第10話 参拝のこだわり
そうして本日二度目の大阪天満宮へと到着してしまった。
「チッ。めんどくせーな」
「俺だって同じだよ!」
肩の上でダラケているデンにボソリと愚痴られ、イラッとする。
「ん?なんか言った?昴」
「いやいや言ってない言ってない。
おぉ……立派だなぁ、ここは〜」
「そうだろ?なんか想像しちゃうよな、こういうところに祀られてる神様ってどんなかって」
「…………。」
知ったら確実に嫌いになるだろうな。
なにしろ俺をズル合格させようと自ら推薦してきたような神なんだから。
しかも超面倒くさがりのお調子者ミッチーさんなんだからな。
にしてもこいつら……
俺はギロリと和巳に憑いてる小妖怪共を睨む。
俺の視線にビクッとするわりには絶対に和巳から離れずその負のオーラを満喫している。
こいつらは実際、大人しくて悪い奴らじゃない。
俺もガキの頃はしょっちゅうコイツらと遊んだし、本来はただのイタズラ好きの可愛い妖怪たちだ。
ただしそこが問題だ。
負のオーラが大好物なので、そういったものを撒き散らしているような奴に取り憑いてはイタズラをしたりする。
たとえばそう……こんなふうに……
「あーっ!うっぜー!なんっかイラついてきた!」
バコンっ!
「ちょちょっと!和巳!!ダメだろ境内を蹴ったりしちゃあ!」
「あっ!ごめんついっ!
なんだか最近そういうズルしてる人間のこと考えるとイライラしちゃってさー。正直あまり勉強も捗らないし、何かに八つ当たりしたくなっちゃうんだよなぁ……」
そう。
こういったものも、妖怪たちの影響なのだ。
実際今、そんな和巳を見てクスクス笑っている。
「じゃ、じゃーとりあえず、御参りしよっか」
「あっ、だめだよ昴!そこは通っちゃ!」
「えっ、なんで?」
そのまま鳥居をくぐって歩き出す俺を、和巳は止めた。
「ちゃんとした正しい参拝の仕方知らないの?」
「えっ、知らない。そんなのあんの?」
「あるよ!まずね、参道の真ん中は正中と呼ばれてて、神様の通る道なんだよ。
だからここを避けて、少し左右に寄って歩かないとダメなの」
「えっマジ?」
「そもそも鳥居も、一礼してからくぐらなきゃダメなんだからね!」
「……。」
そんなこと……初耳なんですけど。
てゆーか俺長いことこの仕事してきてるけど、今までなぁんも考えずに余裕でど真ん中歩いてたけど?
なんなら超走ってたけど?
「んで、次にここの手水舎で心身を清める。
まずはハンカチを出して。」
「あ……うん……」
俺は和巳に習ってハンカチを出し、傍に置いた。
「そんで、右手でひしゃくを持って左手を洗う。
そしたら今度は左手に持ち替えて右手を洗うんだ。」
俺は和巳の動作をぎこちなく真似をする。
俺って……今までこんな神社の作法なんて気にしたこともなかったし、なんならこんなことすんの初めてなんだけど?
「あぁっ!ダメだよ昴!」
ビクゥッ!
「洗った水が水盤の中に戻らないようにしないと!
それに!水汲みすぎ!
使う水は1つの動作ごとに1/3が目安なんだ!」
「すっ、すいやせん……」
めっ、めんどっくせーっ!
なんなんだよこの儀式!
一体全体誰が考えたんだよ全く!!
あの面倒くさがりの神々が考えたとは到底思えない!!
「そしたら最後に右手に持ち替えて、左の手のひらに水を受けて、口をすすぐ。
その時ひしゃくに直接口を付けないこと!
