第11話 タキシードの援軍

 とろりんが遠回りをしている間に、彼方と盟子は校庭で相対していた。


「望み通り表に出てあげたんだから、次はあなたがあたしの技の弱点を教えてくれる番よ」

「いいだろう」


 今度は校庭に天文フィールドを広げると、彼方は指をパチンと鳴らし、水星、金星、地球、火星の四つの地球型惑星を呼び出し、盟子の前後左右の四方に配置した。


「あんたのさっきの技は自分の正面にしか作れない。そして一度に複数作るのは不可能とみた」


 四つの惑星が盟子を中心にしてゆっくりと円運動を始めた。初めはたいしたことのない速度だったが、次第にスピードを増して行く。

 囲まれた盟子はチラチラと周回する惑星に目をやる。


「もし全方位から同時に攻撃を受ければどうなるかな?」


 しかし、彼方の話を聞きいても盟子は平然とした顔で、先程と同じようにしゃがみ込んで地面に手を着く。


「……おとなしく降伏すればいいものを。天文部必殺! 地球型惑星四連撃!!」


 盟子の周囲三百六十度から四つの惑星が飛びかかって行く。どう考えてもそれらすべてを防ぐのは不可能──のはずだった。


「フィヤー・ウォールR!」


 盟子が立ち上がりながら両手を上げる。だが、先ほどとは違う点が一つ。それは彼女がトルネードのように回転しながら立ち上がったということ!


「何っ?」


 彼方は前回と違う炎の障壁に驚愕する。

 今度の炎は、螺旋状に盟子の体をすべて隠すように立ち上ってきたのだ。そして、万全を期して放ったはずの四つの惑星は、その炎にあっけなく弾き返される。


「ほーっほっほ。アニメ同好会にこの人ありとまで言われた阿仁盟子の力、甘くみないで欲しいわね」


 薄れゆく螺旋炎の中から再び姿を現す盟子。それはまるで炎の羽衣を纏った天女のよう。


「じゃあ、そろそろ本気でいかせてもらおうかしら」

「くぅっ」


 唇を噛みながら盟子を凝視する彼方。ただのコスプレイヤーにしか見えないこの女が、ハワイで苦しい修行の末に天文部奥義に目覚めた自分と互角以上に渡り合っているという現実は、彼方のプライドを傷つける。


「悪いけど、アニメ同好会のために天文部には潰れてもらうわよ」


 盟子が一歩踏み出した。


「ちょっと待って下さい!」


 その時、対峙する二人の横手から叫ぶ声が一つ。いきなりのことに、全員の目が一斉にそちらに向く。もちろん後から駆けつけて、いつの間にか少し離れた所から二人の戦いを見つめていたとろりんの目も。


 その三人の視線の先に立っていたのは、今の校則では違反となる黒のタキシードに身を包んだ、ジャニーズ系の人懐っこい顔をしているもののどこか抜け目のなさそうな雰囲気を持った男子生徒。


「お前は!」


 その男子を見て、彼方は隠そうともせずに嫌悪感丸出しの表情を浮かべた。また、盟子は盟子で驚きの表情を浮かべている。


「あなたは! もしかして、タキシード仮面様!?」


 盟子以外の三人がすっ転ぶ。


「なんでやねん!……ってそれが誰だかよく知らないけど」

「そうですよ~、仮面を~してないじゃないですか」

「いや、そういう問題でもないと思うが……」


「ちょっと言ってみただけよ! 私だってそいつのことくらいわかってるわよ。マジック部部長、大手品緒(おおて しなお)。ある意味有名人だからね」

(今回学校側から嫌がらせを受けているにもかかわらず、けろりとしてクラブを続けている問題児としてね)


 そう心の中で付け加える。


(そうなると、ここで一緒に始末すれば、あたしの功績はさらに上がるってわけか)


 そこまで考えて、盟子は一人ほくそ笑む。


「それで、お前、一体何の用だ?」


 彼方の声は実に苛立たしげだった。


「何の用だはないでしょ、彼方君。親友のピンチを見かねて、わざわざ助けてに来たんですから」

「うるさい! お前みたいな変態を親友だと思ったことは一度もない!」


「照れることないですよ。僕達は幼なじみで大の親友なんですから」

「違う! 今まで腐れ縁で付き合ってきただけだ!」


「ははは、無理しなくてもいいんですって」

「無理してるんじゃない! 心底嫌がってるんだ!」


「隠さなくたって大丈夫ですよ。もう長い付き合いなんですから、彼方君の気持ちくらい手に取るようにわかりますから」

「……この男は」


 頭を抱える彼方。この男と一緒にいると彼方はいつも頭痛に悩まされる。

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