道部に行ってみようよ昴!

刀の使い方を学ばないと」


「剣道部かぁ…剣道で本物の殺し合い、学べるのかなぁ。」


まぁでも俺らには今、頼るものはそれしかない。

酒呑童子にも頼んでみたのだが、自分が斬られたりでもしたら怖いからと拒否された。



その日の講義が全て終了してから、俺たちはひとまず剣道部の活動場所である体育館へと足を運んだ。



メーン!とかハーっ!とか、大きな雄叫びがそこかしこから聞こえ、カツンカツンと竹刀が鳴る音がする。


ざっと10人以上の部員がいるようだ。


皆大学生なのに偉いなぁ〜

俺なんて中学高校共に帰宅部以外考えらんなかったんだけど。



「そこの君たち!入部希望者かい?」



部長らしきガタイの良いイケメンに、やる気に満ち溢れる笑みで話しかけられた。



「えぁっ、えっとぉ……」


「はい!そうです!体験とかってできますか?」


「もちろんだ!よし!こっちへ来て!」


なんだかいつのまにか和巳までやる気満々なので俺だけが緊張した面持ちで2人の後を追う。


「これらが剣道をやる上での必須の道具たちだ。」


そこには、面や胴や竹刀といった数々の立派な道具たちがズラっと並べられていた。

各々サイズが合うものを選び、部長に手伝ってもらいながら身につけると、そのかなりの重さに驚いてしまった。


こんなに重くて動けるのか?

しかし練習している部員たちは、パッと見とても軽々と動きまくっていて目を見張る。


なるほど……まぁこれはむしろ良い訓練のためのハンデかもしれないな。



「じゃあまずはとりあえず、俺たちの勝ち抜き戦を見ていてくれ」



そう言って部長は部員たちを集めて何やら指示をしだし、試合とやらが始まった。



「「・・・」」



もちろん剣道のルールなど何も分からない。

しかし俺らは目の前で繰り広げられるヤバすぎるほど熱気の籠った本気の剣戟けんげきを、呼吸を忘れるように見入ってしまっていた。


そしてつい自分に重ねてしまう。


相手が最強の鬼神だったら……?


あんなふうに間合いを詰めたり、避けたり、剣を交えたり……雄叫びを上げて攻め込んだり……できるだろうか……?




うあー!

ぎゃー!


と聞こえてくるその叫びに目を見張る。



「「っ!!!」」


圧倒的に一際強く、目視できないほどの速さと太刀筋の部員が一人いた。

誰がどう見ても格が違うと分かる。

纏っているオーラにも、俺はその規格外の強さを実感した。


それに、他の部員たちと違って、一切雄叫びや掛け声を上げない。

ただ冷静沈着な態度で淡々と、目にも止まらぬ可憐な動きと力でどんどんと他の部員たちを飛ばしまくっていく。


最終決戦は先程の部長の乃木さんと、この男か女か分からない小柄な部員との決戦となった。


俺達も他の部員たちも、緊張した面持ちで生唾を飲み込み、その光景を見つめる。



「さすが、安達……

だが俺も、剣道歴10年、今まで勝ち取った賞は100超え……生粋の剣士として…!キミに負けるわけにはいかない!」


フッと笑って竹刀を構えた乃木部長から、ブワッ!とオーラが滾りだしたのが、俺にはわかった。


対する相手の安達さんとやらは、うんともすんとも言わずにジッとしているだけだ。



「ではゆくぞ!安達!!」


ダンっ!!!


乃木部長が床を蹴った音まで地響きを感じさせた。


2人の戦闘は、本当に他とレベルが違うのがありありと分かるくらいに凄まじく、皆息を飲んで懸命に目を凝らしている。

まるでここの情景が、戦場に変わったように見えるほどの迫力だった。



バンッ!!!!


「「「!!!」」」



まさかの、乃木部長の竹刀が天井に届くくらいに飛ばされて終了してしまった。



皆、唖然とした表情で固まっている。



一体……なんなんだあのチビ……



「いやぁ〜っ!やはりすごいなぁ安達は!

それでいて剣道の公式試合に一度も出たことないんだろ?

出れば賞全て総なめだと思うんだかな!」



部長が面を脱いでそう言うと、安達もゆっくりと面を取った。



「!!!」



女!!!


どこか妖艶な空気を纏っている、不思議な目の色をした小柄な女子だった。



「お、そうだ2人とも!紹介するな!

こちら、キミたちと同じ1年の、安達駒子あだちこまこだ。」



「「1年?!」」


俺たちと同じ?!

てことはこの部活にも入ったばかり……

てっきり部長と同じベテランの剣士なのかと思ってた!

まぁここまでの強さならきっと、小中高と剣道部だったに違いないだろう。

公式試合等に出たことはないと言ってたが…。




「は、はじめまして。坂東昴っす…。経済学部1年の。」


「同じく経済学部の、佐渡和巳です!

趣味は爬虫類で、ペットは白蛇のシロちゃん、ヒョウモントカゲモドキの五郎丸に、ギリシャリクガメの治三郎!休みの日は皆でお散歩に行くことが趣味!

安達さんは何か趣味とかあるの?やっぱり剣道?」


俺は和巳の初対面とのコミュニケーション力に驚いてしまった。

俺とはまさに正反対だ。



「………趣味は……占術……」


「せんじゅつ…?あぁ、なるほど!安達さんは占いが好きなんだね!すごー!タロット占いとか手相とかかな?

今度僕にもやってよ!あ、ねぇペットも占えたりするー?」


俺は終始笑顔でグイグイ人の懐に入り込んでいく和巳をマジで初めて尊敬してしまった。


しかし……

さっきからこの安達駒子って女子……

なんだろう。


妙な雰囲気…オーラを感じるんだよな…

俺が今まで18年間生きてきて、感じたことのない初めての感触……



「安達!もしできたら今日この2人の体験に付き合ってやってくれないか?簡単な基礎だけ教えたりしてくれればいいから!

同い年の方がいろいろやりやすいだろう!」


乃木部長はきっと、俺らがもう既に仲良さげに見えたのか、それとも入学したての俺らの親睦を深めるために気を使ってくれたのか、

そう提案してきた。


そういうわけで俺らは、この最強剣士の安達駒子に初めて剣の指導を受けることになった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る