第25話 湯浅シサと演劇部③
その日初めて演劇部の部室に足を踏み入れた。
事前に顧問の先生に連絡はとっていた。アポなしで訪ねても問題がないと。
リュウジ君を攻略するためには、彼が普段活動している演劇部に入部しないわけにはいかない。
……入室直後、私はその部屋にいる人々に凶兆を見出してしまう。
(まさか……こんなにも……!)
ーー数週間前、私はクラスメイトにこの学校の演劇部についてたずねた。
彼女たちは口を揃えてこう言った。
「演劇部は美人揃い」であると。
「女の私でも見蕩れちゃうくらいみんなきれい」と。
だが話半分のつもりだった。大袈裟な表現を使って私を驚かせたいに違いない、そう過信していた。
この眼で確かめてみて納得ができた。
演劇部の女子部員、5名全員が誰もが振り返るような美少女。それぞれが異なった系統の美しさ、かわいらしさを有していて、観る者に強い印象を残す。
演劇集団というよりもアイドルグループと表現したくなるようなメンバーがそろっていた。これは何かの奇跡なのだろうか……。
たとえば近衛焉さん。
たとえば嵯峨愛子さん。
この二名に限ってもスタイルが良く整った顔立ちをしていて、そしてなにより自分の魅力というものを自覚している女性だった。つまり男性が放っておくはずがない美女なのだ。残る三名も同様だ。
したがって……
こんな美貌の持ち主たちとたった一人の男子部員であるリュウジ君との間に色恋沙汰が発生しないはずがないのだ。私は恐れている。自分が遅れてきてしまったことに。すでに敗色濃厚な状況からゲームがスタートしてしまっている可能性……。
稽古の休憩中、私は意を決してリュウジ君に話しかける。
「毎日部活動に参加して、大会もあって、校外で活動されることもあるのでしょう? 単純接触効果ですよ。最初はそういう感情がなくても、会っているうちに相手に好意をもつことがあるんじゃないですか?」
「好意?」
「リュウジ君のほうからにせよ、部員の誰かにせよ」
リュウジ君は手を横に振る。
「ないないない」
「みなさんとはどういった関係にあるんですか?」
その言葉を発したあとで、私は自分の卑怯さを認識してしまった。
「近衛さんは芝居のことに夢中で俺のことはただの道具としか見てないよ。男がいるとなにかと便利なときがあるからね。嵯峨さんは俺のことを舎弟とでも思ってるんじゃない? そもそもあの人彼氏いるし」
「他のお三方は?」
「お三方って表現きいたことないな……前提としてさ、みんな恋愛に夢中になっているって世界観がおかしいと思うのよ」
「みなさんあんなきれいなのに……」
「顔がいいからって恋人が欲しいとなるかな……。高校生なんてまだみんな子供だよ。フィクションの読みすぎじゃない?」
私は首を振る。
「恋愛感情は瞬間的なもので、理屈じゃないんです。リュウジ君は自分が魅力的であることを自覚してないんですか?」
「サッカーやってたことで部内で褒められたことなんてないよ。演劇と関係ないじゃん」
「充分惹かれる要素ですよ……リュウジ君のほうがそう考えてなくても、女性陣の方々が懸想している可能性はあると思いますね」
「難しい表現使うねシサ……」
リュウジ君は言葉を濁したが、演劇部という男女が混成したグループに恋愛関係が発生しないことは不自然に思えてならない。今までそういう出来事が起こらなかったことがありえないと思えるほど。
だから私は思う。
残された時間は少ない。
できるだけ速やかにリュウジ君を私のものにして、
そしてその事実を適切な形で部員のみなさんの間に周知させようと。
公然とした形でリュウジ君を恋人にしてしまおうと。力こそが正義だ。
※※
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