第10話 天文部対アニメ同好会

「どう? あたしの力は?」

「ただのコスプレではなく、キャラクターの能力ちからまでも身につけてしまうということか」

「ピンポーン」

「なかなかおもしろい技ではあるな。だが、所詮は人のコピーをするだけの技。天文部の技の前では児戯に等しい!」


 彼方の気合が上昇するのにともない、周囲の宇宙空間の星星の光度が増して行く。


「すさまじいクラブパワーね。肌にビンビンくるわ」


 誰が名付けたか、クラブに命をかけた人間のそのクラブにかける情熱の力、それをクラブパワーと呼ぶ。

 そのパワーのほとばしりを感じて、身構える盟子の体に力が入る。


「天文部必殺! 地球百烈拳!」


 今朝、五人の風紀委員をいとも簡単に撃滅した必殺技を繰り出す彼方。青い輝きを放つ地球が流星のように盟子に向かって突き進む。


「甘い! その技はすでに見せてもらったわ!」


 盟子は何を思ったか、急に片膝をついてしゃがみ込み、両手を地面に着けた。


「ファイヤー・ウォール!」


 そしてパッと立ち上がり、それと同時に両手とも上にあげて万歳するような格好をした。すると、彼女の正面に、下から炎の壁が素早く沸き上がってくる。それはまるで地面を裂いてせり上がってくる某妖怪アニメの「ぬりかべ」のよう。

 術者を守る盾と化したその炎の障壁の前に、青い星はあえなく弾き返された。


「フフッ。聖闘士セイントには一度見せた技は通用しないのよ」

「それのどこが聖闘士聖闘士だ! 別のキャラクター入ってるじゃねぇか!」


 セーラー月のことはよく知らなくても、昔流行った少年向けアニメのことには、彼方も詳しかった。アンドロメダのファン。さらに、髪の毛座の聖闘士が出てきたらどんな聖衣クロス着てるんだろうな、と疑問に思ってたことは内緒である。


「ええっ! セーラー火星って~聖闘士セイントだったんですか~」

「違う、違う──なんてつっこんでる場合じゃない! 阿仁盟子とかいったな。この程度で天文部の技を見切った思うなよ」


 とろりんの天然ボケに引っ張られそうになのに耐え、彼方はマジモードに戻る。


「今のはあんたの実力を探るための攻撃に過ぎない。つまり、今のであんたの技の弱点は見切ったということだ」

「へぇー。それは楽しみね。教えてもらえるかしら?」

「いいとも。……しかし、この場所でこのまま戦うのだけは避けたいな」


 今は消えている炎の壁がさっきまで出ていた宇宙空間を切なげに見つめる彼方。見た目は何の変化もない宇宙だが、そこからは焼け焦げた臭いが漂ってくる。宇宙空間を解けば、焦げた床が出てくるのは間違いない。


「表でケリをつけよう」

「……いいわよ」


 盟子の答えを聞いた彼方は一つ頷くと、宇宙空間──名付けるなら、天文フィールド──を解除し、元の部室に戻した。案の定、床の一部が黒く焦げている。

 それを見て溜息一ついた彼方は、少し肩を落としながら窓際まで歩いて行き、窓枠に片手をかけると、軽やかにそれを跳び越えて校庭に出た。


 盟子はコスプレで能力が上がっているのか、手もつかずに跳んで窓を越える。


 とろりんは窓から出て行った二人と窓とをキョロキョロ見ていたが、やがて自分がそこから出るのは無理と判断し、ドアから廊下へ出て昇降口の方へ向かった。

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