第30話 鬼切丸
カツンとスコップに何かが当たり、
掘り起こしたものは、50cmほどの長方形の入れ物だった。
「これは……なんだろう?
まさか本当にうちの裏庭にこんなのが埋まってるなんて……」
和巳が一番驚いていた。
これでもかというほど深呼吸を繰り返し、「早く開けろよ!」とデンに一括されて、いよいよ和巳はゆっくりと蓋を開けた。
「「「!!!」」」
それは刀だった。
そしてその刀の
「勾玉だ……」
薄緑色の独特な雰囲気のある翡翠でできた勾玉だった。
「これは間違いなく、
シロが言うんだから間違いないだろう。
ついに見つけた!!!
三種の神器の1つ目を!!!
「でもじゃあ……この刀は?」
俺は和巳が持っている箱の中の刀を見つめて言った。
するとデンが、ハッと気がついたように声を出した。
「おいっ、よく見りゃコレってまさか……」
「あ……本当だ……そのまさかかもしれませんね……
でも私にも……予想外です、これは……」
狐と蛇だけが勝手に納得したように頷いているので俺は眉を顰める。
一体これがなんだってっんだ……?
俺の持っているソハヤの剣よりやや長く見える。
鞘は黒に金色の入り交じった織り糸のようだ。
「よし和巳。そのまさかを確かめるために剣を抜いてみろ」
小狐に偉そうに指図された和巳は緊張した面持ちでゆっくりと箱から取り出した。
「刀なんて持ったことないから緊張しちゃうよぉ〜……」
「大丈夫大丈夫〜俺もこないだ初めて持ったし。案外たいしたことねーよ、問題は戦う時だけ」
あれ……
俺はふと気がついてしまった。
戦う時……
そうだ……!戦うために刀を持ってるんじゃんか。
てことはいつか戦うために使うわけだ。
てことは戦うんだ!!そう、戦うんだ鬼と!!
しかも日本三大妖怪の最強鬼神と!!
だったら………
刀の使い方を身につけなきゃじゃん!!!
一気に今更焦ってきている俺の隣で、
和巳は覚悟を決めたようにゆっくりと剣を引き抜いた。
「わぁ……」
その刀身は俺のソハヤの剣よりも青白く光っていて、斬れ味が良さそう。
「すごいけど……僕の先祖のものだったってことかな?」
「あっ、なんか書いてある!」
俺は刃に掘られている文字に目を凝らした。
<鬼切丸>
明らかにそう書かれている。
「はっ。やはりオイラの勘は当たったな」
「え?どういうことなんだ、デン」
「これは鬼切丸。
平安時代中期に源頼光の配下である渡辺綱が鬼の腕を切り落としたという伝説の刀だ。」
「「!!!」」
俺と和巳は驚愕した。
チラッとどこかで聞いたことがある話な気がするし。
「そんな物が……どうして僕ん家の祠に……」
「あなたが……
佐渡和巳くん。」
「えっ……」
シロの言葉に、和巳は目を見開いて固まっている。
当然、俺も驚いている。
「なるほど……だから大阪で最初にお前に会った時、妙なオーラを感じたわけだ。」
そうなのか?デン。
俺は気付かなかったんだけど……
「でもこれ……ど、どうしよう?
とりあえず昴が勾玉必要なら、勾玉だけ取ってこの刀は元に戻して埋めようか」
「ちょっと待て和巳!」
「へっ?」
俺は、刀を仕舞おうとする和巳を制した。
そして、真剣な顔で真っ直ぐ見つめる。
「和巳、俺の仲間になってくれ。」
「……?……仲間って?」
「鬼退治の仲間だ。」
「???鬼退治……?なんかの舞台?」
俺は和巳の肩に手を置いて、真剣に説明した。
みるみる和巳の表情が変わっていく。
まぁ、そりゃあそうだろう。
こんな、にわかには信じられない話。
けれど何故か俺は、和巳なら分かってくれると確信していた。
今までだったら、散々馬鹿にされ、人に避けられ、友達ができなかった経験から、絶対にこんな話を他人にはしないのに。
俺はいつも1人でどうにかするはずなのに。
「わかったよ、昴。一緒に頑張ろう。」
「和巳……本当に、信じてくれるのか?協力……してくれるのか?」
「もちろん!昴のご両親の仇だし、シロちゃんたちも、そっちの世界の皆が困ってるんでしょ?
なら、渡辺綱の子孫で鬼切丸を持つ僕が、何もしないわけにいかない。」
初めて自分に向けられた、人間からの信頼の眼差し。
俺は心から感激し、そして感謝した。
まぁ実際は、和巳がかなりの天然という部分が大きいが。
それでも別にいい。いやむしろ好都合。
「力になれるように、僕も頑張るよ!
だから昴、まずは、刀の使い方を教えてくれる?
完全に僕は初心者だからさ〜持ち方もわからないし」
そう言って刀を構え始めた。
俺は顔を引きつらせて苦笑いする。
「ごめん、実は……俺も使ったことない。
なんなら構えたことすらないから、和巳より遅れてる」
「・・・え?」
こうして俺は、初めて人間の仲間を手に入れることができたのだが……
剣の使い方、つまり戦い方の根本的な問題を解決してくれる人を探さないとならないことに気が付いたのだった。
「あ、そーだ、すっかり忘れてた……」
俺はポケットに手を突っ込んだ瞬間、
大学を出る時に彦の猫テトから授かった紙切れのことを思い出した。
ポケットから取りだし、広げてみると、彦の達筆な文字が連なっている。
「なになに……?……えっ……」
<昴へ!大学どう〜?元気にやってる〜?
僕は昴が近くにいなくなって寂しいけど、昴には新しいお友達ができたらしいね!
テトの報告でその子を調べたら、どうやら日本一有名と言っても過言ではない鬼斬りの末裔らしい!
昴は初っ端からめちゃくちゃ凄い子とお友達になったんだな〜ってちょっと嫉妬!アハハっ!
とにかく僕は、昴にたくさん人間のお友達ができて、楽しい大学生活が送れることを祈ってるよ!
キミはいつでもひとりじゃない!
また何か分かったら報告するね!>
「彦……」
俺は、神妙な面持ちで刀を振っている和巳と、シロとデンに、小さく笑った。
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