第28話 和巳の秘密



和巳の家は、実家ということもあるが思っていた以上に大きく立派だった。

明らかに家柄の良いお坊ちゃまって感じだ。



「お、お邪魔しまーす……」



よりによって初友達ん家でこれはハードル高すぎ!

すげー緊張する〜〜………



「よしさっそく僕の部屋に行こう!」


「え、ちょっと待てよ、家の人に挨拶とか……っ」


「和巳おかえり。あら、お友達?」


「?!お母さんいたの?!」


「さっき帰ったとこよ。夜はまたすぐに病院戻るけど。」


ニコッと俺に笑いかけてくる綺麗な女性。

和巳の母親だと分かり俺は急いで頭を下げる。


「こここここんにちは!お邪魔します!

俺、いや私は坂東昴と申します!」


「まーあ。こんにちは。和巳がお友達を連れてくるなんて久々ね。後で部屋におやつを運ぶわね」


そう言って奥に引っ込んでいく優しそうな母親に、俺の胸の奥がギュッと痛くなる。

単純に、羨ましいと思ってしまった。

多分皆は当たり前みたいに思ってる、こんな母親の存在が。


「昴……僕の部屋なんだけど……だいたい皆最初はすごーく驚くんだ」


「へぇ〜そりゃ、楽しみだな!」


きっとものすっごく広くて、母親がいつも掃除してくれてるから綺麗で居心地が良い空間なんだろうな〜

と、俺は初めて入る友達の部屋に胸を高鳴らせた。



「どうぞ……」


「お邪魔しま〜……?!?!?!」



え………



俺は予想外すぎるその光景に固まってしまった。



この広い部屋の中にたくさんある……


ゲージ……


そして中に入っている……



「はっ、爬虫類ぃぃい〜〜っ?!?!」



なんだか分からない変わったトカゲやカメとか諸々……


そして……蛇!!!!!




こりゃ誰だって驚くわ!!!




「だからさっきうちのデンについて聞いてきたのか……」



よく見れば、そこかしこの本棚にはギッシリと爬虫類に関する本たちが並べられている。



そう。佐渡和巳は、爬虫類マニアだったのだ!



俺の初友達訪問は、さらにハードルが上がった。



「ただいまぁ〜♡しろちゃ〜ん♡」



和巳がゲージから白蛇を取り出して頬ずりしだした。


俺はギョッとする。

別に爬虫類が苦手とかじゃないけど、単純に触れたことがない。



「ね〜?可愛いっしょ〜?♡♡」


「あ……うん……

だから欲しがった土産はコレね……」


食用カエルに食用虫……



「じゃあ僕の可愛い子たちを紹介するね!

この子は数週間前に買ったばかりの新入りで、ヒョウモントカゲモドキの五郎丸。とにかくお転婆でさ〜、前〜に姉さんが部屋に入ってきた時なんか顔に飛びかかって、髪の毛毟りとっちゃって、はっはっは!!

んで、こっちは僕が小学生の頃から一緒のギリシャリクガメの治三郎で、普段はこんなふうにのんびりしてるけど、喜怒哀楽が激しくって可愛いんだ!昔親戚の子が遊びに来た時にその子の持ってるチョコを欲しがってー……」


俺は目の前で楽しそうにペラペラとペットを語る和巳に苦笑いする。



「おい…おい、昴っ」


「なに、デン、静かにしろよ……」


「こいつだこいつ」


「……あ?」



デンはコソコソと俺に耳打ちしながら顎で白蛇を指した。


「……この蛇がどうかした?」


「そして!この子は僕の特別で、名前はシロちゃん!

めちゃくちゃ綺麗っしょ〜?

この目が赤いところも!この輝く鱗も!ほんっと美しいでしょ!!」


なんかこいつだけ名前がフツーすぎるな、白いからシロって……

と思いながら俺は奇妙に感じていた。

なぜならこの白蛇のシロは、なぜかさっきから和巳の膝の上でジィっとデンを見つめたまま目を逸らさない。



「………ん?あれ〜?

もしかして可愛い狐さんが来てるから緊張しちゃってるのかな〜?大丈夫だよシロちゃん!」


白蛇はペロッと長〜い舌を出したり引っ込めたりしながらジッとしているため、俺は妙に緊張してきてしまった。


「あのさ、和巳……

こういうペットたちはその……ペットショップで?」



「うん!でもシロちゃんだけは違うんだ!

ちょうど1年前かなぁ。

道で怪我してて弱っててさ。だから爬虫類専門の病院に連れて行って、うちで療養させてたら気に入られちゃって……あ、いや、僕が気に入っちゃって……うふふ」



「へぇ……」


うふふって……

なんだか笑い方気持ち悪いな。

でも本当に爬虫類愛好家なのは充分過ぎるほどわかった。



そうして和巳が楽しそうに爬虫類たちに餌をあげるところを見学したりしていたら、ドアをノックする音が聞こえ、おやつを持った母親が現れた。



「ひゃっ!あ〜もうびっくりしたぁ……

無闇矢鱈にゲージから出さないでちょうだい!

そういう約束で飼ってるんでしょう!」


「あー、ハイハイ」


「じゃあ私はまたこれから仕事に戻るわね。

夜はまた家政婦さんが来て夕食を作ってくれるから、泉美と食べなさい。

私もお父さんも今夜も帰ってこないからね。

もしかしたら泉美も帰ってこないかもだけど。」


「あーハイハイ」


「昴くん、ごゆっくり。」


最後にはこちらにニッコリ笑いかけ、母親は出ていった。



「お母さんもお父さんも忙しい人なのか?」


「まぁね。昔っからあんま家にいないよ。

母親は医者だし、父親は警察官だし、ついでに姉は弁護士1年目。」


「すすすすっっげぇじゃん和巳の家系!!へぇ〜!」


まさに絵に書いたようなエリート家系ではないかと感心したのだが、和巳の顔は暗い。



「僕だけが落ちこぼれなんだよ。

だからだーれも僕には期待してない。

子供の頃から、優秀な姉だけを目にかけてて……」



「……んー、でもこんなふうに俺のことも歓迎してくれるし、和巳のことも大事に思ってることは間違いないんじゃないか?」



「そりゃあ親なんて誰だって外面はいいに決まってるよ。

実際は姉と比べてばっかで平気で罵ってくるし、留学にでも行けとか教師くらいにはなれとかなんとか……顔合わせるたんびにうるさくて……」



「そっか……。でも、それでも俺は羨ましいよ。

ずっと生き方に口出ししてくれる親がいるってのはさ。」



「……。昴のご両親は?

あんまり将来のことに首突っ込んでこないんだ?

その方が絶対いいよ!」



「いや、俺、母親も父親もいないからさ。」



和巳はハッとしたように一気に焦りだした。



「ごっ!ごめん昴!知らなかった、本当にごめん!

嫌味とかで言ったつもりじゃなくって……っ」



「ははっ、気にすんなよ、なんも思ってないから!

たださ……どんなにうるさくても大事にしろよ。両親のこと。」



「うん………」



和巳は気まずそうに視線を落とした。

そして目を丸くした。


「あっ!」


「……ん?……あ!こらデン!!」



デンが勝手に俺らのおやつを貪り食っていた。



「うんめーっ!これなんだ?!なんだか高級な味がするぜ……ムシャムシャ」



「しゃっ……しゃしゃしゃ喋った?!昴の狐が喋った!!」



俺は、やっちまった……と額に手を当てた。


やっぱりこいつはポイ捨てしてくるべきだった……。

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