第29話 白蛇の神



「あは、あはは……実はさこの狐、世にも珍しいお喋り狐なんだ〜。黙っててごめんな和巳〜」



「お、お喋り、きき狐っ?!そんなの実在するのっ?!」



そーなりますよねー……。



「いるんだなぁ〜それがさ〜

お前のその蛇も、もしかしたら喋るかもよ〜?あはは」



俺は必死に頭を回した割に、自分で言っててもバカバカしすぎる誤魔化しを口にした。



「殿月之御魂狐大神……なぜこのような所に……そのような姿で……」



俺と和巳は目を点にして固まった。


まさか本当に喋り出すとは思わないじゃんか、白蛇……



「そりゃこっちのセリフだ宇賀神。

てめぇこそ何人間のペットやってんだぁ?お?」



「……それは……ここは安全ですから……」



「は?なんだそりゃ。あ、わかった!

もしやお前も人間の食いもんにハマって抜け出せなくなった中毒者だろ!!」



それはお前だろ……というのを堪えて俺はひとまず冷静になる。

考えてみりゃ、もうこの際もはや何が起きてもおかしくない。妖怪だって神だって皆喋るんだから。


ただ俺には免疫があっても……

和巳はさすがに………


俺は恐る恐る和巳を見た。


そうして「えっ」と声を出してしまった。


てっきり驚愕しすぎて気絶してしまったかと思っていたのだが、なんと和巳は目に涙を貯めて感激していた。



「シロぉお〜〜……すごいよキミっ……!

お喋りができたんだな……♡か、かわいい〜…」


「・・・」


俺は逆に、和巳の性格に感謝した。



「おいデン、知り合いなら紹介しろよ。」



「……こいつは大蛇の神。知恵や財力の神だ。

そういや前〜に彦が言ってたっけな。大蛇宇賀神が行方不明だとかなんとか」



「いや行方不明なら探せよ!!

……で、で?シロさん?なんで和巳に飼われてるのさ?」



「あぁ……あなたが昴さんですね。

神界一有名なので当然知ってますけど……

まさか仕えている狐神が狐大神様だったとは……」


「えっ、昴って有名人なの?」


「ま、まぁね……」


意味もわからず驚いている和巳のことは置いといて、シロはどうやら性別は女のようだ。

不気味な雰囲気を纏っているとは思っていたが、まさか神だったとは……

逃げ出そうと思えば簡単に逃げ出せるはずなのに、怪我が治っても未だ和巳に飼われてるとか絶対ワケあり……。




「実は……大嶽丸一派に襲われまして」



「へっ?!?!大嶽丸?!」



まさかその名が出てくるとは思わずつい大きな声を出してしまった。



「ん?おおたけ……だぁれソレ?

シロちゃん、あの時誰かに怪我負わされてたってこと?!許せない!!!誰なんだそれはっ!!ケーサツに行く!!」



「和巳落ち着いて!とりあえず一旦静かにしてくれ……」



もちろんなんにも知らないこっち世界の普通の人間である和巳には、きっと説明しても理解できないだろう。

なんなら俺はせっかくできた友達に気味悪がられてまた一人ぼっちになってしまうかもしれないから言えない。



「大嶽丸は今……三明の剣の他に、三種の神器も探しています。

そのうちの一つの在処を、私は知っているので……」



「なっ!なんだってぇ?!三種の神器の在処を知ってる?!どこなんだそれ!頼む教えてくれ!」


「……あなたは……」


「俺は坂東昴。坂上田村麻呂の子孫として、大嶽丸を殺るつもりで動いてる!」


俺は今までの事情を説明した。

隣で和巳は、目を丸くしながらただ聞いているようだった。

悪いけど俺は今、和巳のことを配慮している余裕が無い。



「なるほど。分かりました。そういうことならば私も協力しましょう。

三種の神器の一つである、八尺瓊勾玉やさかにのまがたまは……」



俺はゴクリと生唾を飲み込んだ。

デンのバリバリと菓子を噛み砕く音だけが響く。



「この、佐渡家にあります。」



「「「えっ」」」



ゆっくりと和巳に視線を移すと、案の定目を見開いて疑問符を浮かべていた。



「……和巳……その……

何か心当たりある?勾玉みたいなもの持ってないか?」


「ま、まがたま……?えー……」


あったかなぁそんなものとか言いながら引き出しや戸棚をゴソゴソ探り始めた。

まさか三種の神器なる凄いものが、いち大学生の部屋にゴミのように埋もれてるなんてことあるのか……?


「あー、もしかしてコレかなぁ?コレどう見ても勾玉だよね?小学生の頃、修学旅行に行った時に日光でお土産に買ったんだよ!」


「違います」



シロに間髪入れずに返され、「だよね〜」と笑いながらその勾玉ストラップを机に置いた。



「……なぁ和巳あのさ、なにかこう……この家の家宝的な物って聞いたり見たりしてないか?ほら、子供の頃からの言い伝え的なのとかさぁ」


「えぇ……ないよそんなの……」


マジか〜と思いながらハァとため息を吐く。

そのとき、和巳が閃いたようにアッと声を出した。


「そういえば、うちの裏庭に先祖代々から受け継がれてるらしい祠があるんだけど、そこに何かあったりしないかな?」


「おいそれだよそれそれ!絶対それじゃん!!」



俺は確信しつつ、興奮気味に和巳に案内してもらった。

庭までいちいち大きく広いため、到着するまで若干疲れた。



「おぉ……立派じゃん。

和巳んちのものだから、俺には触れられない。

和巳が探してみてくれ。」


「うん……わかったけどー。

期待はしないでよ?そんなモノ聞いたことないしさー」



和巳は眉をひそめながら緊張した面持ちで祠の中を探り出した。



「うーん、やっぱりないなぁなんにも……」


俺もガックリ肩を落としそうになった時、


「おそらく……ここの下かと……」


シロが祠の下を向いてそう言った。



「じゃっ、じゃあシャベル持ってくる!」



本来なら祠を掘り起こすなんて罰当たりなこと絶対にしてはいけないのだが、今はそれどころではない。


俺と和巳は協力して穴を掘りまくった。


そしてついに、1.5mほど掘った時、それは現れた。

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