含んだ水を出すときは膝をかがめて、左手で口元を隠すようにね!」
「はい……」
まだまだ和巳は何かを喋っていたが、俺はなんとかここまでこなし、ようやくメインの賽銭箱まで行くことが出来た。
うわぁ……なんかもうドッと疲れたんだけど。
まだ参拝すらしてないのに。
「お賽銭箱の上に鈴があるときはね、まずは鳴らすといいよ。
この音色で、参拝者を祓い清めるという意味があるらしくて、自身のお参りの気持ちを整えるという過程でもある」
「へぇ……」
ガランガランッ
2人で鈴を鳴らした。
お参りの気持ちなんて整えるも何も……
なんならお参り自体ほとんどしたことねーかも。
「お賽銭は投げ入れることで穢れを祓うって意味もあるらしいよ。
あ、二礼二拍手一礼は分かるよね?」
「あぁ、そのくらいは……うん。」
まぁなんとなくは知ってた……と思う。
ようやく参拝を終え、ため息を吐きながら隣をふと見ると、なんと和巳はまだ手を合わせて一生懸命に祈っている。
ますます負のオーラが滾っているのか、小妖怪たちは飛び跳ねている。
「なぁ、デン……
マジでこいつら追っ払ってよ。
やれば出来るだろ。」
俺はコソッとデンに言ってみたのだが、案の定、
「追っ払うのは簡単だがそれじゃ意味ねぇことくらいお前も知ってんだろ。
こいつの持つ感情を消さない限りはまたどっかでコイツらみてぇのが憑くんだよ」
「じゃあどうしろってんだよ!
和巳はこんなに神社熱心なちゃんとした奴なんだぞ!お前も見てただろ?!
それでいてこのまま恩恵を受け取れないなんて可哀想じゃんか!」
その時……
「よおっ!昴くんっ!
戻ってきてたんかぁ〜?!
なんじゃ〜まだ仕事足りひんかったか〜?
ならっ」
「違っ……!」
俺はまだ祈り続けている和巳を横目に急いでミッチーの元へ行った。
「見てあれ!あの人!分かるだろ?!
どーにかしてくれ!いや、しろ!!神として!」
「んん〜……?」と言いながらミッチーは和巳を凝視した。
「ほぅ……なるほどのぅ。
儂にそんな呪いじみた願いを……のぅ」
「呑気な態度はもう充分だから!
俺はどうしてもアイツを合格させてやりたいんだ!」
すると、ミッチーもデンも驚いた顔をして俺を見た。
「……ん?は?なに?」
「いや……昴くんが人間の誰かのためにそんな必死になってんの初めて見たから」
「おう、テメェはいっつも他人のことなんて興味持たねーし、どーでもいい精神の野郎じゃねぇか」
「なっ……」
なんだよそのどーしようも無いクズ野郎みたいな言い方!
馬鹿にしてんのか?!
まぁ間違っちゃいないけど……!
「でもアイツ……すげー真面目なんだよ。
俺と違って正義感も強いんだ。
そんな奴に悔しい思いはさせたくないだろ……」
ついそう呟くと、ミッチーは少し沈思したあと頷いた。
「仕方がないのぅ……そんならコレ、やる。」
「………。」
は?
「……馬鹿に……」
「ん?」
「馬鹿にしてんのかぁオイッ?!
いくら神様だからって怒るぞ!!」
俺は渡されたキャンディーをバシンッと振り払った。
「ガキじゃねぇんだぞ俺はっ!
こんな飴ちゃんで俺のご機嫌取りか?!」
「へ?あぁいや、ちゃうちゃう!ハハハッ
これは妖怪たちの好物で、飴ちゃんちゃうよ。
コレは
「かげ……たま?」
「コレはな、人間から出る憎悪厭悪といった負の感情を玉にしたもんなんや。
これをあやつらにやりゃあええわけよ」
俺はまだ煮え切らない表情でそれを受け取り、つかつかと和巳の元へ行った。
「………。」
つーかまだ祈ってるし……。
さすがに長すぎだろ。どんだけなんだコイツも。
まぁいーや。
こんな飴玉みたいのが使えるとは思えないし、ミッチーのことだからまた冗談とか言って俺を揶揄うだけかもしれないけど。もー普通にめんどくせえ。
俺は和巳の背後にそっと飴を差し出した。
シュッー……!!
「えぇっ?!」
飴は一瞬で手から奪われ、小妖怪たちはそれを持ってどこかへ消えて行ってしまった。
「……ん?あれ……?どうかした?昴」
「えっ?!あ、いや……なんでもない。
お祈りは済んだのか?」
「あー、うん……あれ、なんか……妙に長いことここにいたような……」
「う、うん、かなーーーり長かったぜ」
あんなに熱心に何かを祈り続けていた和巳はケロッとしていて頭に疑問符すら浮かべている感じだ。
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