第32話 さらなる刺客
「会長。バードウォッチング部の報告によりますと、サッカー部は全滅。
「あれだけの人数でかかって、一人倒すのがやっとだなんて。……サッカー部の部費は半減っと」
生徒会長・
「……こんな時にそんなことしてていいんですか?」
「こうでもしてないと怒りが収まらないのよ。それより、
「ええ……、そのはずなんですけど」
副会長は言葉を濁す。
「そのはずだけど、なに?」
「哲学フィールドを作った後消えてし、それ以降全く姿が見えないそうなんですよ」
「……全く、役に立たない連中ばかりね」
バキッ
あまりに力がこもり過ぎたため、予算書の上を走らせていた鉛筆が折れた。鉛筆の芯ではなく、鉛筆自体が。
『おおー、コワー。女のヒステリーには近寄らんのが一番だナ』
麗奈のギラリとした目が、その声を発した者──正確にはその者が持つ腹話術の人形──の方に向けられる。
「何か言った?」
「……僕は何も言ってないよ」
抑揚のない声で人形を抱えた生徒──腹話術部部長、
もっとも、操にとって腹話術人形みーくんの言葉はもはや別人格の言葉であるため、本気でそう思っているのだが。
「言っておくけど、あなただってすでに一度失敗をしているのよ!」
「……あれは失敗じゃないよ。相手が阿仁盟子だけなら僕が勝っていたんだから」
『そうダ。途中で何者かに邪魔されなかったら、あそこでケリはついてたゼ!』
相変わらずの一人二役返答に、勢いこんで言った麗奈は多少気勢をそがれる。
「ふーん。そこまで言うのなら、次にやれば確実に勝てるんでしょうね?」
「……僕はほかの人達とは違うよ」
「ならば、やってみせて。ただし、今度の相手は阿仁盟子だけじゃないわよ。空野彼方、大手品緒。その二人もいることを忘れないで」
「……わかってるよ」
操は躍動感のない動きで、椅子から立ち上がった。
『オッシ! 行くぜ、操!』
「……うん」
人形と会話しながら覇気の感じられない姿で歩いて行く操を見て、麗奈の頭に「こんなので本当に大丈夫だろうか」という不安感がよぎる。……ただ、敵にはしたくない相手だとは思ったが。──色々な意味で。
「会長、果たして彼一人で大丈夫でしょうか?」
麗奈の気持ちを察してか、それともただの思いつきでかはわからないが、副会長が口を挟んだ。
『オイ! それはどういう意味なんだヨ!?』
「……だいたい、僕は一人じゃないよ。みーくんと僕とで二人だよ、二人」
声を張らせて怒るみーくんと、上目遣いに睨みつける操とのダブル攻撃に気圧される副会長だったが、持ち前のしたたかさでそれに耐える。
「別にあなた達に実力がないと言っているわけじゃありませんよ。あなたの力は阿仁盟子以上だと思いますし」
その言葉でみーくんと操の顔が多少和らぐ。
「でも、相手はクラブマスター三人。いくらあなたが強くても、三人が相手では苦戦は免れないんじゃないでしょうか? だいたい、今まで送り込んだ刺客が個々の能力では決して引けを取らないにもかかわらずここまで負け続けているのも、手柄を独り占めにしようと、一人で全員を相手にしようとしたためだと私は思います」
「確かに、あなたの言うことも一理あるわね」
副会長の珍しくまともな発言に、麗奈が驚きの顔を見せつつうなずく。
「だったら、私が操君と一緒に行きましょうか?」
そう声をかけてきたのは、操以外にもう一人残っているクラブマスター。
「そうね。そうして──」
「待ってください」
了承しようとした麗奈を止めたのは副会長。
「私の知り合いにも、力のあるクラブマスターがいます。その人に頼みましょう!」
「強いんでしょうね?」
胡散臭そうな麗奈の目が副会長に向く。
「それは私が保証します。それより、もしもうまくいったら、その人のクラブの部費を上げてもらえます?」
「それはいいけど……、何部なの?」
「文学部です」
「クラブマスターの名前は?」
「そ、それより、私はその人を呼びに行ってきます!」
麗奈の質問に、何故か急に慌て出す副会長。麗奈も不審には思ったが、あえて深く追及する気にはならなかった。
「そう。それじゃあ、お願いね」
「はい! それじゃあ、操さん。私はその人を呼んで来ますので、あなたは先に空野彼方達の所へ向かってください」
「……わかったよ」
『ヘヘッ。その文学部のヤツが来る前に、もう決着がついてるかも知れないけどナ』
頼もしいのか、状況が理解できていないのかわからないそのセリフを聞くと、副会長は一つうなずいた後、急いで生徒会室から出て廊下を走って行った。
それに続いて、みーくんを連れた操も戦いの場へと向かった。
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