第19話 ソハヤの剣


「アタイが追われてた時に妖怪たちが近づけなかったのは、昴のご両親が持っていたその刀のおかげだったのよ。

だから手放してから2人は狙われて……」


そう言って悲しそうにウタは鈴を渡してきた。



「儂はおぬしの両親から預けられたその刀を、どんなに強い妖や神でも手が付けられない塩釜の中へとずっと隠しておった。

それを持つに相応しい者にしか抜けんようにしたんじゃ」



塩爺の言葉もウタの言葉も、ひたすら俺を混乱させた。



「いや……ちょっと待てよ……

ってことは…母さんと父さんが死んだのは……

妖怪の仕業だったってことか?!」



ウタを庇った時に怒りを買って…?

刀の効力が無くなったからもろに攻撃を食らった?



「違いないわ。きっと気付かれたのよ。

その剣を持っていたから。」


「気付かれたって何に……」



ウタは複雑そうに俯いた。



「とにかくごめんなさい。アタイの不注意だから……」


「儂が塩でも持たせていれば…おそらく死にまでは至らなかったかもしれん…」


「違うよ……。2人のせいじゃないだろ…」


フツフツとドス黒い感情が湧く。

心が重たくなり、目頭が熱くなる。


なんだよそれ……

理不尽すぎるだろ……


確かにおかしいと思ってたんだ。

あの時まだガキだったけど…警察も謎の事故として不思議がっていたのを覚えている。



「俺の親は…本当に優しい人たちだったんだ…

大好きだったよ、でも……

一緒に過ごした時間はあまりにも短かった…」



兄は泣いていて、妹はまだわけ分かってなくて、俺は実感が無さすぎて涙も出なかった。

きっとほとんど両親の記憶が無い妹を羨ましく思ったりした。



「なんで……なんで俺の両親が死ななきゃならなかったんだよ……」



俺はあの日から、ずっと時が止まったまんまだ。



「誰なんだよ…っ…

誰なんだよ俺の親を殺したのはっ!!」



両親の死のことで初めて感情を爆発させた。

しかしその感情は、悲しみではなく怒りだった。


そして俺は気がついた。

両親の死について未だ一度も涙が流れないのはなぜか。


俺は多分、悲しみという感情を持っていない。


その代わり、怒りとか憎しみとか、そういった感情は人一倍強いのかもしれないと。



俺の爆発的な怒りは、塩玉真珠に吸い取られていた。

これがなければ俺は今、首に下げたばかりの刀を振り回しまくって暴れていたかもしれない。


感情の制御。

人間にとって1番大切なことの1つでもあるそれを補助してくれるものが今、俺には必要だった。


塩爺はそれを知っててもしかして……




「おぬしは……大嶽丸おおたけまるを知っておるか?昴よ。」



塩爺の言葉に首を傾げる。

知らない……聞いたこともない。



「大嶽丸とは、日本最強の鬼神と言われておる奴じゃ。

鬼神魔王ともいう異名も持つ。

人間を毛嫌いしておる唯一の種族…それが大嶽丸の種族じゃ。」



「じゃっ、じゃあ俺の親殺しもそいつが……」



「その昔、大嶽丸は日本を魔国にするため悪逆無道の限りをつくした…とされている。

その時に大嶽丸の首を討った者……それが、坂上田村麻呂。

おぬしの祖先じゃよ、昴。」



俺は驚愕して言葉が出なかった。


なんだって……?

ってことはまさか……



「その坂上田村麻呂の愛刀が、おぬしが今日引き抜いたその刀じゃ。

名を、<そはやのつるぎ>と言う。」



「そはやの……剣……?」



「おぬしの父が言っていた言い伝え通りのことが、ついに起きたな。

これを使役できるものが生まれた時は、これが必要に迫られる時、そしてその時にまた力を得る。

つまりお前がその人物じゃ、坂東昴。」



俺が……最強の鬼神・大嶽丸を討ち取った坂上田村麻呂の子孫で、言い伝えの子?


だから俺には昔から、この世のものではないものが見えている……?



「っ!!まさか……」


俺は1つの真実にたどり着いてしまった。


「っ!だからその剣を持ってた両親が、そいつに殺された……」



さっきウタが、" 気付かれたのよ "って言ってたのはこのことだったのか!!


許せない……

俺の両親は事故なんかじゃなくて……

殺されていたんじゃないか……!



俺はグッとソハヤの剣を握り締めた。



「それで……今……これが必要に迫られる時が来たってことかよ…?」



塩爺は神妙な面持ちで頷いた。

そしてウタもデンも複雑な表情をしている。



「知っての通り、大嶽丸は最強の鬼神だ。

坂上田村麻呂に討たれても、数百年の時を得てまた復活した。

我々神たちが力を持っているから奴は今まで大人しくしていたが、ここ最近は我々の力が弱っていることを、奴は見抜いておるのだ。

だからまた活動を始めてきている。

最近は天災も多いじゃろう?」



「確かに……!

でっ、でもなんでアンタら神の力が弱まってきてるんだよ?」



「……人類の発展のせいじゃよ。

自然や動物を破壊し改造し、人間の信じるもの力を入れるものは科学や合理性、半道徳的なものになった。

神や祈りなどといった信仰心は凄い速さで薄れてきておる。

人々の信仰や遵奉、愛に守られてきた儂らの力はもはや今、圧倒的に弱りつつあるのじゃ。」



そんな………

だから今、俺とこの剣が必要とされたタイミングだということか…?


だからって……



「俺は……俺は自信ないっ…

突然そんなこと言われて…っ…鬼なんて相手にするなんてっ」


「ソハヤの剣と塩玉真珠、そして仲間たちがおっても、おぬしは負けると思っとるのか?」


「仲間……?」


「たくさんおるじゃろう。

我々神や妖怪たちは皆、おぬしの味方じゃ。」



俺は目の前の3人の真剣な眼光を見つめる。


そして、今更気がついた。

俺がガキの頃から仕事を通して関わっていた神や妖怪たち全員に……俺は好かれていたのだと。

これほど強い味方はいないのではないかと思った。


それに……


理不尽に俺の親を奪った奴らに敵を討ってやる。

同時に、日本を暗黒に陥れようとしているのなら尚更だ。


数百年ぶりに生まれた俺という存在。

坂上田村麻呂の子孫であり、ソハヤの剣を使役できる存在。

大嶽丸を唯一倒せる存在。それが俺。



「俺はやるよ……

絶対にそいつの首を討ち取ってみせる」



復讐してやる。両親の仇を俺が取る。



そのためにはまず、仲間を集めよう。

まるで鬼退治に行く桃太郎伝説のようだが。



俺は目の前のデンとウタを見つめながら深呼吸する、



「落ち着け俺……。こういうのは気楽に構えるもんだ。」



とりあえず……狐に狸に…爺さんに…


あと誰に声かけよう……。


いつも学校にいるあの3人もイケるかな?

鬼に天狗に座敷わらしだけど……。

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