第9話 佐渡和巳との出会い



大阪の学業の神、大阪道天満宮の菅原道満さん、通称ミッチーに押し付けられた仕事を次々とこなしていく俺、偉い。

いつも勝手気ままな神々の仕事をこなしてる俺すげー偉い。偉すぎる。


誰も褒めてくれないから、よく自分で自分を褒めている。



「はぁ……次はあそこの図書館か……」


俺がかけている特殊なゴーグルは、俺が回らなくてはならない参拝者たちの居場所がわかるという大層な優れものだ。

ちなみにこれは昔、あのときの猫探しの一件(正体はこの食いしん坊狐だったわけだが)でお礼として彦から貰ったものだ。


今、ゴーグルを通して見ると、参拝者の赤い点がいくつも図書館に集まっているのが見えた。



「まぁ確かに……勉強するときってなぜかみーんな図書館とか使うから、結構受験生の溜まり場なんだよな」



俺はラッキー♪と思った。

1箇所に纏まっててくれりゃあ、これほど楽なことはない。

一人一人律儀に回ってられるか!



俺は図書館に降り立ち、小さくなって肩に乗ってくるデンと共に中に入った。



「わお……」


相変わらずすっげー雰囲気だな。

みんな超真剣な表情でペンを走らせたり、難しい顔して本とにらめっこしていたりする。


「いやぁ、頑張ってるなぁ皆」


って他人事みたいに言ってるけど、本来なら俺もここにいて皆と同じようにガリ勉してなきゃなんない立場なんだけども。


「うーん……なぁ、どっちが楽なんだろうな。

こうして受験勉強に必死こくのと、こうして神仕事に必死こくの。」


「さぁな。受験勉強とやらはしたことないから分からん。

だがオイラから見ても、コレん時の人間は苦しそうだな。

本当に死んじまうんじゃねぇかってくらい死にものぐるいだ。落ちたらこの世のオワリだってくらいにな。

たかが勉強如きに命かけてて笑えるぜ人間ってのは」



「まぁ……そうなんだけどさぁ。

日本ってほら、学歴社会だからさ。

たかが勉強っていったって、人生がかかってるんだよ。」


「人生だあ?」


「いやホントに。

いっぱい勉強して、良い成績おさめないと良い高校、大学に入れない。そうなると良い給料の良い仕事に就けない。

結果的に、良い結婚、家族、人生には恵まれないんだよ。

まさに、勉強ができないとお先真っ暗ってやつさ」


「ほーお。難儀だなぁ人間ってぇのは。

オイラ人間じゃなくて本当に良かったぜぇ」


「あぁ、羨ましいよ。

特にお前みたいなただの食いしん坊グルメ狐神は。」


「はっは〜ん。だろぉ?」


「いや皮肉なんだけど……なんでも前向きに受け取るところも羨ましいよ……」



とりあえず怪しまれないよう極力隅のほうに立ち、ミッチーから渡された「祈り玉」を取り出す。

それを両手で包み、目を瞑った。



「汝が望みを聞き給えり。神代わりとして余が汝に恩恵給うるものなり。かむながら守り給い、さきわえ給え…」


小さくそう唱えると、その玉から四方八方に光が散っていき、対象の人間たちに浸透していった。


そうして玉は一気に小さくなったため、俺はほくそ笑む。


「よっしゃ!もー少しで終わる!

だからこういう一気にできる場所は楽なんだよな〜

よっし、デン、次行くぞ次。

んで京都のあの人にバレる前にとっとと終わらせて」


「おいこら待て昴」


「あん?」


デンが指す方向を見て、俺はげんなりする。


……嘘だろ?

こんなクソ忙しい時に!迷惑極まりないなマジで!



