第24話 小通連
「これは……」
連れてこられた境内の裏で、なんと鬼子母神が何かを唱えた瞬間、あるはずのない大きな墓石が地面から現れた。
「昴。扉を開け、中のものを取れ。」
「扉?扉なんて……」
どこにあるんだ?
俺は墓石を探るように目を走らせながらそっと触れた。
その時だった。
ズズズ……
「えぇっ!?」
なんと墓石に扉が現れたかと思えば勝手に開き始めた。
そして、中に入っているソレに驚愕した。
「かっ、刀っ?!」
それは明らかに古めかしい、錆び付いた刀だった。
俺はそれをゆっくりと握り、取り出した。
「それは、
「しょうとうれん……?」
「三明の剣を揃えたものは、三千大千世界を見渡すことができ、最強の神となれると言われている。
その小通連の他に、大通連、顕明連がある。」
最強の神になれる三剣……?
そんな神話があるのか……?
「……その昔、大嶽丸は三明の剣を揃えていた。
しかし、鈴鹿御前にそのうちの2つを奪われたのだ。
1つはそちが今持つ小通連、もう1つは大通連。」
「じゃ、じゃあっ……顕明連ってのは今も大嶽丸が持ってるのか……?」
鬼子母神は神妙な面持ちで頷いた。
「おそらく奴は……顕明連によって時間をかけ蘇ったのかもしれない。
奴の目的は、大通連と小通連を取り返し、日本を己のものとし支配することだろう。」
「っ!……その……もう1つの大通連ってのはどこです?」
「すまないが……大通連に関しては我にはわからん。
我は当時、鈴鹿御前から小通連を隠すようそれを預かっただけ。」
ということはどこかに隠されているはずの大通連を探さなくてはならない。
多分それが急務だ。
うかうかしてると大嶽丸に先に取られてしまう……。
「おいデン!お前なんでさっきからずっと黙ったままなんだよ?!
何か心当たりとなないのか?
だいたいお前、俺のこととかこういう歴史のこととか知ってたのかよ?」
俺は今更だが、ずーっと俺の頭の上にいるデンの存在に気が付き、イラつきながらデンを下ろした。
「知らん。歴史に関しては知ってはいたが、昴が田村麻呂の血を引いてるなんてこと微塵も考えたことねぇし、オイラはただの狐の神だ。
そういったイザコザには巻き込まれんよう今まで生きてきた」
「……あっそ。」
つっっっかえねーマジで!
コイツ本当に食べ物のことにしか興味無いもんな。
「松竹ちゃんは?何か知らない?」
松竹は先程から何かを考え込んでいるように見えたため聞いてみる。
「わたくしにも分かりかねますが……知ってそうな方なら知っています。
まずはその方に聞いてみてはどうでしょう?」
「それって、どこの誰?」
「貴船神社の
「えっ、タカ
俺アイツ知ってるよ!何度か会ってる!」
京都の貴船神社には仕事で何度か行ったことがあった。
貴船神社は日本でも有数の龍神を祀る神社であり、龍穴があることで知られている。
しかし一番最初に高龗神、タカ龍に会ったのは京都ではない。
俺は小学生のころ、よく寄り道する自然豊かな小さい森があった。
そこに通う小川でよく、龍が休んでいるのを目撃していた。
初めはもちろん驚いた。
いつも見ている妖怪たちとはまた一際違った圧倒的存在感に、それはそれは美しく神々しい龍の姿だったからだ。
「本当にいたんだ……りゅう……」
怖いもの知らずの俺が近づくと、龍は鋭い眼光で起き上がった。
「うわぁ……すげぇ鱗……ひげ……わぁ……」
幼いながらに目を輝かせてまじまじと見つめてくるガキの俺に、なぜかそのときの龍は妙に照れていた。
「……ははっ。人の子に見られたのは久方ぶりだ。
俺の背に乗ってみるかー?
