第11話 オーラが視える


とりあえず俺らは連絡先を交換した。


俺のスマホの中に、新しい名前が追加されるのなんてどのくらいぶりだろう。

すごく不思議な感覚だけど、なんだか心が温かくなった気がした。



「か、和巳……今日はありがとうな、付き合ってくれて」


「え?いやいやこちらこそ!

同じK大志望だし、お互い合格したらさ、入学式でまた会おうよ!」



和巳は本来、とても明るくフレンドリーな性格だと知った。



「……うん。受かったら俺も、京都で一人暮らしする予定だから。」


「おっ!そっかそっか!

そしたら一緒に勉強したり遊んだりしようよ!」


「っ、そうだな。楽しみにしてる」


「うん!だから……」



最後に和巳は俺の手を握った。



「ぜっったいに合格して、また会おう!約束!」



初めて誰かと約束というものをした。

初めて、誰かと再会するという楽しみを感じた。

初めて、友達と呼べるものができた気がした。


だってあいつは絶対に、合格するはずだから。



歩いていく和巳の背中に、無事にスっと御加護の光が入っていった。




「……青春やねぇ」


「なんだそれ?美味いのか?」


「それにしても今の子……なんだか妙なオーラが……」


「オイラも、ちぃっと思った。あいつ何者だ?」



後ろで聞こえるミッチーとデンの声に、俺はバッと振り返る。


「おい!さっきの飴ちゃんの作り方教えろ!」


「っ、なんやいきなり〜。しかも神様に向かってそんな頼み事の仕方をする人間なんぞ見たことも聞いたこともないんやけど」


「だってあんな便利なもん持ってたんならもっと早く教えてくれたって良かっただろ?!

なんで今まで黙ってたんだよ!ドケチ!」


「なんやて?!大阪民にドケチとは失礼なっ!」


「まぁまぁ良いじゃねーかそんなもん教えてやりゃあ。」


「狐大神様……っ、ちゅーか……

教えたところでアンタにはできひんよ昴くん」


「は?なんだって?」


「アレはな、まずあらゆる人間から負の感情を集めなくてはならん。

怒り、悲しみ、不安、孤独、恥、憎悪、嫉妬、……まぁ人間の負の感情なんて無限やから取り尽くせんがね。」


「……ていうか……

それが集められんなら負を取り除けるってことだから、わざわざ飴なんか作んなくてもそれだけやってれば小妖怪は憑かないんじゃね?」


だったら初めからさっきのもミッチーが取ってれば……



「そうじゃないんよ。

小妖怪が憑く人間は、負の感情を神の元に持ってきた者だけなんや。

昴、アンタも多少、人のオーラが視えるやろ」


「……まぁ。」


実は俺は昔から、人間のオーラが結構視える。

人は常にそれを出していて、人によってベースの色は違うが、感情によって色も形も変化する。

かなり注視しないと視えないが、負のオーラがヤバい奴は、まぁ何度も見てきた。


だからこそ俺は人の感情の動きに非常に敏感で、

昔から人と関わるのが苦手な所以だ。


自分の言葉や行動1つでいとも簡単に変わるから、それを見たり感じたりしてごちゃごちゃ考えながら人と接することになってしまうからだ。



「人の負のオーラは、普段何色だ?」


「まぁ……怒ってる時は赤とか……悲しい時は水色……不安な時とかは紫だったりもするかな」


「せや。だがそれを持って神社や神のいる場所で何かを祈った時、

それは"呪い"になる。」


「のっ、呪い……?」


聞きなれない言葉、いや、嫌な言葉すぎて聞き慣れてはいけない言葉だ。


「呪いとなったとき、それは黒になる。

黒は魔性の色。どんな色でも塗り潰す。

その強力さを求めて酔いしれるのが小妖怪の特徴なんや。」


小妖怪は大昔、その微弱さ故に、様々な妖怪にバカにされ虐げられてきたという歴史があると聞いた。

だからこそ、こんにちに至るまで力に執着する習性がついてしまっているらしい。



「ふーん。まぁそんなことはどうでもいいからさ」


「ええんかいっ」


「肝心のその、負の集め方を教えてよ」


「む……まぁはじめに言うたようにアンタに教えてもできひんと思うけど?」


「なんでだよ」


「なんたってそれは神の力やから!!

アンタそれでも一応人なんやから神の力なんて無いやろ?!」


「いっ、一応ってなんだよ!ムカつくないちいち!

そんなんだったらもう仕事手伝ってやんないぞ?!」


「なんやて?!それは困る!!」


「じゃあつべこべ言ってないで教えろよ俺でもできるやり方を!

そーすりゃこっちの仕事の効率も上がるんだよ!」


「あっ」


「あっ、てアホかよ!そっちこそホントに神かよ」


ミッチーは、うーむと唸りながら何かを考えたかと思えば、ポンッと手を叩いた。


「せやせや!ほんならあのお方んとこ行ったらええ!

宮城県の塩釜神社ゆーてな、そこの塩老翁神しおおじのかみ様に塩を多量にもろてこい。」


「み……宮城県……」


俺の心臓がドクッと跳ね、嫌な汗が湧いた。

背筋が異様に冷える。


「やけん、その塩の恩恵はすんごいぞ〜!

塩は古来から、邪気悪気、穢れを禊ぎ祓うとされとる。

そん中でも塩老翁神さんの塩は頂点!

それを使って昴が人の負を集めりゃあ簡単な話よ」


「………。」


なんだか短絡的に他の神任せにしている気もするが、まぁいい。

行くのはクソメンドイけど、やってみる価値はありそうだ。


それに……


行ったことないしな。宮城県……。


いや……俺が一方的に避けていただけだが。

良い機会かもしれない。



「宮城県んん?!オイラ聞いたことがあるぞ!

確かうんめー食いもんがいっぱいある所だろ?!

よしっ!行くぞ昴っ!」


デンはボンッとデカくなり、目をキラキラと輝かせはじめた。

俺はため息1つついて、首を振る。


「今はダメだ。こっちの仕事すらまだちょっと残ってるし、これ片付けたら一旦帰る!

宮城県はまた後日だ!」


ブーブー文句を言っているデンに乗り、とりあえず仕事を済ませて東京に帰った。

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