第22話 鬼子母神
週末………
兄の大也とその妻由香里さんを連れて、
例の女神、鬼子母神堂の鬼子母神さんの所へ連れて行った。
「昴くん、わざわざ私の安産祈願なんてありがとうね。」
「まさか昴がそこまで気にかけてくれてるとは思わなかったよ〜」
兄と由香里さんの嬉しそうな顔を見ながら、俺は前述の通り内心不安なのだ。
見たところ……一応まだ由香里さんに変なのは憑いていない。
妊婦に負が憑きやすいのは本当だ。
なぜなら幸せ絶頂に見える妊婦の姿は、傍から見れば完全に嫉妬の的になるから。
子供に恵まれず苦しんでいる不妊治療中の女性や、恋愛で苦しんでいる女性、結婚出産が経験できなかった女性や単純に人の幸せを喜べない人間たち……
まるで歩く磁石だ。
「あ〜ドキドキしてきた」
「なんでお前がドキドキすんだよ昴」
「あっ、いや……なんでもない……」
俺の鼓動が速くなっているのは、鬼子母神が苦手なせい。
普通にしていれば見目麗しい美女なのだが、とにかく情緒不安定だし、しかも先日の酒呑童子たちの情報によると、昔は他人の子を食っていたとかなんとか……
「大丈夫ですよ昴様。ワタクシがついていますから」
俺の緊張感が伝わったのか、約束通りついてきてくれた松竹がコソッと耳元で囁いた。
「あ、うんそうだね。今回は本当にありがとう」
俺もコソッと礼を言う。
もちろん彼女の姿は兄夫婦には見えていない。
ちなみにデンは俺の肩の上でだらーんと眠っている。
腹いっぱいになると寝るって人間かよと俺はよく呆れている。
「わぁ……立派な神社ね。」
「おぉ……初めて来たけど凄いな。空気も良いし。」
鬼子母神堂は都内とは思えないほど自然に囲まれた大きな神社。
立派な鳥居や像があり、空気だけでも高次元のパワーをを感じさせる。
「にしてもやはり今日は人が多いなぁ」
「そうね。とりあえず参拝しましょう」
俺は兄夫婦について行きながらここの懐かしさに目を細める。
久しぶりに来たな。数ヶ月ぶりか?
今日はいつも以上に参拝者が多い。
それは週末だからというのもあれば、特別な日だからという理由もある。
圧倒的に夫婦の男女が多いが、もちろん女性一人で来ている人や妊婦、家族も少なくない。
それに……
やっぱり負(黒い影)がくっついてる人がちらほらいる……
「昴様、私たちは鬼子母神様を捜しましょう」
「あ、あぁ捜そう。おいデン!起きろよ!重いんだよいい加減!」
「むにゃむにゃ……うめぇ〜……」
「ったく……」
俺は兄夫婦に散歩をしてくるとだけ言い、松竹と共に鬼子母神を捜すことにした。
「きっとこちらですよ」と言って松竹に連れてこられたのは、鬼子母神の像の前。
天女の姿で子供を抱いている姿の像だ。
「鬼子母神様。ご無沙汰しております。松竹です。」
にゅ〜……とその像から美しい鬼子母神が出てきて、俺はドクッと鼓動が跳ね、つい一歩後退りする。
「久しぶりじゃのぅ。松竹よ。
……ん?これはこれは……そちは坂東昴ではないか。
それと…………大狐…いや……今は薄汚い小狐か。」
「っ!だ〜れが薄汚い小狐だってぇ?」
「おまっ!起きてたのかよデン!」
「いや今起きた。オイラの悪口が聞こえたんでな」
俺はもうこいつは無視してとりあえず鬼子母神に早々に用件を伝えることにした。
「鬼子母神様……お久しぶりですー。
実はですね、今日は兄夫婦と来てまして……。
兄の嫁さんが子供を授かったんで、安産祈願です。
だから是非ともその〜……」
「我の恩恵を恵んでほしいと?」
「え、えぇそうです〜。
一応俺の、甥か姪なので〜」
美しくも冷酷さのある鬼子母神の目が細まり、俺はゴクリと生唾を飲み込む。
うわぁ……なんだか今日は少し不機嫌そうだなぁ。
情緒不安定気質があるから一言一句気をつけないとなんだけど……今んとこ問題ないよな俺?
「して、このような母倉日にわざわざ?」
「あ!はい!その通りです!」
そう。今日人が多い理由はこれなのだ。
今日はちょうど
母倉日とは、母が子を育てるのと同じように天が人を慈しむ日と言われており、慶事を行うのに最適な人されている特別な日。
休日だからというよりも、今日この日を選んだ一番の理由はこれだ。
「今日のような日は人が多くて堪らんのぅ。
どこの神社もそうなんじゃろうが、我の所はとくに凄くなる日じゃ。てっきりそちが手伝いに来てくれたかと思ったんじゃが……まさかそちも他の人間と同じ目的で来たとは……」
俺は一気に気まずくなり苦笑いする。
この神は子どもが沢山いるからか、いつも人手は足りていて俺に仕事を依頼してきたことは過去2.3度くらいだ。
「あれ……えっともしかして……
今って人手不足ですか……?」
「見て分からんのかね」
「………。分かりました。」
あー、これは仕事しなきゃなんないパターンだな。
チッ。母倉日に来るんじゃなかったかも。
「そうだ鬼子母神様!
こちらお土産でございます!」
そう言って包みを出したのは松竹。
「なにっ……こ、これは……!
我の好物、高橋屋のザクロキャンディーではないかっ!」
「はい♡鬼子母神様のために1000個も買ってまいりました。」
鬼子母神はパァっと一気に表情を明るくし、その場でボリボリと食べだした。
え、飴ってそんな噛み砕いて食べるものだっけ……
と俺はその音に少し怖くなる。
「んん〜っ!久々のこの味!あぁ……幸せじゃぁ……」
松竹はこちらを見てガッツポーズした。
でかした松竹ちゃん!
やっぱり他者の懐にすんなり入っていくところはいつもさすがだ!俺も見習わないとな!
まぁ1000個って凄い量だけど……
「よし!我は今気分が良いぞ!
昴!そちの叔母とやらはどこじゃ!」
おっっっしゃ!
俺は心の中で歓喜し、
「あちらです!」
と、さっそく案内した。
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