「……無視じゃダメ?……だよな……はぁ〜」



一人の眼鏡をかけたガリ勉くんにだけ、なぜか光が浸透できず、光は困ったようにガリ勉の周りを彷徨いていた。


こういった事態だと、原因はだいたい決まっている。


俺はつかつかとガリ勉君の元へ近付いた。



「は……やっぱり……」


そのガリ勉くんには、よく見ると小さな妖怪たちが何匹か取り憑いていた。


たまにあるのだ。というか、わりとある。


あまりにも強過ぎる念や、違和感がある念、負の念的なものは、神々の御加護からは爪弾きにされる。

そうして行き場を無くした念は、妖怪たちの餌になるのだ。



「…えっと………はい?あのぉ…なにか…?」


ガリ勉くんは、ジッと睨んでいる俺に気がついて困惑している。


「あぁ、すみません、突然。

えぇっと……ん?あ!キミもK大受けるんだ?」


俺はこの人の手元の赤本を見て言った。


「あ、うん。キミも?

……いいなぁキミは。なんだか余裕そうで。

さぞかし自信があるんだろうね」


「え?アハハ……まぁ……」


そう!俺は合格100パーセント!

なぜなら神の力によってズルをするから!!


なんてこと……絶対に言えない。



「あ…あのさ……最近、大阪道天満宮に御参りに行った?」


「え?あそこなら毎日行ってるけど」


「えぇ!!毎日!?」


「しぃ〜……」


人差し指を立てられ、周りの人間がチラチラ見てくることに気付く。

俺はつい大声を出してしまった口を急いで塞いだ。


でも毎日って……

どんだけ執念深いんだよ、怖いな受験生……



「あそこの神社は……

まぁいいっぽいよね、有名だし。

なんたって、ミッ、いや、菅原道満さんだし」


「うん。それがどうかしたの?」


「……あー、どんなふうに祈ったのかなぁって。

俺も行ってみようと思ってさ。

だから参考までに……。」


「あぁ、僕は塾のライバルも多いから、そのライバルたちが全員落ちるように祈ったね。」


「えっ」


「キミ知ってる?

大学って結構、卒業生が親だと優先的に入れたり、コネ入学も推薦してたりするらしいんだ。」


「そうなの?!」


「うん。ムカつくだろ。

そういうズル人間大嫌いなんだよ。

だから全員バチが当たれってね。

神様ならズルを許さないから、神社でチクったんだ」



俺はズゥゥーンと気持ちが重たくなり、なんとも言葉が出なくなった。


なぜなら言うまでもなく、自分もズル人間なうえに、それを提案した神はもっとズル神だ。


こんなカオスな状況ってあるだろうか……。


マジで何も言えない……



「僕は何がなんでも受かりたいんだ。

そういう奴らとは違って、ちゃんと真面目に勉強してるし、親の期待も裏切りたくない。」



「……うん。そうだよね。

きっとキミは合格するよ。

それに……そういう奴らはきっと、大学入ってもあまり良いことが起きなそう…」



自分で言っといて辛くなってきたな〜……

形は違うにせよ、そういうズルしてる奴らと俺は同レベルって感じだしな……

そういう奴らにバチが当たるなら、俺にも当たらないとおかしい話だ。



チラとガリ勉くんを見て、まだ離れていない妖怪たちにため息を吐く。


こういった場合、本人の気持ちが納得するまで念は消えないため、小妖怪も取り憑いたままだ。



「ところで、俺の名前は昴。坂東昴。

君は〜?」


「あぁ僕は佐渡和巳さわたりかずみ

坂東くんは東京の人?」


「えっ、なんで分かったの?!てか昴でいいよ」


「だって方言……。じゃあ僕のことも和巳って呼んで。」


「てことは……あれ?

和巳も大阪弁じゃないよな?」


「うん。実は俺も元々は東京出身でさ。

中学から親の転勤でこっちに移ったんだよ。」


そう言って和巳はメガネを取った。


えっ!?

とつい声を出しそうになる。


なぜならメガネを取った和巳は死ぬほどイケメンだったからだ。


なんだコイツ!眩しい!なんかムカつく!



「で、昴はなにしに大阪に?」


「え……あ、あぁえっと……俺も大阪道天満宮にちょっとね……」


「じゃあ今から行く?

僕もそろそろ勉強終えようとしてたとこだし、今日はまだ御参り行けてないし」



ということで、本当に和巳とそこへ戻ることになってしまった。

まさかまた行かなきゃならないなんて……。

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