そこまで言うなら乗せてやらんこともない」
「言ってないけど、えっ!ほんと?!乗りたい乗りたい!」
俺はその時初めて空を飛んだ。
雲を突き抜け、風を感じ、全てを上から見渡すその時の感動は今でも忘れられない。
幼少期にこんな経験をしてしまう人間が他にいるだろうか。
龍神ってすげぇ……と思ったのを今でも覚えている。
そうしてまた俺は後日、龍に乗ったんだよ!などとクラスメイトに言うからどんどん俺の周りからは皆離れていった。
俺は相当な嘘つきで精神的にヤバい奴として教師まで俺の親に相談していたくらいだった。
両親は優しいから、俺を何も咎めなかった。
「嘘じゃないもん!全部ほんとだよ?!」
「えぇ、わかってるわよ」
「昴は嘘なんかつかないもんな」
もしかしたら、子供特有の一時的な悪ふざけか注目を集めたいだけの英雄気取りみたいな感じに思って、そこまで深く考えていなかっただけかもしれない。
だって両親も兄も妹も、何も見えないから。
俺だけがいつだって特殊だった。
自分だけが普通じゃないものが見えると気がついたのは、祖父がきっかけだった。
「昴。自分が見たり聞いたりするものを、他人に言ってはいかん。
他の人間には理解のできないことなんだ。」
俺はまた龍に会いに行った。
タカ龍は京都からわざわざこの小川へ来て居眠りするのが好きらしかった。
「だーれもタカのこと信じてくれないんだ。
俺がいつも遊んでる他の皆のことも……」
「はっ。そのほうがいいじゃないか。
お前は特別ってことなんだから。」
タカは迫力のある顔は、優しく笑ったような気がした。
「だいたい、人間の友達なんて作らなくてもいいだろう。
関われば関わるほど面倒くさいぞ。」
まだ幼かった俺は、その意味をあまり理解できていなかったが、今となってはよく分かる。
人間ほどめんどくさい生き物は、多分いない。
だけど俺は知っている。
人と関わらないと、人は生きていけないってことも。
「よし、とりあえずタカに会いに行ってみるか。
かなり久しぶりだから、ちょっと会いたいし。
デン、今すぐ京都だ!」
「………八ツ橋食うからな…」
「分かったからほら行くぞ!
っあ、この剣はどうしたら……」
俺はまだ自分が小通連を握っていたことに気がついた。
「それはもうそちの神器じゃ。
そちが今日ここへ来たということは、すなわち幕が上がったことを意味する。
時が来たんじゃ……」
とても真剣な顔をして真剣なことを言うわりには、まだボリボリとザクロキャンディを食べている鬼子母神。
しかし……
鬼子母神は小通連にスっと何かのまじないをかけた。
するとその剣はみるみる小さくなっていき、ちょうど俺の首にかかっているソハヤの剣と同じ大きさになった。
だから小通連も同じように首からかけておくことにした。
これなら安心だ。
俺が殺されない限りは盗られることはない。
………殺されない限り……?
まっ、まぁいいや、今は深く考えすぎないのが一番!
「昴。これを持っていけ。」
去り際に、鬼子母神は小瓶に入った赤い液体を渡してきた。
毒々しいそれはどう見ても血に見える。
まさかこの人……などと一瞬顔を青くした時、
「うちの庭にあるザクロから作ったエキスだ。」
「ザクロエキス……?」
俺はホッとしながらそれを受け取る。
ザクロは女性に良いと聞く。
きっと由香里さんに飲ませろということなんだろうと思い礼を言おうとしたのだが、それは全然違った。
「そのエキスは、傷を瞬時に癒す力がある。
必要になるときが今後来るだろう。」
俺はハッと息を飲んだ。
そうだ……
俺やこれからできる仲間たち、大切な者たちが傷つくことを想像したくはないが、避けては通れない道かもしれないと覚悟をすべきなんだ。
俺が選んだ道は、こっちなんだから……。
こうして俺は、ソハヤの剣と塩玉真珠の他に、
小通連と治癒の液体を手に入れたのだった。
デンの背に乗り、空に舞い上がりながら思いを馳せる。
きっと俺はこれから、凄いことをするんだと。
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